第39話 親征

 女王の部屋に行くとそこではみんな、テーブルを囲んでお茶会に興じていた。もっとギスギスした雰囲気なのかなと思っていたが、そんなことはなく、実に楽しそう。今まで自分の娘達としか暮らしていなかった彼女たち女王は、同じ立場の同性との会話が刺激的なのかおしゃべりに夢中だった。夫の事、子供の事、そして服や髪型、話題は尽きることが無いらしい。


 イザベラ、その娘のアエラ。そしてキイロスズメバチのミサ、アシナガバチのフリルといった女王たちに加え、プリンセスとなったジュンとジュリアが爵位もなにも関係なく適当にソファに腰掛け仲良くお茶を飲んでいる。


「あ、ゼフィロス」


 俺に気づいたジュリアが自分の横に俺を座らせると、イザベラが立ち上がってお茶を用意してくれた。元々が気が利いて世話好きの蜂の女たちである。お砂糖は? とか、このお菓子が美味しいとか、あれこれ世話を焼いてくれた。


 因縁のあるアシナガバチともジュリアはすっかり打ち解けたようで、服や何かの話をしていた。


「みんなすっかり仲良しだね」


「ええ、私達はみんなあなたの眷属、いわば一族ですもの。争う理由なんか何も無いのですよ」


 その気になればこの場の全員を一発でKOできるだろうイザベラがそう言うと、みんな和やかに頷いた。そのイザベラはティーポットからみんなのカップに紅茶を注いで回った。


「そっか、それは良かった。男の人達もすっかり仲良くなってね」


「私たちに欠けていたのは友人。こうして同じ眷属となった今、友というものを持つことができました。これもあなたがもたらしてくれた恩恵なのですよ?」


「そうさ、ゼフィロス。母様たちはみんなあんたに感謝してんだ。妻としてアタシも鼻が高いってな」


「もう、ずーるーいー、さっきからジュリアったらそればっか。あたしたちだってゼフィロスさまの妻になりたいんだからね!」


「姉さんたちにはたくさんの夫がいるじゃねえか。アタシの夫はただ一人。しかも姉貴とメルフィだっていやがるんだ。贅沢言うんじゃねーよ」


 そう言われてぶーっとむくれるアエラ。それを見てみんな微笑ましい顔をした。ちなみに俺はいつものごとくマフラーでぐるぐる巻き。非常に邪魔だがこうして無いと女王たちが発情してしまうからとグランさんに言われたのだ。


 そのうちに話はどんどん卑猥な方向に。終いには俺の感想までをも言い始めた。ああじゃないこうじゃないとみんなが言い募る中、アシナガバチのフリルだけがあれっ? っと言う顔をする。


