尻神輿D

ポテろんぐ

秋名最速の尻神輿編

第1話 秋名最速の尻神輿

 クイッ! クイッ! クイッ!


 今夜も秋名の峠を尻神輿たちが駆け抜けていく。

 ウンコのモニュメントをした神輿にタイヤがついた乗り物、それが尻神輿。そのおでん屋の屋台のような乗り物をリアカーのように引っ張り、峠を攻める、それがお尻屋と呼ばれる男たちだ。


 赤城の山で無敵を誇る『ハミ出し兄弟』の弟、はみ出し啓介は、この日、秋名山へ、尻神輿の遠征に来ていた。


「へ、どいつもこいつも大したことないぜ! 飛んだ肩透かしだ!」


 クイッ! クイッ! クイッ!


 ハミ出し啓介の尻神輿がコーナーに入っていく。すかさず高速でズボンを脱ぐ啓介。そして、リアカーの手すりに体重を預け、尻を空中に浮かす。


「す、すげえ! ハミ出し啓介の高速ドリフトだ!」


 クイッ! クイッ! クイッ!


 コーナーに進入する神輿の前で啓介が尻を空中でリズミカルに振ることで、神輿はさらに加速したドリフトを見せる。

 他の地元の尻神輿たちは、到底ついていけない。

 さらに、尻を振る瞬間に肛門にはめ込まれた豆電球を点滅させることで「う、ん、こ」というメッセージをガードレールの外で見物しているギャラリーに伝える。


 うおおおお!


 この啓介のパフォーマンスにギャラリーも一気に湧く。


 実力では抜かされ、人気でもギャラリーの注目を取られ、地元秋名のお尻屋たちの面目は丸つぶれである。


「つまらん。この峠にいるのはカスばかりだ」


 ハミ出し啓介はため息が出た。無駄な時間を過ごしてしまった。あとはテキトーに麓まで流して帰るか。


 その時であった。


「ん?」


 啓介のデコからぶら下がっているバックミラーに何かが近づいてくる。


「なんだ、ついてくるやつがいたのか」


 啓介がコーナーニー突っ込む。ズボンを脱いで空中で尻を突き出す。


 クイッ! クイッ! クイッ!


 軽やかにコーナーをクリアし、豆電球が「ち、ん、こ」と光理、ギャラリーが湧く。


「どうだ、これで着いてこれま……」


 なにっ!


 啓介は自ら後ろを振り返った。引き離したどころさ、差がさっきよりも縮まっている。


「バカなっ!」


 間違いなかった、次のコーナーでも差は開くどころか、バックミラーに移る尻神輿はどんどんと大きくなっていく。

 そして、最後の5連続ヘアピンの手前で、啓介の尻神輿は射程距離にまで入っていた。


「くそっ!」


 クイッ! クイッ! クイッ!


 必死で尻を振り、引き離そうとするが、ついに啓介の尻神輿の真後ろまで迫ってきた。


「なんだと!」


 啓介は、信じられないと近付いてくる尻神輿を凝視した。一昔前のデザインの七重になった巻きグソが屋根に象られた神輿。タイヤもリアカーの手すりも古くて年季が入っている。


「菊六だと! 十年前の型じゃねぇか!」


 とても啓介の最新式、神輿に追いつけるとは思えない。


 五連続ヘアピンの二つ目。

 啓介はもう負けまいとズボンを脱ぐ。そして、尻を今まで以上に突き出す。


 クイッ! クイッ! クイッ! クイッ!


 ケツがGに耐えきれず引き裂かれそうな感覚を必死でこらえ、四回腰を振ることに成功した!


「どうだ!」


 一つのカーブで四回腰を振る神業にギャラリーは今日一番に湧く。並の人間なら一回腰を振ることすら不可能と言われ、尻コキドリフトは選ばれた人間にしかできない神業である。


 天才と称されるはみ出し啓介でさえ、普段は三回の尻クイで限界だ。今のはかなり自分の体に無理をした決死のドリフトであった。


 しかし!


「何!」


 啓介決死の四回クイドリフトでさえ、後ろの尻神輿には無力、ついにストレートでズボンを履いている間に横に並ばれてた!


「化け物かよ! この尻神輿!」


 啓介は最後の勝負と覚悟し、三つ目のヘアピンに入る。ここは、4つ目のヘアピンとの距離が少ないため、ズボンを脱いで、履くまでの距離が短い場所だ。下手をしたら、ガードレールから下へと真っ逆さまである。


 三つ目のヘアピンに入ったところで啓介がズボンを脱ぐ、そして隣まで来ていた化け物神輿の乗り手もズボンを脱いだ!


 二人ともほぼ同時に尻を外へ突き出し、尻振りに入った。この時、バケモノの尻は外のコースにいた啓介の顔の真正面にまで近付いていた。


 一歩間違えれば、顔を相手の尻に埋めることになる。命がけだ! しかし、そんな恐怖で怯む、啓介ではない。


 一歩も引かず、コーナーに入った。


 クイッ! クイッ! クイッ! 


 啓介は目を疑った。


「バカなっ!」


 啓介が必死の努力で身につけたコーナーでの三コキのドリフトを手前にいる古い尻神輿の男はいとも容易くやってのけているのだ。


「こんな奴が、秋名にいたっていうのか!」


 三コキのまま三つ目のコーナーを終え、啓介はズボンを履き直そうとした時、なんと、相手の一昔前の尻神輿は、ズボンに手をかけず尻を丸出しにしたまま、コーナーへ突っ込んでいく。


「バカな! その尻を出したままコーナーに入ったら、コースアウトだ!」


 しかし!


 クイッ! イクッ! イクッ! クイッ!


「な、なにいい!」


 なんと、古い尻神輿は、「クイッ!」ではなく、途中で「イクッ!」を二回挟むことで、神輿の向きを変え、このS字を全く減速することなくクリアしたのだ!


「バカな、七コキドリフトだと!」


 啓介は目を疑った。過去にプロでも最高のコキは五コキが最高だと言われている。しかし、いま、目の前にいた男は確かに七コキ、腰をふり二つのコーナーを曲がって行ったのだ!


 しかも、神輿に乗っている牛糞を一滴たりとも落とすことなくだ。


 あまりにも滑らかすぎるドリフトに、啓介の視界にはその七回の尻コキの残像が未だに残り、奴の尻が、空中に浮かんでいる美しい一本の帯となり、未だに目に焼き付いて離れなかった。


 さらり、肛門の豆電球も正確に七回点滅し、「晩、ご、飯、い、ら、な、い」というメッセージを残して行ったのだ。


 完璧な7コキドリフトだった。


 あの尻神輿、一体、何者なんだ。

 


 

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