第864話 ルグーレの現状―3!

 ルグーレの人通りの少ない場所に【転移】で移動をする。

 アスランとユキノはフード付きマントで、全身と顔を隠しているので、身分がバレることはないだろう。

 俺とマリーに、シロにクロ、ピンクーの七人でルグーレにあるハーベルトの屋敷へと向かう。


 町の様子を見ながら、アスランとユキノは悲痛な表情を浮かべる。

 この惨劇の裏に、どれだけの命が失われたかを想像していたのだろう。

 町の雰囲気も暗く、人々の表情にも笑顔がない。


 領主の屋敷は奇跡的に無事だったようだ。

 屋敷内には、家を失った者たちが避難していたのか、庭内に生活をしていた跡があった。

 先頭の俺とマリーが、門番の前に立つ。


「領主のハーベルト様にお会いしたいのですが?」

「……領主様は多忙につき、お会いになることはできません」


 明らかに不審人物っぽい俺たちを門前払いするつもりのようだ。

 話し掛けていない門番も俺たちに対して、警戒しているのが分かる。

 俺はアスランの方を向くと、アスランが俺の横に来て、フードを外す。


「御息女であるリリアン殿とは、面会の約束をしています」

「……‼」


 アスランの顔を見た門番の表情が固まる。

 そして、無礼を働いたことを認識したのか、頭を下げて謝罪をした。

 聞いていた王都からの使者が、第一王子であるアスランだとは思ってもみなかったのだろう。


「おい、何をしているんだ!」


 もう一人の門番は、俺たちの影に隠れてアスランの顔が見えなかったようだ。

 何故、仲間の門番が頭を下げているのか分からなかったのだろう。

 俺たちが何かをしたと思ったのか、威圧的な態度で迫ってきた。

 門番としては間違っていない行動だ。


「おい、止めろ! この方をどなたと思っているんだ‼」


 威圧的な態度をとる門番にアスランの方を向かせる。


「……アスラン王子‼」


 この門番もアスランだと分かると、頭を下げて非礼を謝罪した。


「今は極秘で寄らせてもらっています。リリアン殿の所へ案内いただけますか?」

「はっ、はい‼」


 門番は王都からの使者を案内するということで、代わりに衛兵と門番を交代する。

 案内する衛兵が緊張しているのが、後ろから見ていても良く分かる。

 王都にいても、直接アスランと話す機会など、そうそうない。

 粗相でもしたら……と最悪のことも考えているのだろう。


 屋敷内も正面からでなく、人目を避けるように裏から入る。

 使用人たちが使用する扉などを抜けていくと、屋敷内にある部屋の前に着く。


「こちらで、リリアン様が御待ちです」

「ありがとう」


 アスランが礼を言うと、衛兵たちは頭を下げる。


「本当にありがとうございます」


 ユキノがフードを外して、アスラン同様に衛兵へ礼を言う。

 衛兵たちはユキノがいたことに驚き、深々と頭を下げた。


 衛兵の一人が部屋の扉を叩き、「王都からの使者をお連れしました」と扉に向かって話すと、部屋の中から「入ってもらいなさい」と言葉が返ってきた。

 衛兵は丁寧に扉を開けた。

 最初にクロとアスランが入る。

 念のための処置だ。

 問題無いと分かると、ユキノとマリーにシロが続けて入る。

 最後に、ピンクーと俺が部屋に入ると、門番は扉を閉めた。


 部屋のなかには、リリアンと思われる女性と、隣に少し若い男性がいた。

 彼がパトリックなのだろう。


 扉が閉まるのを確認すると、リリアンとパトリックは片膝をつき、アスランとユキノの表敬訪問に感謝を示す。

 仲が良いとはいえ、立場を分かっているので、こういった挨拶も大事なのだろう。


「申し訳ございませんが、父ハーベルトには、アスラン王子たちが来られることを伝えておりません」

「ありがとう。ハーベルト卿を驚かせたいからね。それで今、どちらにいらっしゃいますか?」

「ご案内いたします」


 リリアンとパトリックは、少し笑いながら立ち上がる。

 アスランたちがハーベルトに対して、驚かせようと考えたことなのだろう。



「御父様、宜しいでしょうか?」


 ハーベルトがいる部屋の扉を叩くリリアン。


「リリアンか? 今、忙しいので後でもいいか?」


 部屋の中から覇気のない声が返ってきた。

 他にも何人かの声がするので、会議中なのだろう。


「王都から使者が訪ねて来られています」

「何だと‼」


 扉越しでも分かるくらいに、部屋の中から大きな音がしていた。

 連絡もなしに王都から使者がくるということは、それほど大事なのだろう。


 勢いよく扉が開くと、俺の想像していた領主のイメージとは違い、無精ひげを生やして、目の下にクマをつくり頬もコケていた。

 それほど、悩み考えていたのだろう。

 中にいる数人の男たちも同じような感じだった。

 彼らもハーベルトと同じような状況だったのだろうと、推測できた。


 ハーベルトはリリアンと、パトリックの後ろにいる俺たちに気付く。


「彼らが王都からの使者なのか?」

「はい、そうです」


 リリアンがハーベルトの質問に答えると、アスランとユキノがフードをめくる。


「御無沙汰しております。ハーベルト卿」

「お久しぶりです。ハーベルトのおじ様」


 笑顔で挨拶をするアスランとユキノ。


「アスラン王子に、ユキノ王女‼」


 突然の訪問に驚くハーベルト。

 その様子を見ながら、笑いをこらえるリリアンとパトリックの二人。


「一体、どうして……」


 ハーベルトは驚いていたが、アスランたちをいつまでも部屋の外に立たせておくわけにはいかないと気付き、慌てて部屋の中に案内をする。

 アスランとユキノを座らせるため、部屋の中にいた男性たちは手で椅子を払い、アスランとユキノに座らせようとする。

 せっかくの好意を無下にもできないと分かっているアスランとユキノは、椅子に座る。

 俺たちは護衛だと思っているので、アスランとユキノの後ろで立っていた。

 パトリックが使用人を呼び、椅子を用意するように頼んでいた。

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