第865話 ルグーレの現状―4!

「その、王都のほうは宜しかったのでしょうか?」

「そうですね。被害の大きさで言えば……こちらルグーレの方が大きいかと思います」

「そうですか……それで、我が領地に来られたのは?」

「その前に悩んでいることをお聞きしても、宜しいでしょうか?」

「……はい」


 ハーベルトは街の復興はもちろんだが、町の人々たちが満足に食事が取れていないことを最初に話した。

 人々が元気になり活力が出れば、町も自然と潤うと話す。

 このままでは、あと数日で飢餓状態になるので、対策を考えている途中だったのだ。


「貯蓄庫へ案内して頂けますか?」


 ユキノが話を止める。


「行かれても、なにも御座いませんよ」

「はい、それでも案内いただけますか?」


 ハーベルトは自分の無能さが知られるのか……と、元気のない表情だった。

 リリアンとパトリックも、状況を知っているのでユキノの行動が理解できなかった。

 それはハーベルトの家臣たちも同じだった。



 ハーベルトに案内されて貯蓄庫に到着する。

 部屋のなかは、何もなかった。

 申し訳なさそうな表情をするハーベルト。


 ユキノが俺たちよりも数歩進むと振り返る。


「皆さん、下がっていてください」


 そういうと体を反転させて、巾着に手を突っ込むと、巾着から驚く量の食料が一気に飛び出した。


 ユキノが終わったかのようにマリーの顔を見ると、マリーと入れ違うように歩く。

 マリーも同じように鞄に手を入れて、食料を一気に放出させた。


 俺は二人の動作を見ながら、【アイテムボックス】に収納しているものを、掴んだものだけでなく、出したいと思ったものを一気に出せるのことを知る。

 固定概念のないユキノかマリーが習得した技なのだろう。

 クロも気付かれないように、影の中から食料などを出していた。

 貯蓄庫は食糧で埋もれていた。


「これで問題は解決できますか?」


 ユキノがハーベルトに話し掛ける。


「も、もちろんです‼」

「そうですか、では私も手伝いますので、すぐに皆様にお配りしましょう」

「そんな、ユキノ様がそのようなことを……」

「困っている人を助けるのに身分は関係ありませんわ。それに、私ももうすぐ王族で無くなりますし」


 そういうと、ユキノは俺のほうを見る。


「あなたが、ユキノ様の婚約者で王都を救った英雄の冒険者タクト様ですか?」

「英雄ではないが、俺が冒険者のタクトだ」


 ユキノは、その後にマリーを紹介して早速、人々への配給を始める準備に取り掛かった。

 リリアンとパトリックも、領主の子供としての責任もあるので、ユキノたちを手伝うと進言した。

 俺はシロとクロ、ピンクーを配給する人たちの護衛に就ける。

 使用人たちと協力をして、食料の配給をするため、ユキノたちはこの場に残るので、俺とアスランは、ハーベルトと数人の家臣とで先程の部屋へと戻ることにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 部屋の戻ると、ハーベルトと家臣たちは、知らなかったとはいえ、挨拶が遅れたことで謝罪をされた。

 俺は「いち冒険者だから、畏まる必要はない」と答える。

 そしてお決まりの呪詛証明書を提示して、丁寧語が離せないことを説明した。


 そして、自分の身なりに気付いたハーベルトたちは、アスランに失礼だと思ったのか再度、謝罪をしていた。

 アスランは「領地のために寝ずに頑張っていたのだから、謝罪する必要などない! むしろ感謝している」と、ハーベルトたちに労いの言葉をかける。


 アスランからの言葉に感激する家臣もいた。


 そして、本題に入る。

 一番の問題は、人の往来ができないため、道の整備だった。

 流通が途絶えている状況が、悪循環を招いていると話す。


「最低限、どこまでの道が整備されていれば市場は回復する?」

「そうですね――」


 地図を広げて、周囲の幾つかの都市を指差す。

 周囲の都市も魔物暴走スタンピードの被害が出ているが、ルグーレほど大きな被害ではないそうだ。

 しかし、踏み荒らされた土地の復旧は難しく、時間が掛かるようだと話す。

 これは周囲の都市を管理する領主たちも同じ意見のようだ。


「それは俺が何とかしよう」

「そんな簡単に――」


 ハーベルトは、まだルグーレとトゥラァヂャ村を結ぶ道が整地されていることを知らないようだった。


「まぁ、なんとかなるだろう。それよりも他の問題は?」


 俺は話を勝手に進める。

 ハーベルトは、ルグーレの周囲の村が殆ど全滅したため今後の領地運営をどうしていいのか悩んでいた。

 復興に時間が掛かるのは分かっているが、新たに人が住んでくれるかが心配のようだ。

 新しい村で生活できる基盤がなければ、誰も村に住もうとは思わないだろう。

 領主としての悩みだと俺は感じる。


 こればっかりは、俺がどうこうできる話ではない。


「ハーベルト卿。今度、領主たちを王都に呼ぶつもりですので、その時に意見交換をされてはどうですか?」

「それはありがたいことです。是非とも、御願いします」


 ルーカスは被害にあった領地に対して、ある程度の保証を考えているのだろう。

 自己再建できる領地を持つ領主は少ないと、知っているからだ。

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