無関心の街でけして逃れられない場所

ちびまるフォイ

関心を失ったので終わり

「メガネメガネ~~!!」


メガネを探している人は頭の上にメガネをつけている。

さらに顎の下にはケミストリー風にもう一つのメガネ。


「あの……」


「おい、やめとけやめとけ!」


声をかけようとするとすぐに止められてしまった。


「あなたは?」


「俺はおせっかい焼きのワピードスゴンってんだ。

 あんた、この街ははじめてかい?」


「ええ、実は最近に引っ越してきたばかりで」


「ここは無関心街。いろんな奴が関心を引こうとしてくる」

「どうして?」


「理由は俺にもわからねぇ。だが、それに引っかかっちゃいけねぇ。

 引っかかったが最後、トラブルに巻き込まれて

 今のような平和で平穏な生活はもう送れなくなっちまう」


「それなのに、あなたはどうして?」

「俺はおせっかい焼きだからさ。あんたもせいぜい気をつけるこったな」


男はそれだけ言い残して去っていった。

黄金の風のように爽やかで台風のような人だった。


改めて周りを見渡してみると、確かに関心を引こうとする人ばかり。



「誰か! 誰か助けてください!!」


必死になにか助けを呼んでいる人。



「ちくしょう! 死んでやるーー! 死んでやる――!!」


橋の上に立って今にも飛び降りそうな人。



「マジもう無理……マジもう無理……」


ぶつぶつ言いながらぬいぐるみに語りかける女。



「な、なんだよここは……」


誰も彼もがツッコミ待ちのようにも見えてくる。

しかし、関わったが最後トラブルに巻き込まれてしまう。


それがわかっているのか行き交う人はみなスルーしている。


これが一番いい方法なんだろう。


下手にトラブルに巻き込まれちゃたまったもんじゃない。

スルーを心に決めて通り過ぎようとしたとき。


「えーーん! えーーん! おかあさーーん!!」


「……どうかしたの?」


泣いている子供を見て、つい声をかけてしまった。

無関心ではいられなかった。


「あのね、お母さんとはぐれちゃったの」

「なんだそんなことか……」


話しかけた手前、どんなトラブルに巻き込まれるものかとヒヤヒヤしたが

迷子センターの場所もわかるので、たいしたトラブルじゃない。


迷子センターに届けると係の人が話を聞いた。


「えと、兄弟……ですか?」


「あ、いえ。ちがいます。通りがけの他人です」


「この街で知らない子に関心を持つなんて珍しいですね」


「いや、泣いている子供を見て無関心でいられる方がおかしいでしょ。

 この子、お母さんとはぐれちゃったみたいなので、探してもらえますか?」


「ぼく、お母さんの名前わかるかな?」



「……わかんない」


「それじゃ、なにかお母さんからあずかってない?

