うごかない足

wataru

第1話


 あるところに、おにいさんと、バイクがありました。

 おにいさんはいつもバイクにのって、いろんなところへ出かけます。

 森へ、うみへ、山へ。

 おにいさんは、どこへでもいけるバイクが大すきでした。

 だけどあるとき、おにいさんはちょうしにのってスピードを出しすぎてしまいます。

 おっと! あぶない!

 おにいさんとバイクは大きな音を立てて、ころがっていきます。

 ゴロゴロ、ゴロゴロ。

 気がつくと、バイクはこわれてしまっていました。

 そして、おにいさんの足はごかなくなっていました。

 もうバイクにのれないことに、おにいさんはかなしみました。

 もうじぶんの足であるけないことに、おにいさんにはかなしみました。

 おにいさんは足をうごかそうと、まい日いっしょうけんめいがんばりました。

 うんとこしょ、どっこいしょ、それでも足はうごきません。

 こまったおにいさんは、なくことしかできませんでした。

 おにいさんは、ある日ゆめを見ました。

 おにいさんはまい日まい日ないているうちに、水たまりになり、川へながれ、うみになり、くもになり、雨となってせかいじゅうをたびしました。

 バイクでいろんなところへ出かけるよりも、とてもたのしい気ぶんでした。


 しかし、夢はいつか覚める。

 彼はもう一度細くなった自分の足に力を入れる。

 うんとこしよ、どっこいしょ──

 それでも足は動かなかった。

 彼はただ泣くことしかできなかった。

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うごかない足 wataru @tpwata8991

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