第902話 パパと娘ー1!

 エリーヌが来てから三日目。

 ルーカスから呼び出される。

 もしかしたら、エリーヌのことが耳に入ったのかとも思ったが、ユキノ曰く違うらしい。

 この時期になると先代国王つまり、ユキノの祖父の命日になるため、近親者のみで毎年集まっているそうだ。


「御父様も、エリーヌちゃんを見たら驚きますわ」

「……エリーヌを連れていくのか?」

「はい、もちろんです。エリーヌちゃんは私たちの子供ですもの」

「ありがとう、ママ‼」


 どうやら、母子の結束が固いようだ。

 こうなったら、俺の意見は関係ない。


「その手土産は、どうする?」

「そうですね……私のほうで何か用意しておきます」

「一人で用意できるのか?」

「そうですね。シロさんか、クロさんに協力して頂きたいのですが」

「私とクロさんの二人で協力します」

「シロさん、ありがとうございます。クロさんも宜しくお願いします」

「はい、ユキノ様」


 シロとクロがユキノに協力をしてくれる。


「じゃあ、エリーヌちゃんはパパと御留守番ね」

「えぇ~、私もママと行きたーい」


 ユキノは駄々をこねるエリーヌを宥める。

 その後も、俺と二人きりになるのが嫌なのか、ユキノについて行こうと必死だった。 


「分かった。お土産期待しているね」

「はいはい」

「早く帰って来てね」

「もう、エリーヌちゃんは寂しがり屋さんね」


 エリーヌは、最後は物につられて納得する。

 ユキノはシロとクロを連れて、部屋を出て行った。


 部屋には俺とエリーヌの二人だけになる。

 アルとネロの二人も居ないので、微妙な空気が流れる。


「ちょっと、外で遊んでくる」


 空気に耐えかねたエリーヌが逃げようとする。


「ちょっと、待て‼」


 俺は逃げるエリーヌを引き止める。

 これには理由があった。


「お前……最近、悪ふざけが過ぎないか?」

「えっ! なんのこと?」


 惚けるエリーヌだが、明らかに逃げようとしている。


「ユキノに上手く取り入ったようだが、俺は騙されないからな」

「えー、怖いよ~パパ」

「おい、ふざけるな‼」


 エリーヌはこの世界エクシズに来てから、何もしていない。

 ユキノに甘やかされているのもあるのだが――。

 常にユキノと一緒にいるので、俺もエリーヌにきつく言うことが出来なかった。

 エリーヌは、この状況を完全に楽しみ、やりたい放題だった。

 アルとネロも、エリーヌの影響を受けてか、ちびっ子三人組は楽しく遊んでいたのだが、悪戯が過ぎる時もある。

 ユキノが優しく叱るのだが、エリーヌだけは反省していないようにも思えた。

 正確には、その時は反省しているのかも知れないが、数分後には忘れている感じだった。


「お前のことだから、俺と二人になることを出来るだけ避けようとしていたんだろう?」

「そっ、そんなこと……ないよ」

「まぁ、ユキノもいないし、じっくりと話し合おうか」

「えっ……」


 エリーヌは露骨に嫌そうな顔をする。

 俺はこの世界エクシズに来て、実際に見た感想をエリーヌに聞く。

 エリーヌは思っていた話と違っていたことに一瞬、驚く。


「いい世界だよ」


 すぐに、一言だけ呟いた。


「それだけか?」

「うん、そうだよ」


 ……エリーヌに期待した自分が馬鹿だったと気付く。

 そもそも俺はエリーヌが、どう答えることを期待していたのだろうか?

 ただ、もう少し具体的な答えが欲しかったので、詳しく聞くことにした。


「う~ん、分かんない」

「えっ‼」

「だって私、ここから出ていないから、良く分かんないよ」


 エリーヌの言い分も、もっともだった。

 しかし他の世界に降り立った神たちも、全世界を見て回ることなど出来ないはずだ。

 そうであれば、一部分の世界を見ただけで、その世界を判断することになる。

 それでも神の研修としては問題ないのだろうか?

 まぁ、出来る神であれば、常に自分の担当している世界を監視しているので、大きな問題ではないのかも知れないが……この世界エクシズの担当神は、目の前のポンコツ女神エリーヌだ。

 自称エリートらしいが、この世界エクシズのことを全て把握しているはずがない。

 俺はエリーヌに、そのことを聞いてみることにした。


「実際に見ていなくても、常日頃からこの世界エクシズを監視していたのなら、ある程度のことが分かるんじゃないのか?」

「そんなの、全然違うよ。あっちから見るこの世界エクシズだと、大まかにしか見えないもん。それに、タクトの周囲のことを重点的に見ていたから、あまり世界のことを見ていないんだよね」

「俺のことなんて、見ていなくてもいいだろう」

「だって、問題が起きると大抵、タクトが絡んでいるじゃない。嫌々でも見るしかないんだよ」

「……嫌々ってお前、失礼だな」

「そう? まぁ、いいや。とりあえず、この世界エクシズが私の望んだ世界に近いことだけは分かっているよ。その点に関しては、本当にタクトに感謝しているんだよ」


 エリーヌの望む世界と、俺が望む世界に大きな違いはなかった。

 そこだけにエリーヌは重点を置いてるのかも知れない。

 エリーヌを信仰具合については日々、ゴンドを訪れる人たちを見ているので満足しているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る