 身分証とか、君の名前とかわかるものがほしいな」


「……ないの。お母さん、ぼくを捨てて、行っちゃったから」


「え゛」


近所の迷子を引率するだけで終わらないゲロ以下の匂いがぷんぷんしてきた。


「お母さん、世界を股にかける女スパイなの。

 ある日、組織のボスの麻薬を持って逃げていたんだけど

 それがバレて追われているうちにぼくを捨てて行っちゃった」


「……あーー……うん……」


平穏の2文字がただいま辞書から消えた音がした。


「ぼくはいろんな場所を一人でさまよっているうちに

 自分の寿命と引き換えに過去に戻れる能力を手に入れたの。

 そして、お母さんを探しに行こうと思ったんだけど……」


「あ、俺のあいずち待ち?」

「うん」


「き、キニナルナー……」


「過去にジャンプしすぎてこれ以上は寿命がないの。

 誰か、ぼくの代わりに過去にジャンプして

 お母さんが本当にしたかったことと、組織の陰謀。

 そしてホワイトハウスがひた隠しにしている真実を見つけてくれないかなー」


「……」


「見つけてくれないかなー―」


「はい……」


「やったぁ! お兄ちゃん、ありがとう!!」


「じゃ、能力をお兄ちゃんにあげるね。

 お兄ちゃんふるふる機能ある? あーーじゃ赤外線で」


見知らぬ子供から能力を引き継いだ俺はその子に変わって、

母親の所在から生死はもちろん、黒幕の存在やおそるべき計画の全貌などなどをあばくことに。


やがて、自分が救世主ニューマンだと言うことを予言師から聞かされ

自分の運命と世界との大きな戦いの中に身を投じていく。


このときの俺はまだ、そのことに気づかなかったわけがなかった。



「う、うわーーいやだーー! いやだーー!!

 俺はもっと平穏な日常を過ごしたいんだ――!!」


能力を使って過去に戻ると、迷子のお母さんのトラブルに巻き込まれる前に飛んだ。


近くのショップで買った帽子とかぶって、街に来たての自分に声をかける。


「俺はおせっかい焼きのワピードスゴンってんだ。

 あんた、この街ははじめてかい?」


「ど、どうも……」


「この街じゃ無関心でいることが第一だ。

 いいな、どこかで迷子の子供を見つけてもけして関わっちゃいけねぇ」


「そんな人でなしなことできませんよ」


「バカ野郎! あっちはお前みたいなお人好しを狙って

 トラブルに巻き込めないかと舌なめずりしてるんだぞ!!」


「でも……それでも俺は……」


ダメだ。これ以上は百の言葉を並べても自分を説得できそうもない。

実害が出ていないから、なまっちょろい理想を考えてやがる。

自分だからその気持ちがよくわかる。


「それじゃ、今から俺が子供に声をかけるから、それを見てるといい。

 無関心を貫かなかった人間がどんな結果になるかわかるからな」


同じ場所に行くと、迷子の子供が泣いていた。

同じように迷子センターに連れて行くと、同じようにトラブルを背負わされる。


それをすぐ後ろで見ていた別の俺は言葉を失っていた。


「信じられない……なんて恐ろしいんだ……」


「見ただろ。たかだか迷子1人届けただけで、

 世界の命運とやらに巻き込まれてしまう。それがこの街だ。

 だから、必ず無関心を貫くんだぞ」


「ああ、よくわかったよ。それであんたはこれからどうするんだ?」


「どうもしないさ。あんたが能力を受け取らなかったことで、

 そのうち消えてしまうかもしれないしな。平穏に過ごすよ」


「そんな……」


「おっと、俺に関心を持つんじゃない。

 この街では無関心でいることが第一だ。

 関心を持ってしまえば、もう平穏な日々に戻ることはない」


「わかったよ。身をていして守ってくれてありがとう」


「俺はおせっかい焼きだからな」



さっそうと帰ろうとしたとき、目線の先に見知った顔を見つけた。


「あれは…………俺!?」


まごうことなき自分だった。



「おい! お前……いや、俺! こんなとこでなにしてる!」


「遅かった……何もかも遅かった……」


「なんだ!? 世界の命運がどーのこーのってやつか!?」


「ちがう……そんなことじゃない……。もう何もかも遅い。

 最初に戻ったところでもう手遅れだったんだ」


「さっきから何言ってるんだ!

 過去の俺は無関心に生きていくって約束できたんだぞ!」


「ダメなんだ……本人が無関心で生きていても、

 誰かに関心を持たれちゃ、もう無関心ではいられない……」


「過去に戻ればいい! 俺はもう俺に関心を持たない!

 それで十分じゃないか!? な!?」


「俺もそう思ったさ、自分が考えることくらい、自分で考えつく。

 でも無駄だった。俺は常に誰かに関心を持たれている……」


「それは一体誰だよ……。俺以外に、誰が俺に関心を持ってるんだ」





「俺にもわからない。でも、最初からずっと目で追われているんだ。

 まるで、この先の俺の展開を気にするように、ずっとだ。

 そいつが関心を失うまで、俺達はトラブルから逃げられない……」

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