第13話
心臓が早鐘のようにうるさい。改めて、好きな人が僕を好きだという奇跡を意識し、感動してしまう。
さっきレイナがそうしてくれたように、今度は僕が彼女の手を握る。少し驚いて顔を上げたレイナと目が合う。僕が口を開こうとすれば、レイナが僕の言葉をじっと待っていてくれる。ただそれだけのことが幸せでたまらなかった。
「わっ……ちょっと、押さないでくださいよ、タオ兄!」
「んなことコイツに言え!」
階段の踊り場の向こう側からひそひそと話し声が聞こえ、僕とレイナはそっちに視線をやる。手すりの陰から覗いていたのは、下からシェイン、タオ、ルートヴィッヒ先輩の三人だ。
「二人ともうるさいよ、レイナたちに気付かれ――」
「もう気付いてるんですけど」
ルートヴィッヒ先輩の注意をレイナが一蹴する。タオとシェインは「あーあ」と言うようにため息を吐いた。
三人がここにいるということは、さっきまでのレイナとのやり取りを全部見られていた……? いやいや、でもレイナを追って来たんだろうし、まだ着いてすぐかも……。
「えっと……いつからそこにいたの?」
「えーっと、「だめだよ」のあたりから、ですかね?」
「ほぼ最初ッ‼」
僕が叫ぶと、タオとシェインは顔を見合わせ、にいっと不敵な笑いを浮かべた。
「えーっと……? 『全然、お似合いなんかじゃない。……レイナの隣にいるのは、僕じゃないと嫌だ。僕は、レイナが好きだ!』」
「『私の隣にいるのが誰かなんて、私が自分で決めるわ。私の居場所はエクスの隣がいい。私も、エクスが好き』」
「『え、じゃあ、ルートヴィッヒ先輩の告白は――」
「うわああああああ! わあああああああああああああ!!」
タオとシェインが繰り広げるさっきの僕とレイナのモノマネ(誇張されているが)を見た僕たちの絶叫が階段に響き渡る。
「何でそんなに覚えてるの!? ていうか本当に覗いてたんだね!?」
「だからそう言ってるだろ」
「何であんたたちってそうデリカシーがないのよ! プライバシーの侵害よ!」
「でりかしい……? お菓子ですか?」
全く悪びれずに言う三人に怒る気も失くしてため息を吐くと、レイナが階段を駆け下りて彼らの方へ近寄っていった。
レイナは僕以上に頬を赤く染めてタオたちに抗議する。
「いい!? 今日見たこと全部忘れなさい! 全部よ、全部!!」
「そんなの無理だろ。エクスとレイナのあんなとこ忘れられるかよ」
「……ヤーコプたちへのプレゼント選び、付き合わないわよ?」
「全部忘れた」
「タオとシェインも! 忘れて!」
「えー、それは無理な相談といいますかー。ねえ、タオ兄?」
「だよなー。あんなおもしれえネタほっとくなんて勿体ねえよな」
「……エクス」
タオたちと話していたはずのレイナに名前を呼ばれ、少し驚いて返事をする。レイナは僕を呼んだあと、ゆっくりと振り返って僕に確認した。
「記憶って、殴れば消えるのよね?」
それを聞いた瞬間、タオとシェインが脱兎のごとく逃げ出したこと、僕が全力でレイナを止めたことは言うまでもない。
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