「ちょっと待って下さいよ、ってことはみんな体を重ねたって事ですか?」


「ええ、そうですよ。あなたもそうでしょう?」


「いや、わたし、頭踏まれて蜜吸われただけなんですけど」


 アシナガバチの女王、フリルの告白にその場がぴたっと固まった。


「――まあ、その、人には様々な趣向がありますからね」


 そう言ってイザベラは静かに紅茶を啜った。


「そうですわね。フリルさん? 大切なのは蜜を吸われることの方ですのよ?」


 ミサもそう言うと気まずそうに紅茶に口をつける。


「っていうかぁ、だいてもらえるのは伯爵までじゃなかったっけ?」


 アエラが目をそらしながらそんな適当なルールを口にする。


「嘘だ!! ジュンさん、これはどういうことですか!」


「え、えっと、そのですね、あの時はその場の勢いって言うか、流れ? みたいな感じで。それにフリルさん、踏まれただけで満足してたじゃないですか」


 ジュンがばっちゃばっちゃ目を泳がせてそんな言い訳をした。


「ひどい! ひどいです! 私だけ!」


 うわわんっとフリルが泣き始め、みんなはそれをなだめに回る。


「もう、そんな泣くんじゃねえよ、なっ?」


「そうですよ、フリルさん、頭踏まれて感じたからって」


「ですよ、いろんな性癖の方がいらっしゃるのですから。恥に思うことはありませんわ」


「そっちじゃねーよ!」


「まあまあいいじゃねーか、その分今日って事で」


「本当ですか? ジュリア!」


「ああ、あんたのとことはなんやかんやあったし、あの時はアタシもちっとやりすぎたからな」


「嬉しい! ゼフィロス様! 今夜はわたしが!」


 不思議なことにそこに俺の意志は全く介在していなかった。もちろん嫌なはずもないので、黙って頷いておく。


「でもぉ、フリルちゃんにそんな趣味があるなんて意外だよねー」


「はは、踏まれんのもいいもんだぞ?」


「「「えっ?」」」


「ですよね、いいですよね!」


 ジュリアの意外な性癖が明らかになった所でグランさんが登場した。


「いいですね、皆さん、仲良さそうで」


「ああ、勇者グラン。お目にかかれて光栄ですわ」


 ミサがそう言うと、イザベラとアエラ、それにジュリアはちょっと嫌な顔をした。


「まあ、お父さんは勇者って言えば勇者だよねー」


「ええ、普通の人ができないことを成し遂げた人を勇者、というのであれば」


「だな。例えそれがどういった方向性であっても、というならな」


 三人から白い目で見られたグランさんは、はははっと、笑ってその場をごまかした。


「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃないか、それよりこれは公式な話だからね、せっかく玉座だって作ったんだから座り直そうか」



 そう、この部屋はすっかり中世の王宮、謁見の間の様に改造されていた。仕方なくみんな席をたち、俺は玉座に、そしてみんなはその序列通りに設えられた席に着く。


「さて、ゼフィロス王を戴き、僕たちはこうして一つに纏まれた訳だ」


 軍師のように俺の隣に立つグランさんはにこやかにそう言った。


「んで? 話は何だよ、親父」


 王妃として、女王イザベラと共に最上位の席に座ったジュリアがそう発言する。


「僕たちは新しい王国をこの地に築いた訳だ。その王国としての実績、必要だとは思わないかい?」


「グランさん? 具体的にはどのような」


「エルフ討伐。僕達の勢力圏の外れにエルフの集落があるのは知ってるよね? そこを叩こうと思うんだ」


「えー、めんどくさいー! あそこまで遠いしぃ、べつにほっとけばいいじゃん」


「そうですよ、グランさん。なにもわざわざ」


「えっとね、これは僕達にとって、重要なことなんだよ? 我らが王国だけでエルフを討伐する。そうなれば、王国の権威が上がり、評議会でだって、今まで以上に意を通せる。それに、北にエルフがいちゃ僕達だってあちら側には巣分けできないだろ?」


「確かに、あの集落の辺りは豊かな地ですし。私の娘もあそこにコロニーを築ければ楽ではありますけれども」


「そうですね。北に進めれば今よりは。けど」


 おもったよりも女王たちの反応は悪い。グランさんはなんで? という顔をした。まあ、確かに俺にとっても意外ではあったが。


「えっ、みんなは何が問題なんです?」


「「「「めんどくさい」」」」


「まあ、巣分けは他でもできますし」


「そうよね」


「っていうか、むーりー」


「評議会などはその気になればどうにでも。それに、こうして私達が手を取り合った以上、口うるさいクロアリのシルフとて」


「そうでございますわね」


「そうそう、クロアリなんかに文句は言わせないんだから」


「ですよねー」


 うーむ、行動はしないが人の言うことは聞くつもりもない。とんでもない集団が誕生してしまったらしい。


「こまったなー、残念だなー、ねえ、我が王?」


「えっ?」


「せっかく頑張った人には褒美も考えてたのになぁ、ね? 我が王?」


「えっ?」


 グランさんがそう言うと女王たちはぴたっと動きを止める。


「――ゼフィロス様から褒美が? 興味深いお話ですね、続きを」


 イザベラが目の据わった顔でそう言った。


「まずは」


 そう言ってグランさんは俺のマフラーを奪い取った。


「あ、ちょっと!」


 その瞬間女王たちはトローンとした目になって鼻から息を吸い込んだ。


「ああ、なんて素敵な匂い」


「やだぁ、頭がぼーっとしちゃう」


 イザベラとアエラはつうっと鼻血を流してそう言った。ミサとフリルは恍惚とした顔でパタンと倒れ込む。ジュンはもじもじとしながら床に座り込んだ。平然としているのはジュリアだけ。


「我が王が常に身にまとっているこのマフラー。欲しいとは思わないかい?」


「「欲しい!」」


「だったら君たちの力を我が王に。あとは判るね」


 勝ち誇った顔でグランさんは再び俺にマフラーを巻きつけた。


「わかりました。皆さん、女王として命じます。明日までに全ての手はずを。一気に決めますよ?」


「「はい!」」



「隊列整えーっ! 各自持ち物の最終確認を!」


 翌朝、コロニーの前には蜂族のソルジャーたちが鎧姿で列をなしていた。各女王のコロニーからそれぞれ百、戦後、そこに巣分けをすることになったキイロスズメバチは二百。総勢で五百のソルジャーたちとその三倍はいようかという眷属たち。彼女たちを前に女王イザベラが演説をする。


