第6話ココル村

 王都タリスタンから東に二時間ほど飛空艇で飛んだ先に、ココル村は位置する。


 飛空挺の時速は約二百キロあるのだが、飛空艇はどこの国も数がない。

 我国アイーンバルゼンでも、飛空艇は現在俺が使っている機体を含めても五機しかない。


 飛空艇は動力源となる飛空石と、飛空艇を動かせるだけの巨大な魔石が必要となるためだ。


 仮にもしココル村にパルセミリスの兵が攻めてき、飛空艇を破壊されたとなれば、さすがの父上たちも怒り狂ってしまう。


 飛空艇を停める場所を考えたのだが、村はずれしかなく、止むを得ずそこに停める事にした。


 念の為兵を50人、飛空艇の警護のため残し、ココル村へとやって来たのだが、さすが村だ、何もない。


 村人は突然やってきた他国の兵に驚いていたが、直ぐに同行したアリアと数人の付き人が、村長らしき男に説明してくれたようだ。


 やはりアリアを連れてきたのは正解だったのだが、怒っている。

 昨晩の一件以来、アリアは目も合わせようとしない。

 このままだとパラダイス計画はロストしてしまう。


 仕方ない、ご機嫌を取るか。

 背後からアリアに歩み寄り声をかける。


「いい村だな。畑も多く作物も良く育ちそうだ」


 アリアはこちらを見向きもせず、村長と数名の付き人を従え去っていった。


 なんて態度だ! ヒドイ!

 他国から救援に来た王子に取る態度か!


「どうかしたのですか?」


 俺のご機嫌斜めな態度に気づいたのか、ちびっ子魔道士が話しかけてきた。

 この苛々を抑える為、ルナのちっぱいをモミモミして気を晴らす。


「っん! な、何をするのです!」

「ちょっと揉んだだけで目くじら立てるな! 減るもんじゃあるまい」


 物凄い軽蔑の眼差しを向けてきやがるな。

 一応……取り繕っておくか。


「ここはいつ戦場になるか分からんのだぞ! いついかなる時も油断するなという事だ!」

「今回はそういう事にしといてあげますよ。ただし、次やったらいくら王子でも爆炎魔法で灰にしてあげますよ」


 なんという恐ろしいちびっ子だ。

 シスにパリスはどこに行った?


 二人の姿が見当たらないので、辺を見渡していると!

 居るではないかこの村にも!


 修道服に身を包んだ美女が!

 しかも巨乳だ!

 体のラインを強調するように、ピタッと張り付いた修道服から、神に仕えている者とは思えんエロさを醸し出しておる。


 アルトロ=メイル=マーディアルは奮闘すると父上に誓ったのだ。

 行くしかあるまい。

 いざ目の前の小さな教会に出陣じゃ。


 軽くスキップをしながら扉の前で立ち止まり。

 両の手で勢いよく扉を押し開ける。


「せやー!」


 教会の奥で跪き、手を合わせ、祈りを捧げるシスターが勢いよく開いた扉に驚き、こちらを振り返り俺を見つめてくる。


 颯爽と登場した俺に見惚れておるな。

 シスターは立ち上がり、こちらに近づいてくる。


「いけませんよ、そのように扉を開けては、主が驚かれてしまいます。」


 微笑みながら俺にお説教とは、流石はシスター。


「見慣れない方ですね。先ほど村に来た方々のお一人ですか?」


 この高級な羽織ローブに身を包む、気品溢れる俺が兵たちと同等の者だと思っているのか?


 世間知らずにも程があるぞ!

 だがそこがいい!


「我が名はアルトロ=メイル=マーディアル。アイーンバルゼン国の第三王子にして、この村の救世主だ」


 足を肩幅まで開き若干顎を上げ、両腕を組む、決まったな!

 研究を重ねたこのポーズ、惚れたか?


「これはこれはご丁寧に。私はシスターアイシアです。それで何か御用ですか?」

「っえ!」


 アイシアちゃんが余りにも平凡な返しをしてきたので、つい間の抜けた声が出てしまった。

 俺が王子だと名乗れば大抵の者は態度が一変するのだが……。


 そうか! アイシアちゃんは天然なんだ!

 きっとそうに違いない!


「嫌いじゃないよ、天然!」

「はい? 何の事ですか?」


 しかし見れば見るほど、怪しからん。

 聖職者とあろう者がなんというナイスバデー。

 まるで生前愛した、サキュバスのようではないか!


「あの……それで御用件は何ですか?」


 いかん! つい顎に手を当てナイスバデーを凝視してしまい、不審者を見る目に変わっておる!

 すぐに俺の魅力に気づかせてやらねば。


「お前がこの教会に入っていく姿が見えてな、あまりの美しさに後を追いかけてしまった」


 いくら天然でもこのド直球、心に響いたろ!


「フフフ、面白い方ですね」


 あれ? 全く響いておらん!

 普通そこは胸をときめかせるところだろ。


 王子様が言ってるんだぞ!

 そこらの村人が言ってるんじゃないんだぞ!


 クッソー! アリアといいアイシアといい、この国の女はどうかしてるんじゃないのか!

 なぜ俺の魅力がわからないんだ、そもそもこの女は意味を理解できているのか?


「あの、俺王子様だよ? 王子様って知ってる?」

「もちろん知っていますよ。それが何か?」


 首を傾げているが、傾げたいのは俺の方だ。

 クエスチョン、ハテナマークだよ。


「いやまぁ、特に理由はな――」

「――アル、緊急自体よ! すぐに来て!」


 アリシアと話していると突然、血相変えたパリスが駆け込み、張り詰めた声が教会に響いた。


 振り返りパリスに目を向けると、ここまで全力で走ってきたのだろう、前屈の姿勢で膝に手を置き、肩で息をしている。


「何があった?」

「村の近辺を見回りに行っていたセドリックから、敵の軍隊を確認したとの報告がありました! 既に皆、村の中央に集まっている、アルも急いで来て」


 まだ村に来て小一時間しか経っていないというのに、災難だな。

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