第922話 終活‐9!
マリーとフランが落ち着くまで、俺は部屋を出て行った。
シロを残してきたので、なにかあれば連絡があるはずだ。
死とは、亡くなった人との繋がりを断つ。
心の中で生きているとは言うが、話し掛けても答えてはくれない。
そして、徐々に記憶から消えていく――。
それは仕方のないことだし、残された方が辛いことも理解している。
この終活をしていると、何度もアルとネロの顔が浮かんでいた。
俺だったら、この辛さに耐えきれないかも知れないと思ったからだ。
しかし、今の俺は自分の都合で死ぬことを選択した。
マリーたちには、その辛い思いをさせている。
やはり、知らせない方が良かったのかと考えていた――。
「取り乱して、ごめんなさい」
「いや、そうなったのも俺のせいだからな」
シロから連絡を貰って再び、部屋に戻った。
マリーも落ち着きを取り戻していたが、俺に気を使っているようだ。
「タクトが悩んだ末に出した答えなんでしょう?」
「まぁ、そんなところだ」
「よく考えれば、タクトの人生だから、私たちに文句を言う資格は無い訳だし…
…」
「悪いとは思っている」
俺は謝るが、マリーもフランも理解はしたが納得していない。
その後、四葉商会について三人では話し合いをする。
マリーから不安なことや、質問などに答える。
と言っても、マリーの中では結論出ていることが多い。
最後に背中を押して欲しいだけなのか、俺と商売の話をするのが残り少ないことが分かっているので、話を少しでもしたいのかは分からない。
俺も出来るだけ、マリーたちの手助けになるような物を作成して残しておきたいと思っている。
そのことをマリーに聞くが、マリーは「大丈夫」とだけ言う。
俺がいなくなった後のことを考えているのだろう。
四葉商会を背負う覚悟を再認識したのだろう。
マリーは不安そうな顔で、ある都市に四葉商会の店を出したいと話した。
俺に許可を取るようなことではないが、律儀なマリーらしいと思った。
マリーが新たに出したいと言っている都市は、マリーの出身地だった。
その都市とは、業界第二位のヴィクトリック商会が商売を牛耳っていたそうだ。
ここで話はルーカスの誕生祭前夜に行われた前夜祭まで、話が遡った。
ヴィクトリック商会の代表の娘で副代表のベラジーは、マリーが気に入らないのか 前夜祭で、四葉商会に喧嘩を売ってきた。
四葉商会を潰すや、四葉商会と取引をした都市には、ヴィクトリック商会の商品は下ろさないなどと、領主たちのまえで言い放った。
しかし、ルーカスの義理の弟で魔法都市ルンデンブルク領主のダウザーや、ルーカスの姉フリーゼや、王都魔法研究所にグランド通信社が、四葉商会の味方をしたことで、ベラジーの思惑通りに事が進まなくなっていた。
その後、ヴィクトリック商会の代表チャランタンが登場するが、娘に甘く「冗談だ」と軽く流そうとしたことで、周りの顰蹙を買うことになる。
前夜祭終了後、商人たちの間ではこの話題で持ちきりだったようだ。
ただでさえ、第一王女のユキノと婚約した俺が代表を務める四葉商会に喧嘩を売ったことのだから、当たり前だろう。
元々、ヴィクトリック商会は取引をしていた商人たちに厳しく、何人かの商人はグランド通信社に鞍替えをしていた。
誰もが代表チャランタンが娘である副代表のベラジーに、どのような処分を下すかに注目をしていた。
しかし、チャランタンは何の処分も下さずに、ベラジーを副代表のままにした。
このことで、取引していた商人たちは一気に、ヴィクトリック商会から離れることとなった。
現代表のチャラタンの父親に世話になっていた者や、その家系が多かったのだが、完全にヴィクトリック商会を見放したのだろう。
商品を手に入れられないヴィクトリック商会は徐々に、その力を失っていく。
そして、少し前に各都市に会った支店を閉鎖したそうだ。
実質の倒産だろう。
そのヴィクトリック商会が所有していた店で、商売をしたいそうだ。
しかし、その都市は決して大きい訳では無い。
特産物や、観光名所がある訳でも無い。
マリーが、わざわざ気にするような所ではないのだが……。
「……実は、この店は私の生家なのよ」
マリーは気まずそうに教えてくれた。
「完全な私情だとは分かっているわ。でも、私自身のケジメとして、どうしても……もう一度、この場所から始めたいと思っているの」
マリーも代表という立場と、自分の気持ちとの間で悩んでいたのだろう。
「親父さんには、会っているのか?」
「いいえ、あれから会っていないわ」
「そうか――」
マリーの父親は、マリーの成功を知ると、マリーに金銭の要求をしていた。
俺が手切れ金を渡して、二度と目の前に現れるなと言った約束は守られていた。
「いいんじゃないか? やらない後悔よりも、やって後悔した方が納得出来るしな」
「ありがとう」
どのような店にするのかは聞かなかったが、マリーなら素晴らしい店を出せるだろうと感じていた。
同時に【転移扉】を数組作成した方が良いと思う。
マリーには余計なことをと言われるかもしれないが、いつか必要な時が来るだろう。
「死んだら連絡頂戴よ」
「あぁ、シロに頼んであるから安心しろ」
俺はシロの方を向くと、シロが頷いていた。
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