「いいですか、皆さん。此度は我ら蜂の王国としての初陣となります。ですが慌てることも、硬くなる必要もありません。私たちは今までどおり、ただ最強であればいいのです。過去には諍いもありましたが、今はこうしてゼフィロス王の元、一つに。我らが力、王の御前で存分に。いいですね?」


「「はいっ!」」


「やることは簡単。あの不快なエルフたちを一人残らず殺すだけ。できるだけ素早くそれをなせばいいのです。では出陣!」


 イザベラの号令で皆が一斉に空に飛び立った。実に圧巻な光景だ。俺はジュリアに抱え得られて空に上る。アイちゃんに乗っていくと時間がかかるのだ。


「僕もこんな形で外に出られるなんて、最高だよ!」


 勇者グランは羽を広げて嬉しそうに飛び回る。女王たちはそれぞれ一人の夫を軍師役として伴っていた。



「しかし、すごい光景だね。前の城攻めのときもすごかったけど」


「あんときと違って蜂族だけだからな。ちんたら地上を進まなくていいのはなによりだぜ」


「それにしてもさ、ジュリア。ジュリアは俺の匂いを嗅いでも平気なの?」


「あはは、前に言ったろ? 匂いなんてのはあんたの一部さ。アタシはそれ以外のあんたのことも全部好きなんだ。匂いくらいでクラクラしねえよ。なんせアタシはあんたを愛してるんだ」


「そっか。俺もだよ、ジュリア」


 周りのじとっとした視線を感じながら俺とジュリアはイチャイチャしながら進んだ。途中で休憩を挟みながら半日ほど空を進むと眼下にのどかな農村、と言った風景が広がってくる。ゴーグルで拡大すると村は丸太で作られた高い壁に囲まれ、その外にある畑ではエルフたちが働き、一台のアンドロイドが周囲の森を切り開き、新しい畑を作っていた。そうだよね、やっぱりいるよね。アンドロイド。エルフたちだけじゃ野生生物に襲われたらひとたまりもなさそうだもの。


 そうするうちに女王たちはそれぞれ鎧姿に変化する。ソルジャーのものよりも威厳のある形の鎧姿になった彼女たちが俺の周りに夫と共に集結する。


「機甲兵は全部で二体。まずは眷属たちに石を持たせて空爆を。機甲兵はジュリア、君に任せていいかい?」


「ああ、任せろ」


 グランさんにジュリアがそう答えると、女王イザベラがさっと手を挙げる。それを見た眷属たちが一斉にエルフの集落に向かい、空爆をおこなった。


 俺と女王たちは小高い丘に降り立って、その周囲をソルジャーに固めさせる。残りのソルジャーは上空で待機していた。



 しばらくすると、こちらに気がついたのか、アンドロイドが二体、足を踏み鳴らしてやってくる。アナライズによればやはりここにいるのも2000系。旧式の中に人が乗り込むタイプだ。エルフたちは上空の眷属たちの対処に追われ、こっちはアンドロイド任せのようだ。


「さって、アタシの出番、って訳だ」


「いや、ここは俺が」


「えっ、何言ってんだよ。だめだろ、そんなの」


「ここまではエルフの矢も届かない。なら俺が行ったほうが安全だ」


「けど!」


「まあまあジュリア、ここは我が王にお任せしようじゃないか。ゼフィロスがみんなの前で機甲兵を、ともなれば、王国の結束は盤石だよ」


「オヤジ! んなことはどうでもいいんだ! ゼフィロスになんかあったら!」


「ゼフィロス、万が一君が死ぬようなことがあれば全ては終わる。わかっているよね?」


「ええ、大丈夫ですよ」



 俺は右手に単分子剣、左手に空気銃を構えて前に出る。ゴーグルには二体のアンドロイドの急所、動力装置の位置が示されていた。


『お前たち! どういうつもりか! 我らは敵対する意志はないと獅子族を通じてそちらの評議会に申し入れを!』


 スピーカーでがなる女のエルフの声が、ひどく不快なものに感じ、俺は地を蹴って走り出す。なんか、すっごく体が軽く感じる。そして心の奥に破壊衝動が強くよぎった。


『待て! 待てと言っている! まずは話を!』


「うぉぉぉぉ!」


 俺は雄叫びを上げてアンドロイドの胸を貫く。機能を止め、分子の結合が崩れ始めたアンドロイドからエルフが飛び出て来たのでそれを空気銃で撃った。「ぎゃん!」と声を上げてエルフがひっくり返ったのを確認し、もう一体のアンドロイドに向かう。やっべ、すっげえ楽しいんですけど!


『きっさまー! よくも! な、なぜ動かん! 動け!』


 アンドロイドは人間には危害を加えないようにできている。安全装置が働くのだ。俺は今度はそのアンドロイドの腕を切り落とし、その上で動力装置を刺し貫いた。ぽろぽろと土に還るアンドロイドの中から飛び出してきたエルフに向かいやはり空気銃を撃った。


 二人のエルフが倒れ伏し、おぉぉ!っと歓声の上がる中、俺は剣を高々と掲げ、「突入!」と叫んで振り下ろす。ソルジャーたちが一斉に壁に囲まれた村に飛び入っていった。


「実にお見事でございました。我ら一同、忠誠の心を新たに」


 剣を収め、みんなのところに戻ると、イザベラを始めとした女王たちが鎧姿で膝をついた。その夫たちもその後ろで同じ姿で膝をつく。


「後は任せていいかな、イザベラ?」


「はい。おまかせを。ミサ、貴女は街に行って指揮を。一人も生かしておいてはなりませんよ?」


「かしこまりましたわ」


「アエラ、あなたは周辺の警戒を。エルフに与するものが潜んでいないとは限りませんから。眷属をちらして周囲50kmは安全を確保しなさい」


「わかったわ」


「フリル、あなたはミサの補佐、それにミサが新しく作るコロニーに対する技術的な助言を」


「わかりました」


 女王たちはそれそれの夫と共に羽を広げて一斉に散っていった。


「さて、後は僕達だね。我が王、あの二人のエルフは生きているのかい?」


「ええ、空気銃で撃っただけですから」


「なら、色々話を聞いてみないとね。僕はあちらでそれをするよ。いいね? イザベラ」


「ええ、私はエルフの匂いがとても嫌いですから」


 グランさんは何人かのソルジャーを連れてエルフの捕縛に向かった。


「けれど、無事でよかった、ゼフィロスさん。私は貴方の臣下であれど、母でもあるのですよ? 機甲兵に立ち向かう姿はとても素敵でした。けれどもああいう危ないことは」


「そうだよ、母様の言うとおりだ! あんたが前に姉貴を救った事は知っているけどもうあんな真似は」


 二人はそう言って俺にひしっと抱きついた。


「でもさ、俺もオオスズメバチの一族なんだ。戦えるときには戦わないと。みんなに守られてばかりじゃね。それに、なんかこう、すっごく体が軽いんだ。戦いたい、そんな気持ちが湧いてきて」


「まあ、すっかり貴方は私の子ですね」


「そうさ、そしてアタシの夫。かっこよかったぜ、ゼフィロス」


 なんかこう、照れくさくなった俺はその場に鎧姿のイザベラを押し倒し、その大きな尻尾から蜜を吸った。


「やん! 素敵、逞しくて、力強くて! あーっ!」


 とろんとした蜜を吸い尽くすと今度はジュリアだ。


「いい、いい、アタシ、何されてもいい!」


 薄いジュリアの蜜はさっぱりとした後味でなんともいいのだ。


 蜜を吸われ、だらしない顔で転がる二人をそのままに、近くの木に寄りかかった俺は葉巻を取り出し火をつける。自分でも判る。明らかに体が変わってきている。俺はあんなに素早く動けなかったし、流石に超振動を使ったとは言え、今までの俺では片手でアンドロイドを切り裂けなかった。さらに、空気銃だって逃げるエルフに当てられるほど、俺は射撃がうまくはなかったのだ。


 そして何より心の変化。エルフは話し合いを、と言ったがそうする必要を微塵も感じなかった。今も捕虜となった二人のエルフがソルジャーたちの槍に貫かれたがそれを見ても何も思わない。特に女の方はかなりの美形だったにも関わらずだ。今も村の中では虐殺、そう言っていいほどの殺戮が行われているはずだ。女も、子供も、そして赤子でも。それについても特に感じる所は無かった。いうなれば、害虫の巣穴に殺虫剤を撒いたような気分だろうか。


