監禁されてBLを書けと強要された僕が、苦悩の末に取った行動とその結果について
「BL小説を書きなさい。今すぐここで! 3時間以内に」
美女は冷ややかに告げて部屋を出ていった。ドアの外で鍵の掛かる音がした。閉じ込められた僕は、あと3時間以内にBLを書き上げなければならなくなった。
今、僕の目の前には机の上にA4判のOA用紙とシャープペンシル、消しゴムがある。僕はBLなんか書いたことがない。何よりも男同士の恋愛というのは完全に僕の専門外である。どうしてそんな僕にBLが書けるだろう? あの美女にそういう趣味があるのかどうか知らないが、これ以上の無茶振りは世界のどこを探してもないのではなかろうか?
「お黙り!」
天井のスピーカーからさっきの美女が怒声を浴びせてきた。まるで僕の心を読んだみたいに。
「誰の趣味だろうとそんなの関係あるか! お前はBLを書かなければならないんだよ!」
僕がおずおずと「書けなかったら……どうなるんでしょうか」と天井を向いて尋ねると、間髪を入れずに美女が一層激しい罵声を浴びせてきた。
「誰が質問をしていいと言った! お前がしなきゃいけないのはただ一つ! 3時間以内にBLを完成させることだ。書けなけりゃ、お前は重りをつけて海に沈められ魚の餌になる!」
「ひいいいいい!」
スピーカーはブツリと音を立てて沈黙した。そうか、殺されたくなければ書くしかない。
僕は腹を括って、シャープペンシルを取った。適当に主人公が美少年と知り合い、なんやかんやで親しくなっていく。2時間くらいで大まかな筋のBLの筋書きにはなったと思ったが、BLの落としどころって何だろう? やっぱりあれか? 「ウホッ」という展開にしなければいけないのか? 僕は自分の作品を読み返してみた。一人称が「僕」になっている。最後にはこの「僕」が、「受け」に回る結末にしなきゃいけないのか?
嫌だ。僕は自分の貞操を守りたい。僕の貞操は美少女に捧げこそすれ、男に捧げるのなんて無理! しかしそういう結末にしないと、あの美女は満足してくれまい。これは困った。
待てよ? 僕の頭に一つのアイデアが閃いた。
もし、この自称美少年が、実は美少女だったという展開ならどうだろう?
そうだ、それがいい! 最後の最後まで美少年と思わせておいて、いよいよ危ない展開になった時には女だったと判明する! これならば僕の貞操を危機にさらすこともなく、ウィンウィンのハッピーエンドを迎えられるじゃないか!
そう考えた僕は仕上げにかかった。そして出来上がった。美少年実は美少女だったヒロインと、最後に結ばれるエンディングで、僕の生まれて初めての、サプライズ付きBL小説が完成した!
3時間が過ぎ、美女が部屋に入ってきた。
「書けましたか」
「はい。自信作です」
僕は、「僕」と美少年(美少女)が知り合い、互いに心を通じ合わせ惹かれ合っていく王道的BL小説の原稿を彼女に手渡した。結末には、僕が用意した渾身のサプライズが待っているのだ。きっと彼女も驚くに違いない!
美女は無表情に読み終えた。さして驚く様子もなく、ドアの方に歩いて行く。そして何も告げずに部屋を出ていった。
鍵を掛ける音は聞こえなかった。ということは、今が脱出するチャンスかもしれない。だが、僕はあの美女がどういう評価を下すかが気になって、その場を離れられずにいた。
5分ほど経って、ドアが開いた。戻ってきた美女はスーツを着て眼鏡をかけた30歳くらいの男と一緒だった。
その眼鏡の男が僕に告げた。
「結末を書き直した。目を通してもらおう」
書き直したということは、あのサプライズはまずかったのだろうか? 僕は、修正が入った自分の原稿を受け取り、恐る恐る結末に目を通す。
男装の美少女は美少女のままだった。しかし彼女は、全裸に剥かれて拘束された「僕」の尻の穴に電動式の張り型を突っ込み、こう罵声を浴びせているのだった。
『ボクが女王で良かったね! これがご褒美だよ!』
なんと美少女はボクっ娘だった! 盲点を突かれたというしかないが、もう悔やんでも遅い。
呆然としていた僕が我に返ると、美女が腕組みをして仁王立ちしていた。
「私はBLを書けと言ったはずだけど? お前は努力の方向を間違えている。魚の餌になる前に、たっぷりと喜ばせてあげよう」
美女が手にするバイブレーターにスイッチが入り、低いうなりを上げるのを、僕は聞いた。
おわり
I'll show you the life of the mind!
これが記念すべきカクヨム初書き下ろし!
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