第13話、それはダイヤモンドで。

「ダイヤモンド、アタシの願いに応えよ。その名に刻まれた永遠の誓いを今ここに示せ、変身トランス


「まさか、詠唱!? しかもトランスだと!?」


 突如として、彼女は眩い光に包まれた。少し明るく可愛らしい音楽が流れ、彼女の身に付けていた全てが弾け飛ぶ。だが裸体を晒す訳ではなく、全身を光の衣装が覆い尽くしているのだ。

 それから弾け飛ぶ様なポップな効果音と共に、彼女の光はロリータに似た可愛げのある純白のドレスへと変身していく。そして決め台詞。


「煌めく真実の輝きッ! ダイヤショコラ!」


 見覚えがある。その光景はまるで……。


「プリキ○ア……ッ!?」


「それは日曜朝に放送してる奴よっ! これ二次創作とかじゃないからそういうの持ち出すのやめてダーリン」


「あっ、はい……。お前まさか、トランス!?」


 動揺を見せる俺に、ガトーショコラは不気味に笑う。


「あはは♡ やっと思い出してくれた? ダーリン♡」


 ダメだ、思い出せない。しかし彼女の殺意が俺に向き続けていることだけはハッキリと理解出来た。それに対して抱く感情、紛れもない恐怖だ。


「悪いなガトーショコラ。思い出せない」


 俺が恐怖していることを悟られてはならない。至って平静に、余裕を演出する。そうしないと、奴のペースに持っていかれたら……殺られる。


「そうよね、知っていたわ、それにダーリンは嘘をついていない。私の常備発動型空間魔法『真実金剛石トゥルーダイヤモンド』の前で虚偽の申告をすれば、そいつの体の炭素が崩壊するのだから」


 こっわ。え、バケモンじゃん。俺嘘ついたら死んでたの? 確かタンパク質にも炭素って含まれてたよね? ヤバっ。怖いか聞かれた時なんて返事しよう。


「ダーリン、アタシの事怖い?」


「はい、怖いです」


 何の準備もしてねぇよォ!


「そっか、そうだよね。アタシ……というか、亜月ちゃんのこと何も思い出せない?」


 先程から何を話しているんだ。そんなに俺がナンパした事が気に触っているのか。


「覚えてることといえば、今日佐藤さんをマドモアゼル呼びして必死にデートに誘ったことくらいだが」


「そんなのどうでもいいのッ!」


 俺はどうでも良くねぇよ! 仮面の下に隠れた表情、今羞恥心で真っ赤だわ畜生!


「でも思い出してくれない方が助かったりするの。思い出しちゃったら、多分亜月ちゃんが大変だから……」


「大変?」


「亜月ちゃんは恋する乙女なのよ♡」


 ガトーショコラは佐藤亜月の体を揉みしだきながら恍惚の表情を浮かべる。え、エロい。目に毒だ。いや、これも空間魔法か、目が離せない。く、クソォ、なんて卑怯な……ぐへへ。


「恋する力は恐ろしいのよ。その恋が叶っちゃったら、大変な事になっちゃう。だから……ダーリンは居ない方がいいのよ」


 イヤらしい胸揉みが終了し、やっと俺の眼球に自由が戻った。だがまだ呼吸が荒い。なんて恐ろしい技なんだ……ぐへへ。

 いや、そんな事よりもだ。恋が叶ったら大変ってどういうことだ。訳が分からない……訳が分からないが、言葉の内容的に俺を殺す気で居ることは間違いないらしい。……っと、こんな所にめっちゃでかい金が落ちてる……少しくらい貰ってもバレないよな……。


「ごめんなさいダーリン。でも、会えてよかった……わ♡」


 突然俺の背後の壁が爆発した。えっ、やべぇ。俺がこっそり金塊盗もうとしたのがバレたのか?


「もう、ダーリンったら避けちゃ嫌よ♡」


 いや、そうじゃなさそうだ。普通に俺への攻撃だったらしい。危なかった。あと一瞬回避……もといネコババが遅れていたら、粉砕していたのは俺の方だろう。

 ジャラジャラと音を立てて崩れる装飾品の中から、死んだ魚のような真っ白い眼球をこちらに向けるガトーショコラが出てきた。真昼だというのに室内は仄暗く、真っ白い眼球が光って見えた。


「驚いたな。まさかその壁の穴、お前が殴って開けたのか?」


「あはは♡ ダーリン驚き過ぎだよ♡」


「いやー、ごめんごめん。あまりにも早すぎて、ほら。パンツしか取れなかった」


 そう言いながら俺は手を広げる。ガトーショコラ……いや、佐藤亜月が履いていたパンツを見せびらかすためだ。


「真っ白純白パンツだと思ってたんだが、黒なんだな。えっちいの」


 佐藤亜月のパンツは白だと思っていたが、どうやら黒らしい。それともあれか、ガトーショコラの能力で黒く染ってしまったか。まぁいい。これを見せびらかすようにしてやつの動揺を誘う。嘘をついてはいけない。出来るだけ言葉は選びつつだ。

 まずは相手の集中力を欠き、そしてこちらのペースに運ぶ。なぁに、預金はまだまだ沢山ある。少し時間をかけてもいい。本気でコイツを……倒す。佐藤亜月の安否は、その後だ。


「へぇ、青いリボンか、可愛いじゃん」


「…………」


 さすがに怒ったか、だが冷静さを失えば隙が生まれるはずだ。あんな美人の佐藤亜月からパンツを盗んだことは心が痛むが、これも作戦だ。さぁ、怒れ。そして我を忘れて攻撃しろッ!


「キャー♡ ダーリンのえっち♡」


「へっ」


「もー、ダーリンったらそんなにアタシの『ココ』が見たいの?」


 ガトーショコラはわざとらしくクネクネと腰を振り、ワンピースをゆっくりと託しあげる。っておい、やめろ。今佐藤亜月は履いていないんだぞ。そ、そんなもん、そんなもん見せられたら俺、俺マジで死ぬから、タイムタイム。頼むストップッ!


「ダーリンのエッチ♡ 興奮したんでしょ?」


「い、いやぁ? そ、そ、そんなわけじゃぁっ?」


 な、何を言い出すんだ突然。や、ヤバいなんかめっちゃ恥ずかしい。えっ、顔が赤くなってヤバい。語彙力低下する。やばい、どうしよう。やばい。


「ダーリンったら……えっち」


「ち、ちがぅ、俺はお前なんかに欲情なんかしないっ……ガハッ」


 突然胸に痛みが走った。仮面越しに血を吐いたのが分かる。何故だ、攻撃は受けていないはずなのに……。


「あれ、ダーリン今……嘘ついたね♡」

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