第896話 成功報酬!
「ありがとうございました」
モクレンが礼を言う。
俺の隣にはアルとネロもいる。
「それで、あの女王はどうなりましたか?」
「はい、事情を説明した後、転生を彼女に打診する予定です」
俺は約束を守ってもらえると安心をする。
転異でなく転生と言ってくれているのも、今の種族ではなく他の種族で、次期女王として転生をしてくれるそうだ。
神なので、約束を破ることはないだろう。
「では、報酬の件ですが、可能な限りの要望にはお答えするつもりです」
「それは、スキルでなくても良いということですか?」
「はい、その通りです」
「私は決まっているの~‼」
ネロが最初に手を挙げた。
「吸血鬼族は私だけで、私が死んだら吸血鬼族は滅びることにするの~」
ネロの発言に俺とアルは驚き、ネロの顔を見る。
「ネロ、いいのか?セフィーロから頼まれていただろう?」
「う~ん。だけど、私やお母様のように寂しい人を作りたくないの~」
吸血鬼族で、日中活動できるものは少ない。
人族とは、今でこそ友好的な立場だが、今後は昔のように迫害を受けるかもしれない。
ヴァンパイアロードであるネロが死んだあと、次のヴァンパイアロードに過酷な運命を背負わせたくないのだろう。
「それは種族も増やさないということで、宜しいですか?」
「それでいいの~」
「分かりました。ネロを最後の吸血鬼族として今後、エクシズで吸血鬼族の増加及び、復活等は禁止事項とさせていただきます」
モクレンの言葉に、ネロは笑顔を浮かべていた。
「モクレンとやら、ちょっとよいか?」
「はい、なんでしょう?」
「今回の報酬だが、妾の分をタクトに譲ることは可能か?」
アルの発言に俺とネロがさっきと同じように驚き、アルの顔を見る。
「それは、報酬を譲渡すると受けとってもよいのですか?」
「もちろんじゃ。その代わり、タクトには二つの報酬をやってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ‼」
俺は話を止める。
「アル、どうしたんだ? どうして、俺に報酬を譲ろうと思っているんだ⁈」
「……お主は、一つでは足りぬのではないのか?」
「えっ‼」
「気にするでない。お主の幸せは妾の幸せでもあるのじゃからな」
「……」
俺は言葉が出て来なかった。
「アル、ずるいの~。それなら、私も師匠に譲ったの~」
「お主はお主で、叶えたいことがあったのじゃからよいじゃろう」
「でもなの~」
アルの提案が悔しいのか、ネロはアルを睨んでいた。
「分かりました。アルシオーネの権限をタクトに譲ることを許可します」
「うむ」
「では、タクト。あなたの――」
「ちょっと、待つのじゃ‼」
「なんでしょうか、アルシオーネ」
話の途中で口を挟まれたモクレンは、気分を害しているようだった。
「妾とネロの用事は済んだのじゃから、戻っても良いじゃろう?」
「え~、嫌なの~師匠の報酬も聞きたいの~」
駄々をこねるネロをなだめるアル。
「それは別に構いませんが、宜しいのですか?」
「もちろんじゃ」
「私は嫌なの~」
アルに反抗するネロだったが、アルが耳元で何かを囁くと、ネロは大人しくなった。
「私も大人だから、師匠の報酬を聞かずに戻ることにするの~」
ネロの発言を聞き、アルがネロに何を言ったのかが気になった。
多分、ネロに「子供っぽい」とか、「ここで引くのが大人だ」とでも言ったのだろう。
「分かりました。では、アルシオーネとネロの二人はエクシズに戻させていただきます」
「タクトよ。また、あとでの」
「師匠、じゃあなの~」
モクレンが言い終わると、アルとネロの姿が消えた。
「では、改めまして、タクトの報酬をお聞かせ願えますか?」
「それは、許容の範囲であれば問題無いということで宜しかったでしょうか?」
「はい、そう解釈頂いて構いません。御存じのように、不死などといった世界に影響のあるスキルの習得は出来ません」
「分かっています」
俺はアルが、どこまで知っていて俺に報酬を譲渡したのか気になっていた。
アルの「一つでは足りない」と言った言葉。
あとで、アルには礼と謝罪を言わなければならないだろう。
もう一度、この報酬が最善なのかを確認する。
間違いない! と自分で確認を終えると、モクレンに話し掛けた。
「私の報酬は――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます