ふたつの世界

木下源影

第1話 プロローグ

 教室の戸を開けると、そこには、8つの扉があった。

 この表現は不適格なものだ。

 実際にこれを見ている者は、人類の中では、彼、ただひとりなのである。

 これは彼の意識下で起こっているものである。


 なぜ、教室なのかと尋ねたことがある。

 彼は、小学一年生の夏までしか学校に行っていない。

 そのせいなのだろうか、学校への執着が、

 いい意味でも悪い意味でもあるのだという。

 我はある理由で、ある人物を探した。

 そして、彼にたどり着いたのだ。


 我はこの世界の創造主である。

 銀河系の地球では、創造神などとほざいておるが、そんなものはおらぬ。

 我は世界を作り出すことと、世界を壊すこと、

 そして、多少の能力を持ち合わせているのみだ。

 ある日、我は眠りに就いていた。

 目覚めると、我の創造した宇宙がふたつに増えていたのだ。

 我には、そのような能力はない。

 何かが原因で、そうなったのであろう。

 だが我は気にしなかった。


 しかし、ふと気付くと、我の創造した世界が8つになっていたのだ。

 我はふと思った。

 我が作った、オリジナルの世界はどれなのだ。

 気になり、しかも暇なゆえ、

 生物のいずれかにナゾを解明させるように思ったのだ。

 我の意識下で、これを想った。



鵺森権兵衛ぬえもりごんべい


 この名前のようなものが浮かび上がったのだ。

 我は、8つの世界に意識を飛ばし、鵺森権兵衛を探した。

 数ヶ所で見つかったのであるが、

 あるものは絶命、あるものは、病床、あるものは浮浪者、

 そして、ある世界には存在すらしていない。

 そして、我が知る鵺森権兵衛が適任者と判断した。


 奴は、資産というものが有り余るほどあり、

 時間旅行の研究をしていたようだ。

 しかし、行き詰まりを感じていた鵺森権兵衛は、

 別世界というものに執着していたそうだ。

 奴の波長と我の波長が同期したのであろう。

 そして、我は奴にある能力を与えた。


『別世界移動能力』


 我の代わりに調査し、オリジナルを探るよう命じた。

 奴は、ある想いがあり、すぐにオリジナルを限定した。

 奴のいる世界は、第三世界なのだそうだ。

 オリジナルの分裂の分裂。

 これが第三世界だ。


 オリジナルの限定は、我を納得させるものであった。

 実は我は、オリジナルの世界にこの文章を託したのだ。

 別に意味はないのだがな。

 理由があるとすれば、我が創った世界の証だ。

 そして、ただの暇潰しだ。



 世界が分裂する、条件というものは、


『偶然の中の偶然の中の偶然』


 これが引き起こす、ということなのだ。

 我はその情報を精査し、納得した。

 尚も奴は、別世界に執着し続け、己の別世界を人工的に作り出したのだ。

 奴はそれを『パラダイス』と呼んでいる。


 奴はそのパラダイスに、10体のクローンと呼ばれるモノを運び込んだ。

 うち二体は、男と女という人類で、大人と呼ばれるものでものであった。

 残り8体は、子供と呼ばれるもので、男女4人ずつなのだそうだ。

 奴は、己の造った別世界で、この10人を観察し、

 時間旅行の鍵を手に入れようとしているようだ。


 オリジナルの身体を直接、奴が造った別世界に送り込めばいいものを、

 回りくどいことに、一日の半分を現世代、

 半分を別世界に転移する実験を始めたようだ。

 この能力も、我が奴に授けたものだ。


『魂魄転送術』


 我は暇であるがゆえ、奴のお遊びに付き合っているだけだ。

 おかげで、暇なことがなくなったようだ。

 パラダイスにいるふたりの大人と8人の子供を観察することは好まれた。


 我は、少々疲れたようだ。

 我は暫し、眠りに就く付こう。

 我が目を覚ました時、別世界がどうなっているのか興味深い。

 次に我が目覚めた時、つまらぬ世界であったのなら、

 壊して創り直せばいいだけなのだ。


… … … … …


 我は目覚めた。


 鵺森権兵衛は、目の前にある、8つの扉のうち、

 一番右の第九世界、パラダイスの扉に入って行った。

 彼自身がパラレルワールドを解明し、彼自身の手で作り上げた世界だ。


 彼は、子供たちに逢いに行く。

 彼の楽しみのひとつだそうだ。

 子供たちはよく学び、よく遊んだ。

 そして彼は、子供たちにおねだりをさせた。

 そして最大級の子供たちのおねだりである、


『冒険するダンジョン』


 …とやらの完成を、間近に控えている。


 まずは扱い方を教えないとつまらないものになると思い、

 そこで主に使われる、

 『パラッショ』と呼ばれるショップをパラダイスに転送し、

 説明会を行うそうだ。

 

 おもしろいことに、彼自身がこの世界に移動すると、

 生きてはいるのだが、別の物体に変わってしまうそうだ。

 それは追々、わかっていくことだろう。


 我はまた眠りに就こう。

 稀には起きるがな。

 次に起きた時、どのような世界になっているのか、楽しみである。

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