無題

ソーダ

第1話

 布団の中で朝が来たことに気づいてはいるのだけれど、起きるより寝続けたい。ぬくぬくとした自分の温度の掛け布団にくるまりながら、自分の匂いが染みついた枕に顔を埋める。枕と夢の中に再び埋没していく。

 いつもの朝と違う。いつもなら、母が起こしにくるけれど、この日は違った。この日が違ったというよりも、この前の日から違った。夢と現実の狭間で、昨日のことが少しずつ蘇ってくる。

 そう、ぼくは昨日から布団になっていたのだ。日曜に惰眠を貪り続けているうちに、そのまま布団になっていた。昼に起きた時に自分の身体が消滅していることに気づいた。

 それから、夕食ができたと呼ばれるまで、家族は誰もぼくがいないとは思わなかった。悩んでいることもなかったので、ふらりと遊びに行ったか、買い物に行ったかしたのだろうと考えていたが、さすがに21時過ぎてきて、おかしいと騒ぎ出した。

 ぼくの部屋を確認するために、母、父、妹が順番に入れ替わりで入ってきた。妹は仲がいいわけでもなし、興味もないので、本棚の漫画を手にとって、ベットにダイブいてきた。掛け布団の上に。つまり、ぼくの上に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る