異世界転移、神を殺して元の世界に帰って終了
ゆむ
第1話
「ご逝去あそばせ。」
大魔道の腕が神の胸を正面から貫いた。
ずるりと引き抜いた小さな手には、心臓が握られている。
「よ、よせ……! 止めるんだああああ!」
神、パンツォヌゥゲは悲痛な声で叫ぶ。
邪悪な薄笑いを浮かべ、大魔道はその手の内の心臓握り潰し、あふれ出る血を飲み込んだ。
神は声も出せずに崩れ落ち、塵と化していく。
大魔道は部屋の隅のパソコンに向かうと、開かれている画面見てマウスを操作する。
【完結済】
表示されていた小説のステータスを変更し、画面を閉じた。
「これで、よし。」
大魔道はパソコンを破壊すると部屋を後にする。
こうして、『パンツを脱ぎたまえ』は終わることになった。
ゲレミクに戻った碓氷優喜たちは、宮殿の残骸を掘り返し、生存者の救出を急いでいる。
掘り返すと言っても、ほぼ全ての作業は魔法で行っている。
もとから得意としている土魔法に加え、大魔道からの指導で、重力遮断も扱えるようになった碓氷優喜たちの瓦礫除去のスピードはとても早い。
パワーショベルやブルドーザーなどとは比較にならない。数トンの瓦礫が腕の一振りで宙に浮き、まとめて横に飛ばされていくのだ。
救助された人たちも目を白黒させ、その様子を眺めていた。
宮殿警護の騎士団や近衛兵たちは、自分たちが救助されると直ぐに、他の者の救助や手当に奔走し始める。
皇帝や皇后たちが幼子を抱えながら救助活動をしているのに、黙っている兵などこの宮殿にはいないのだろう。
宮省や中央省などの文官たちも、役職や立場など関係なく次々と救助されてくる。
津田めぐみや村田楓も、部下たちと一緒に瓦礫の下から這い出てきた。
巨大な宮殿が崩壊していながら、今のところ、死者は見つかっていない。
怪我人は多数いるが、それでも意識不明となるほどの者はおらず、人的被害は意外なほど軽い。
「本当に宮殿が崩れる事態になるとは思わなかったんだけど……」
「っていうか、何があったの? 町の方は無事みたいだけど。」
津田めぐみと村田風は疲れた顔で瓦礫の山を見渡す。
宮殿は無残に瓦礫と化しているが、城門の外の街には被害が全く出ていない。
「ゴメン、説明は後。まだ埋まっている人たちいっぱいいるから、そっち助ける方が先!」
寺島理恵に言われて、めぐみと楓も土魔法を使っての瓦礫の除去に参加する。
いくら魔法による瓦礫の除去が早いとはいえ、それは手作業や一般的な重機を使った場合と比較してのことだ。
十階建ての建造物が完全に崩壊した跡を掘り起こすのは、それなりに時間が掛かる。
碓氷優喜たちも急いではいるのだが、日没までにすべての被害者を救助することは難しそうである。
この宮殿で働いている者は多く、官吏や役人、職員と言った文官に、宮殿警護の兵士や騎士など、日中は全部で二千人以上もいるのだ。
その半数以上が既に救出されているが、まだまだ瓦礫の下で救助を待っている者たちもいる。
「すみませんが、土魔法の使えない方は食事の用意をしていただけますか。」
皇帝が声を掛けて、何人かの者たちが食料倉庫へと向かって行く。
そして、救出されたばかりの料理人たちが手早くスープなどを作っていく。
日が傾いてから沈むまではそう長くはない。
食事が配られている間にも、夜の闇が迫ってきている。
誰もが疲れているなか、不安の色が強くなってきているところに、大魔道の声が響き渡った。
『大いなる太陽、天空にありて昼を司りしもの。その光を以って夜の闇を払え。』
その詠唱が終わると、上空に太陽が出現した。
燦々と降り注ぐその光は、初夏の太陽そのものだ。
「何ですか! そのデタラメな魔法は!」
大魔道の使う魔法は、碓氷優喜すら驚愕するほどの恐るべき効果を発揮する強力なものだ。他の者はといえば、空を仰いで頭を抱えている者が半数。
地に平伏している者が三分の一ほどだ。
「あなたたち、せっかく昼にしてあげたのだから、真面目に働きなさい。」
大魔道は恐ろしいこと平然とを言う。
自分の魔法で夜を昼にしておいて、昼間は働けとか労働基準監督署も真っ青だろう。
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