第12話
俯いて拳をぎゅっと握りしめたままの僕の耳に階段を上がる音が響く。レイナが一段一段ゆっくりと階段を上り、僕と同じ段に立った。
「私は、私の居場所は、エクスの隣がいい。エクスに、私の隣にいてほしい」
言いながら、レイナは僕の手を握る。固く握った拳を両手で包み込む。
驚いて顔を上げた僕と彼女の目が合う。青く澄んだ瞳が上目遣いで僕を見上げていた。少しだけ潤んだレイナの瞳が揺らぎ、桜色の唇がゆっくりと動く。
「私も、エクスが好き」
頬を真っ赤に染め上げて言ったレイナは、間違いなく僕が今まで見た中で一番綺麗だった。思わず思考回路が停止し、彼女に見惚れてしまう。
しばらくしてようやくレイナの言った言葉を理解した僕は、軽くパニック状態に陥ったことは言うまでもない。振られたと思っていた相手に好きだと言われて、そうならない方がどうかしている。
「え、レイナが、僕を好き?」
「だからそう言ってるじゃない」
「じゃあルートヴィッヒ先輩の告白は?」
「? なにそれ?」
「いや、さっき『付き合ってほしい』って。だから僕はてっきり……」
「ああ。『兄さんたちへのプレゼントを選ぶのに』付き合ってほしい、ね」
レイナの答えに拍子抜けする。扉の音でよく聞き取れなかった部分にそんな言葉があったなんて思いもしなかった。
「そもそも私とルートヴィッヒが付き合うなんて考えられないわ」
「そうなの? でも仲は良いよね?」
「いくら仲が良くても従兄と付き合いたいとは思わないでしょ?」
「ああ、従兄……いとこ⁉」
「言ってなかったっけ?」
「初耳だよ!」
ルートヴィッヒ先輩とレイナが従兄妹……。通りで仲が良かったわけだ。心の中に刺さっていた棘がすっと抜けた気がした。
「エクス?」
ふとレイナに名前を呼ばれ、僕は我に返る。我に返る――と、とんでもないことをしてしまったという感覚が僕を襲った。
ルートヴィッヒ先輩とレイナの中を変に勘違いしていきなり逃げ出した挙句、感情に任せて勢いだけで告白をしてしまった。こんなつもりじゃなかったのに、と僕はうずくまる。
「ああ~……カッコわる……」
「え、何が?」
「いや、だって……。僕、レイナにはちゃんと告白しようと思ってたのに、こんな勢いで……」
僕が言うとレイナはくすっと笑った。
「それって、嫉妬してくれたってことでしょ? ……私は、それだけエクスに思われてるみたいで……嬉しい……なんて」
後半に近づくにつれ、顔がさらに赤くなり声が小さくレイナを見て、すごく愛しいと感じる。やっぱり、あんな勢いだけの告白なんて駄目だ。
ぎゅっと拳を握るとレイナの目をじっと見つめる。一音一音を大切に、声を絞り出すように言葉を紡ぐ。
「……改めて、僕は君が――レイナが好きです。僕の彼女になってくれませんか?」
うわ、何だこれ。さっきは動揺してて気が回らなかったけど、『好き』だって言葉にするのは何だかすごく気恥ずかしい。
熱い顔とうるさい心臓にレイナの声が響く。短く、小さく、震えていたけれど、それでも確かに彼女の声で「はい」と。
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