第4話


「中身は……事件に関する捜査資料ですね。まあ、そりゃそうですけど。……あと書類にしては重いと思ってましたが、なぜかスマホ入ってますね」




 茶封筒の中には捜査資料をまとめた書類、そして中には黒いスマートフォンが1台入っていた。電源を入れて画面を表示させると、パスコードを要求された。




「俺のセキュリティパスコードとは違うみたいですね。どこかにパスコードとかあります? 書類なりメモなり。他人のスマホのパスコードとか知らないんですけど」


「……これかな? 『カッコいい人の誕生日』って書類の端っこに書いてある」




 黄太郎の言葉をうけ、鉄雅音は書類の端にボールペンで書いてあった文字を読み上げる。筆跡から見て恐らく有九郎が書いたものだろう。




「カッコいい人の誕生日……。あれ? 俺の誕生日だと弾かれた」


「そこで躊躇いなく自分の名前を打つあたり、本当にブレないね」


「……ああ。やっぱ印尾さんの誕生日だったか。あのオッサン。ナルシストもいい加減にしてほしいですね」


「ものすごい勢いでブーメランが返ってきてると思うけどね、それ」




 スマートフォンの中には、ほかの書類と同じように捜査資料がテキストデータとして入れられていたほか、恐らく捜査関係者と思われる人たちの連絡先などが入っていた。




「なるほど。今回の仕事用のスマホでしょうね。紙媒体の資料が入ってるのは何かあったときのバックアップを兼ねてるんでしょう。……じゃあ俺はスマホで資料確認するんで」


「そうだね、じゃあ紙媒体のほうはお姉ちゃんが読ませてもらうよ」




 今回の事件に関して、多少は印尾から聞いていたが詳細はまだ聞いていなかったので、黄太郎たちは捜査資料に目を通すことにした。内容としては、被害者の詳細な個人情報や事故が発生した場所の航空写真や目撃者への聞き込み調査から得られたデータなどがまとめられていた。




 1件目の事件は2か月前に東北・仙台で、2件目はその1週間後に関東・宇都宮で、更にその1か月後に四国・松山で、そして4日前に東京都内で事件が発生しており、その全ての被害者が男性であり中高生となっている。




「確かに、これだけ地域がバラけるとなると、神隠しは考えにくいですね。日本の神だの妖怪だのは地元からあんまり動かないですし。東北・関東・四国、そしてもう一度 関東となると、妖怪や土着神の仕業にしては範囲が広すぎる」


「まあそもそも、お姉ちゃんが知る限りトラックで轢いてから神隠しを起こす妖怪や神様の話は聞いたことないしね」


「ですね。……あれ? 何だ?」




 と、そこで一件の通知が来た。


 圏外である以上、外部からのメッセージは届かないはずだ。

 つまりこれは、スマホそのものによるものだ。実際、通知テキストには『秘匿メッセージを公開します』とあった。そしてスマホの画面に新たなファイルが出現した。ただ、これはテキストファイルではなく、音声データだった。


 設定を見た限り、どうやらGPS衛星からのデータの受信が一定時間 できなくなる場合にのみデータが表示されるようになっていたようだ。




「音声データか……。とりあえず再生してみましょう」


「そうだね」




 再生してみると、それは有九郎の音声だった。




『さて、この音声を聞いているということはワシはもう死んでしまったのだろう。……嘘ピョーン。言ってみたかっただけじゃ』


「このクソジジイ……」


「まあまあ。お姉さん的にはこのくらい印尾君ならやると思ってたよ」




 開幕早々、有九郎の言葉にイラっとした黄太郎だったが、鉄雅音に なだめられて音声を そのまま再生させ続ける。




『いや、まじめな話。ここから先を聞くのは何か非常事態が起きたときだけじゃ。……例えばトラックに轢かれたと思ったら見知らぬ世界に居た、とかな』




 その言葉に、黄太郎たちの表情が引き締まった。


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