第889話 シーランディアでの戦闘ー1!

(面白みがないの~)


 アルは俺に【交信】で話し掛けてきた。

 俺も戦闘中なのだが、アルは俺以上の蜂人族を相手にしているのに余裕のようだった。


(そうじゃ‼)


 アルは大声で叫ぶと、【交信】の向こうで不敵に笑っていた。


(この蟲たちの羽根をもぎ取って、お主たちの所に投げてやるぞ‼)


 勝手に新しい遊びを思い付き、実行に移すアルだった。

 上空から砲弾のように蜂人族が俺に向かってくる。

 

(アル‼ 危ないだろうが!)

(ははっ、面白いのじゃ‼ ネロにも教えてやるとしよう)


 アルは一方的に【交信】を切る。

 数分後には、ネロの戦闘区域からも蜂人族が突撃して来る。

 羽根をもぎ取られたとはいえ、致命傷ではないので目の前の俺への敵意は向けられたままだ。

 しかし、蜂人族や蟻人族の血の色……薄緑に近いような色たしか、夏虫色と言った気がする。

 誰かが、この色を見て名付けたのか? と思った。

 戦いながら、明らかに意思がなく本能のみで向かって来ている。

 それぞれの女王に、敵は排除するように命令されているのだろう。

 しかし、蜂人族に蟻人族の女王は同じ思考なのか、俺たちだけに敵意を表して攻撃をしてくる。

 まずは共通の敵を倒してから、種族間の戦いは後回しにしているのかも知れない。


 アルとネロに羽根をもぎ取られた蜂人族は、大幅な戦力ダウンをしていた。

 地上に下りて二足歩行では、尾の毒針を刺すことが難しいからだ。

 蟻人族の方が地上での戦いは完全に上だろう。

 目の前の蟻人族と、アルとネロが送り込んでくる羽根のない蜂人族……俺は面倒だと思いながらも、一人で戦い続けた――。



 シーランディアに突入してから、数十分は経っただろうか……?

 俺は異変に気付く。

 アルとネロが、羽根をもぎ取って俺に嫌がらせのように送り付けてくる蜂人族。

 その蜂人族が俺に向かって来ずに、退却するかのように姿を消していたのだ。

 徐々に蟻人族としか戦闘をしていなかったことで、俺は気付いたのだが……。

 姿を消した蜂人族は、どこに行ったのか?

 勝手な行動は出来ないはずなので、蜂人族の女王の命令が変更されたに違いない。

 羽根をもぎ取られたことで、戦力にならないと判断されたのかも知れないが……戦うことは出来る。

 撤退させる理由が分からなかった。


 周囲から炎と煙が上がり、シロたちが順調に作戦を実行していることが分かる。

 炎の熱で、俺のいる場所もかなり温度が高くなっている。

 しかし、蟻人族には影響が無いのか、変わらずに攻撃を仕掛けてきた。

 上空の蜂人族は煙を嫌がっているようだった。

 アルとネロは気にせずに、俺への嫌がらせなのか蜂人族から羽根をもぎ取り、俺のところまで飛ばす。

 数で言えば、蜂人族はかなり減っている。

 アルとネロの功績だ。

 その分、蟻人族の数はあまり減っていない。

 あとで、アルとネロに馬鹿にされそうな気がした。


 俺は【魔力探知地図】で、シーランディアから出た蟻人族がいないかを確認する。

 【魔力探知地図】に表示されるマークはシーランディア内での表示しかされていない。

 とりあえずは順調だと、俺は胸を撫でおろす。

 明らかにマークが多く表示される場所がある。

 そこに女王がいるのは間違いないはずなのだが――。


(密集しているのは、一ヶ所しかない。どういうことなんだ?)


 蜂人族と蟻人族の二種族にいる女王。

 普通に考えれば、密集する場所は二ヶ所なければおかしい。

 もしかしたら、種族間のバランスが崩れているため、戦力に大きく差があるのだろうか?

 俺は再度、【魔力探知地図】で小さな密集が無いかを、注意深く見直した。

 ……数十体が幾つも密集している箇所はあるが、これは集団で動いているからだ。

 この大きな密集に比べたら、一目で違うと分かる。


(とりあえず……)


 俺はマークが集まっている場所を目指すことにした。

 進行方向を変えたことで、明らかに蟻人族の数が増えていた。

 そればかりか、空中から蜂人族も攻撃をしてきた。

 俺が進むにつれて、攻撃が増す。

 それは攻撃されたくないことを表している。


(主。宜しいでしょうか?)


 戦況を見ていたクロから連絡が入る。


(あぁ、大丈夫だが……なにかあったか?)

(いいえ。アルシオーネ様とネロ様の相手が徐々に減ってきていますので、御二方とも暇そうでして……)


 多分、クロも二人から文句を言われたのだろう。


(どちらかといえば、ネロ様の不満が大きいようです)


 アルは楽しみながら、蜂人族の羽根をむしっては、俺に向かって放り投げていた。

 その戦い方がアルには楽しいようだった。

 最初こそ、アルの提案に乗って楽しんでいたネロだったが、徐々に面倒臭くなっていたようだった。


(上はアルだけで大丈夫か?)

(はい。シロも終わりましたので、ネロ様と交代しても問題無いと思います)

(分かった。シロに連絡して、ネロと交代してくれ)

(はい、承知致しました)


 俺としても、一人では面倒だと思っていたので、ネロがいてくれると助かる。

 アルが文句を言いそうだが、それはあとでどうとでもなるだろう……。

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