第43話、それは少年のママで。

「ママー! マーーーーマーーーーー!」


 いや五月うる! そんな叫ばなくても良くね?


「五月蝿いわね! 今お化粧中だって言ってるでしょ!」


 いや突然だな。お母さんもそんなに怒鳴らなくて良くね?


「怒鳴るなー!!!」


 少年、お前も怒鳴るな。


「ウガァァァァァ!」


 ガトーショコラ、張り合うな。完全に不審者だぞお前。


「ワオオオオオオン!」


 少年、お前の前世は犬か? ガトーショコラみたいなアホと張り合うな。


「ウガガガガガ」

「ガルルルルル」


 お前ら仲いいな。


「ウガアアアアアアアア!」

「ワオオオオオオオオン!」


「五月蝿いわね! 今お化粧中って言ったでしょ!!!」


 めっちゃ怒鳴られた。ご近所のお母さん怖い。これ以上ガトーショコラが変な事やらかさない内に、回収しなくては。そう思った瞬間だった。先にガトーショコラが動いた。


「どうしたのタケシ、ママよ?」


「いやお前ママじゃねぇだろ!」


「へっ、ママ?」


 少年、お前は盲目なのか? どう見てもお前の目の前にいる女はバケモンだぞ。白目剥いてる変顔女だぞ。お前のお母さんこんなにキモイ顔してるのか?


「そうよ、ママよ」


「だからお前はママじゃねぇよ」


「ママ……っ!」


 少年、これはわざとなのか? わざとガトーショコラに合わせてるのか? まさか素で言ってるんじゃないよな?


「ワオオオオオオン!」

「ワンワンワンワンワンワン!」


 お前ら母国語で会話すんな。


「五月蝿いわね! 今お化粧中って言ったでしょ!」


 お母さんも化粧長いわ! 子供の入学式遅刻させる気かよ!


「タケシ、今怒鳴った女はあなたの敵よ」


「ガトーショコラ、洗脳しようとするな!」


「今怒鳴った人はタケシのパパよ」


「誰がパパだ。違えよ! お前と結婚した事実も子供こさえた過去もねぇしその気もサラサラありゃしねぇよ! いい加減にしろ!」


 必死に否定を入れる俺を他所に、ガトーショコラは畳み掛ける。


「あの怒鳴っているパパは、アタシの旦那さんよ。分かった、タケシ」


「ボク、タケシじゃないよ?」


 他にもツッコミどころあるだろ! しかし、少年は突然踵を返し、俺とガトーショコラの存在を無視した状態でさらに声を張り上げた。


「集金でーーーーーす!」


 いやどこで覚えた。


「はーーーい!」


 家の中から声が聞こえてきた。って子供の声ガン無視なのに集金には反応するんかい! どういう家系だよ! 程なくして、顔の右半分だけがめっちゃ美人に化粧された母親が出てきた。ってかなんで右半分だけなんだよ! 満遍まんべんなくやれよYouTuberかお前は。ってかアイプチすっご! 右目に対して左目歪すぎるだろ! いや、整形かなにかしたんか?


「やっぱりママ居るじゃん!」


 子供の方がそう叫ぶと、母親らしき存在が玄関を開け放ったまま叫ぶ。


「しまった!!!」


 しまったじゃねえよ。いや、ドア閉めんなよ。家の中からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてくる。どうやら化粧をしに戻ったらしい。って堂々と育児放棄すんな。


「マーマー!」


 少年は性懲りも無く声を貼りあげる。


「なーにー?」


 今度はちゃんと返事が返ってきた。俺達の存在に気づいたからだろうか、一応子育てをしている姿は見せようとしているらしい。

 さて、そんな母親に対し放った少年の言葉。


「今日学校行かない!」


 少年の瞳には、何か決意めいたものがあった。だが、そんなものを許す親が居るだろうか。まして今日は入学式当日と来た。そんな晴れ舞台を休ませるなんて、周囲の目に耐えられるだろうか。答えは否だ。


「ダメよ、ちゃんとママと学校行きましょう。ね? 今日は入学式なんだから。ちゃんと学校行くのよ。そして友達100人作るのよ」


「友達100人できるかな?」


 突然歌い出すな。ミュージカルの舞台かよここは。


「100人で食べるのよ」


「ママ、僕を入れて101人になるはずだよね? 100人で食べるって歌ってるけど、それだと誰か一人ハブられちゃうよ?」


 このガキ鋭いな。


「大丈夫よ、一人くらい消えてても誰も分からないわ」


 お前最低だな。しかし、子供は納得した様子で手を叩いた。


「なるほど! そうか!」


 何が成程だ。納得すんな。と、思わず声から出そうになったツッコミを飲み込む。相手するだけ無駄だ、この家族。


「もうすぐ化粧が終わるから、ちゃんと待ってるのよ」


「ママー!」


「なーに? どうしてさっきからママを呼ぶの?」


「ママー! お外に変な人いる!」


 ついに言われたな、ガトーショコラ。


「白黒の頭してる変な人ー!」


「いや俺の事かい!」


「ダーリンは変じゃありませんー! イケメンですー!」


 嬉しいけどそこで張り合うな。


「変だもん!」


 そう叫ぶ少年に対して、母親の声は、相も変わらず大きいものだった。しかし、どこか優しさが篭っており、子供に勇気を与えようとしている。


「大丈夫よ、怖くないわ」


 まぁ、あんたの化粧の方がぶっちゃけ怖かったもんな。とは言えない。


「ただの不審者だから」


 あんたも失礼だなおい!

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