火星の女王
@akaharatamori
第1話「火星人との遭遇」
地球。現代日本のとある都市、街でのこと。
「私が何者であるか、君はまだ知らない。君どころか、この地球に存在するどの人間でさえも、私の本当の正体を知らない」
そう言ったのは、僕の隣を歩いている女の子。
彼女は僕のクラスメイトで、教室では大多数の友人に囲まれ、楽しい学生生活を送る姿を見せている。そんな彼女の「らしくない」発言に少し戸惑っていた。
時刻は17時過ぎ。日は暮れて結構暗い。
僕らは学校を出てそれぞれの家へと帰るところだった。
「ふうん。じゃあ、教えてよ。君の正体ってやつをさ」
返ってきたのはさらに意外な答えだった。
「火星人」
「…………」
言い淀むことなく、彼女は言い切った。
自分が火星人であると。
まず、彼女の冗談を疑った。そしてこういう冗談に対して、僕はどういう態度をとるべきなのか悩みだしてしまった。結果的にお互いに無言の時間が増えただけとなった。
長い沈黙の後、
「ふ、ふーん。君の正体、火星人なんだ…………」
という反応しか取れなかった。
「そう、私は火星人。と言っても、君が思うような『火星で生息している知的生命体』という意味ともちょっと違ってね……。まぁ、そこはキミに説明する必要はないか。キミは私がこの地球外の存在ということが分かればいい」
分かればいいといわれても、僕は納得できない。そもそも彼女の冗談の可能性もある。というかそっちのほうが確率が高そうだ。
「冗談をやめろ!」と言おうかと思ったが、なぜかまだ彼女は真剣な表情をしている。しかも、その顔が結構好みだった。白状すると、かわいいと思った。
よって、僕は話を理解した風を装って少しばかり延長することにした。
「あーそーゆーことね完全に理解した」←わかってない
「やけに物分かりがいいのね。まぁ理解したのならそれでいい」
「それで、僕にその『火星人』の話をしたのって何でなの? 目的とかあるの? それから、なんで僕に?」
問いただす僕に、彼女はかぶりを振ってこたえた。
「説明の前にキミと私にはやることがある。説明の前段階――この状況の打破だ。次元跳躍の概念は、今のキミにはまだ理解できないだろうから私が“きっかけ”を与える。ここを出てからすべての説明をしよう。長居するのは危ない」
僕は彼女をぼんやり見ていた。
理解できないことだらけだった。
安易に『理解した』とか言ってはいけない。
「よし準備はOK。キミのポケットの中に何か入っているはずだ。それを取り出してみて」
僕は言われたとおりにポケットの中を探ってみる。
む。
人形のような感覚のものが……――って、!!!!!!!!!
「うわあああああああああああ!!!!!」
ポケットの中の人形を取り出した瞬間、僕は巨大ななにかで体を拘束されていた。がっしりと何かで体を固定されて、外に出された。外? 外ってどこだ?
「落ち着いて。落ち着いて、キミが『何に』拘束されているのか確認して」
彼女の声で我に返った。
彼女の言う通り、僕がおそるおそる自分の体を見ると、さらにびっくりだった。巨大な手だった。巨大な手が僕の体を掴んで動けなくしている。
「次はその手が誰の手なのかを確認して」
結論から言うと僕の手だった。
この指先についた小さな切り傷は、昨日僕の不注意でできたものだ。
この手は間違いなく僕の手。サイズが滅茶苦茶だが。
なぜ巨大な僕の手が僕の体を拘束している?
僕は、おそるおそる先程ポケットから取り出した人形を見た。
人形だと思ったのは小さいサイズの僕だった。
小さいけれど間違えようもない生きている現在進行形の僕。
人形サイズの僕は、手に掴んでいるさらに小さい極小サイズの僕をまじまじ見ていた。
おそらく極小サイズの僕も、もっともっと小さい僕を見ているのだろう。肉眼では分からないが。
「あれ……これは、もしかして……」
首を後ろにやると巨大な後頭部が見えた。
予想した通り、僕の体を掴んでいたのはサイズの大きい僕だった。そして、その大きい僕もさらにデカい僕に掴まれていて……。
「合わせ鏡みたいな感じだ」
という感想が出た。
「これが無限の世界。今この世界では、無限に小さいキミと無限に大きいキミが無限に存在している。キミは“ポケット”の中から出たね。それは、キミが狭苦しい一つの次元から解放されたことを意味する」
彼女が言った。
僕は彼女に言った。
「ちゃんと一から説明して。すべて、ちゃんと僕が納得できるまで。……お願いですから」
彼女は笑顔を見せて頷いた。
火星の女王 @akaharatamori
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