老夫婦

山の麓のその村の。

少しはしっこのその場所に。

一軒の家が建っていました。

住んでいるのはたったの二人。

名前が......書いてありませんね。まあ、残っていなくとも無理はないですね。

便宜上、「おじいさん」と「おばあさん」と呼んでおきましょう。

おや、おじいさんが何か言ってますね。

覗いてみましょうか。

「ばあさんや」

「なんですか、おじいさん」

「わたしのこの前研いだばかりの鎌をどこにやったね。これから芝刈りに出かけるんだ。」

「おや、わたしも川に洗濯に行くんですよ。一緒に行きませんか。」

「待ってくれ、鎌をどうした、ときいたんだよ。鎌をどうしたんだい?」

「中々力がいるのよ。こうゴシゴシとやるのがね......。」

「ばあさんや、だから鎌を」

「話を聞けい!」

「あ、ハイ」

夫婦の力関係がわかる会話ですね。

「そして川の水も冷たくて大変なのよ。近頃なんて石も冷たいから座るとお尻が冷たくって......」

「鎌......芝刈り......」

「そうそう、洗濯と言えば、前の家の息子さん、役人になりたいっていってね」

「ばあさん、前の家の子供は皆娘だぞ」

「あらそうだったかしら。まあいいわ。」

「それでばあさん、芝刈りにいきたいんじゃが......。」

「あら、行けば良いじゃあないですか」

「いやだから鎌がなくての......」

「まあ、ならなんで探さないんですか」

「いや探したんじゃが、見当たらなくての」

「じゃあなんでわたしにきかないんですか」

「いやきいたんじゃが......」

「まったく、そうやって仕事をさぼって。

それで村から悪い噂がたったら誰のせいだと思うんですか」

あなたのせいだと思います。

「じゃから、そのために鎌がいるんじゃよ、あの曲がった刃のついた......」

「あら、それなら昨日ご飯を作るときに使いましたよ」

「なに!? なんでじゃ!?」

「いや、包丁をこの前外で落としてしまって......」

「なぜ外に持って行くんじゃ!?」

「しかもほら、お野菜も良く切れたんですよ」

「そりゃこの前研いだからのお!?」

「ほら、そこにあるから、持って行ってください」

「あ、ああ、ほんとじゃ。それじゃばあさんや、洗濯、たのむぞ。」

「はい、がんばってくださいね。」

お互いを励ます老夫婦。微笑ましい光景ですね。

「さてと、服はどこにあったかしら、ああそうそう、お皿ふくのに使ったから、お台所ね。」

お皿を服でふくおばあさん。微笑ましくない光景ですね。

「さあ、たらいにいれて、さあ、いきましょうか」

おばあさんも出かけたようですね。


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