悪女復活⁉︎ 10
前髪を元通りに下ろした私は大きなため息をつきながら、リーゼと城の廊下を歩いていた。
「はあ~~」
「お嬢、ごめんなさい」
「いいえ、貴女だけのせいではないわ。今回は私もいろいろ悪かったんだし」
言い
角を曲がったところで、華々しい一団に出会った。公爵令嬢エルゼと仲間達だ。エルゼは金色、周りは赤や青やピンクのドレスで今日もバッチリ着飾っているみたい。
「あら、貴女また?」
「ごきげんよう、エルゼ様」
前回と同じく丁寧に膝を折って挨拶した。その様子を見たリーゼも一歩下がって頭を下げる。けれど、少しきつめの口調で話しかけられてしまう。
「ベルツ家のミレディ様、でしたかしら? 侍女と親しく話されていたようですけれど、似つかわしくないほど若いのね?」
「ええっと、ミレディアです。確かにこの者は私よりずっと年下ですけれど……いけなかったでしょうか?」
連れて来る侍女の年齢に規定などないのに、こんなことを言われるとは。うちのリーゼ、そんなに可愛いかった? 似つかわしくないほど若いとは、この場にかしら。それとも私に?
「まあ、生意気な。エルゼ様に口ごたえをするなんて」
「自分に自信がないから、綺麗な侍女を連れていらっしゃるの?」
「おお怖い。そうまでして王子に取り入ろうとしているのかしら」
途端に周りが勢いづく。信じられないことだけど、前回「応援する」と言ったにも関わらず、私が王子達の『追っかけ』だと思われているらしい。
「なっ……」
反論しようと前に出たリーゼを慌てて止める。さっき王子が許してくれたからといって、ここでも乱暴な口調が通用するとは思えない。いえ、こっちの方が大変なことになりそうだ。
「とんでもございません。ここへは兄の代理で来ておりまして」
ひとまず無難にやり過ごそう。
家に帰るためならば、下手に出たって構わない。
かといって、契約前に内容は明かせなかった。最近は父よりも兄が表に出る機会が多いため、代理というのはあながち嘘とも言えないだろう。面倒な時に兄を引き合いに出すのは、私にとってもはや習慣化している。ヨルクには、後で話を合わせてもらえばいいわよね?
「本当かしら?」
「代理って何の代理なの? そうだとしても、必死にお願いしたのではなくて?」
「クラウス様とアウロス様のお二人に用事? 貴女ねえ、嘘をつくのもいい加減にしなさいよ」
嘘だったらどんなに良いことか。契約も大事だけど、命の方が大事。可能なら今すぐ兄と交代したい。
彼女らの大声を見兼ねたのか、公爵令嬢エルゼが間に入る。
「待って、みなさま。人をお疑いになるのは良くないことよ? わたくしは信じるわ」
「エルゼ様……」
「さすがですわ」
「なんてお優しい!」
エルゼはこちらに向き直ると、私達に謝罪した。困った表情も可愛らしい。
「ミレディン様……でしたっけ? お気を悪くされたのなら、ごめんなさいね。急にお見かけするようになったし、その度に違う方を連れていらっしゃるから、わたくし驚いてしまって」
「いえ」
たまたま虫の居所が悪かったのかな? 彼女も城に来たことで、疲れてしまったのかもしれない。ここは一つ、大人の対応を心がけましょう。
「私の方こそ不慣れなため、失礼いたしました。ですが、侍女は関係ありません。きちんと良識をわきまえておりますので」
良識はあるけど常識がまだ……突っ込まれたらそう答えよう。
でも、私が来ることを王子達から知らされていないのなら、取引の内容もご存知ないはずだ。エルゼが王子のどちらかと婚約した事実もないので、今から必要以上にへり下るのもどうかと思う。
「そう、それならよろしいの。両殿下はほら……お役目大変でしょう? だからその苦しみを、わたくしが癒して差し上げたくて」
どう答えれば良いのかわからない。一人に決めず、苦しませているのはむしろ貴女では? とも言えないし。私は仕方なく、
「ちょっと貴女! 何がおかしいのよ」
「エルゼ様をバカにしているの? 邪魔者のくせに」
「ここへ何しに来たのか、聞いてないんだけど」
取り巻き達をさらに怒らせる結果となってしまった。でも、さすがは公爵令嬢。またしても止めに入ってくれる。
「みなさま、本当にもうお止めになって。ミレディス様は何も悪くないでしょう? 元はと言えば、わたくしが変な疑問を抱いたせいだわ。お引き留めしてごめんなさいね。それでは、ごきげんよう」
この隙にさっさと行けということね? エルゼは優しくても取り巻き達はしつこいから、おとなしく引き下った方が良さそうだ。
「ごきげんよう」
私とリーゼは頭を下げて出口に向かう。だけどひと言だけ言わせてもらえば、私の名前はミレディアだ。
馬車に乗り込むなり、リーゼが不満を爆発させる。
「何なんだ? さっきのやつら。チャラチャラしているだけのブスばっか」
「こらリーゼ、言葉遣い! 他人を悪く言ってはいけないわ。自分を基準にしてはダメでしょう?」
「オレ……私じゃない。お嬢の方がよっぽど美人なのに、あいつらバカにして!」
「褒めてくれるのは嬉しいけれど、そんなことはどうでもいいの。それに王子達は人気があるから、仕方がないのよ」
「だからって偉そうに。お嬢もお嬢だ。何でもっと言い返さないんだよ!」
真っ直ぐなリーゼから見れば、さっきの私の対応は歯がゆく感じるのかもしれない。けれど穏便にことを済ませるには、あれで良かったと思う。
「言い返さなくても平気だったじゃない。真ん中にいらしたエルゼ様が庇って下さったでしょう? 可愛いいし、優しい方よね」
「はん、どうだか。あいつが一番信用できないね」
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