第8話
放課後の美術室って、授業の時に使うのとは違う感じがして不思議だ。
水で溶いた絵の具のにおい、鉛筆を走らせる音、それから、部員たちの真剣な表情。
「……っていうのは幻想だったんだね」
レイナに連れられ、僕は美術部の見学に来ていた。
中等部と高等部の合同美術部には今、レイナ・タオ・シェインを含め、四人しかいないらしい。あと一人でも部員を確保しなければ廃部になる、と言われて見学に来たのだが、この三人、全く真面目に部活をする気配がない。
「真面目に部活しないなら、僕帰っても……」
「わー! 待てって! もうすぐ真面目に部活するやつが来るから!」
真面目に活動していないのは自覚しているのか、と心の中でツッコミを入れるとほぼ同時に、美術室の扉が開く音がした。
「うるさいな……。外まで聞こえてきてたよ」
「キター! ほらほら!」
「はいはい……」
気だるげな声が聞こえ、足音が近づいてくる。
きっとタオたちが言っていた美術部員の最後の一人、部長さんだ。
「美術室で騒ぐなって何回言わせる……って、あれ、エクス?」
「え? わ、ルートヴィッヒ先輩」
自分の名を呼ばれたことに驚いて振り返ると、声の主は同じ委員会の先輩、ルートヴィッヒ・グリムさんだった。
ヤーコプ学園長とヴィルヘルム先生の弟さんで、やる気がないわりになんでもそつなくこなす……というイメージが僕の中で固まりつつある。
「ルートヴィッヒ、遅かったのね。何してたの?」
「ああ、ちょっと兄さんに呼ばれて……って、レイナ。学校では先輩ってつけろって言ってるだろ」
「はいはーい。それより『兄さん』って言うとヤーコプかヴィルヘルムか分かんないんだけど」
「どっちもだ。それに兄さんたちにも先生って……」
「もう、分かってるってば」
レイナはヤーコプ学園長やヴィルヘルム先生とも親しいらしく、どうやらルートヴィッヒ先輩とは家族ぐるみの付き合いのようだ。
ふと、ルートヴィッヒ先輩から僕へ話題が振られる。
「それより、エクスも美術部に入ることにしたのか?」
「あ、はい。僕も入ろうかなって思ってます」
正直、決めかねていたはずなんだけど。考えるよりも先に口に出していた。
誰かが入らないと廃部になるらしいし、タオやシェイン、ルートヴィッヒ先輩、それからレイナもいるし。入らないと損だ、とは言わないけど、入って損になることはなさそうだ。
何より、このメンバーで放課後を過ごせるということに、すごくワクワクしている自分もいる。
と、いうわけで、僕は中高合同美術部への入部を決めた。
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