「いやいや我が王、実に爽快な気分だね」


「ねえ、グランさん」


「なんだい?」


「俺はこのままヒトではいられなくなっちゃうのかな?」


「さあね。それは僕にもわからない。ただ言えることはそれを君がどう思うか、さ」


 グランさんはそう言って、俺の横に腰掛け自分も葉巻に火をつけた。


「僕らの先人たちはね、自分の力でこの大地に生きるために自らを変えた。そして始祖アイリスは生きるために周りを変えようとした。自分たちは変わらずに、機甲兵を使ってね。だから彼らエルフはこうして森を切り開く。僕らは森をそのままにコロニーを作る。問題はね、生き物の種類、ではなく考え方だと思うよ?」


「俺は今のこの世界が気に入ってます。豊かな自然とそこに生きる人たちが」


「ならそれでいいじゃないか。ヒトであろうが何であろうが君は僕らの一族を統べる王だよ。体の変化なんて些細な事さ」


「ただね、なんか怖いんですよ。蜂族に近づいてそうなってしまうならそれはいい。だけどアリにも、そして眷属たちにまで魅力を感じるなんて。なんかごちゃまぜになった生き物みたいで」


「それもまた一興さ。眷属たちは意志が通じて価値観も同じ、エルフは姿形が似ていて意志も通じるけど、価値観が決定的に違うんだ。大切なのは姿かたちよりも価値観、ということだね」


 要するにだ、とグランさんは言いかけて葉巻をもみ消した。


「君のスケベ心がこういう結果を産んだわけさ。僕の言うように素直にイザベラの夫の一人となっていれば余計な悩みも無かったのに。ま、自業自得だね、我が王?」


「そうですよね。姉に手を出して他の種族にまで勇者と知れ渡ったグランさんの言うことは実に説得力があります」


「眷属と交わった君にはかなわないけどね」


「あ、あーっ! それを言ったらお終いでしょ!」


「僕だってずっと気にしてるんだよ!」


「ふざけんなシスコン!」


「変態に言われたくないね!」


「眷属の良さも知らないくせに!」


「あっ、それ、それなんだよ。で、実際どうなの? すっと気になっていたんだ。」


「それがですね、おもったよりも良くって」


 ふんふん、なるほど、それで? と、勇者グランは関心しきり。ぐへへへ、とやらしい笑いを浮かべてそんな話をしていると、うしろにぞくり、とするものを感じた。


「へえ、グランさん? ゼフィロス。それはどういうことかしら」


「アタシたちがそばにいて他所の女、しかも眷属の話とはねえ」


「すこし、お仕置きの必要があるようですね」


「だな。母様、やっちまえよ」


 目にも留まらぬ速度で拳が振るわれたかと思うと、俺の意識はそこで途切れた。最後に聞こえたのは勇者グランの「しょえっ!」ッと言う情けない叫びだった。


 俺が目を覚ましたのはコロニーに帰り着いてからだった。そこで俺達はイザベラから頭が壊れるかと思うほどお説教をくらい、ふらふらになりながら風呂へと逃げた。しかもなぜか俺は裸。来ていた服はコート以外、全部褒美として各女王に配られたのだという。全裸で正座でお説教。くぅ、こいつは効くぜ。



「まったく、ひどい目に遭ったねえ」


「本当ですよ。なぐられるはお説教されるわ」


「他の女王たちが帰ったあとで何よりだったよ。へたすりゃ彼女たちからも叱られかねない」


「おかしいですよね。俺は王で主君なんでしょ?」


「そうだね、君はみんなの王だ」


「なのに裸にされてお説教ですよ? パンツまで!」


「パンツはアエラが持っていったって聞いたよ。さすが我が娘。一番匂いの濃いところだからね」


「もう、最悪なんですけど!」


「――イザベラの行いは少々臣下としては行き過ぎがあるね。主君たる君は彼女を罰する義務がある」


「罰するって、どう考えても俺達が罰せられる未来しか見えませんけど?」


「今宵、僕と二人でイザベラの寝室を襲撃するんだ」


「えっ、そんなこと!」


 そのあとグランさんは俺に魅力的な提案を重ねていく。うぉぉ! マジか! と言いたくなるような。



 翌朝、俺達はみんなの見送りを受けてコロニーを旅立った。


「なあ、ゼフィロス。昨夜は親父と何やってたんだ?」


「なあに、ちょっとした確認をね。俺が王でイザベラは臣下。そう言う確認をしただけさ」


 ああ、実に空が青くて綺麗だ。晴れ晴れとした空に晴れ晴れとした気分。最高だね。

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