第859話 お手伝いー2!

 ――十数分後。


「こんなものか?」


 俺的には辺り一面、綺麗に片付けたつもりだ。

 きちんと、遺品のようなものは分別してある。

 そして、作業中に見つけた村人たち数体の遺体も――。

 遺体を発見した時、俺は【隠蔽】を使い見学している者たちには、見えないようにした。

 これは俺なりの気遣いだ。

 遺体のなかには、当然だが子供もいた……。

 俺は遺体を抱えた時、「……軽いな」と思いながら、悲痛な気持ちで遺体を運ぶ。

 家族団らんだったのか、一か所に集まっていたいた遺体や、子供を庇おうとしたのか、子供に覆いかぶさるような姿勢の遺体もあった。

 魔物行進モンスターパレードを防ぐことが出来ない天災のようなものかもしれないが――。

 遺体には【浄化】を施して、触っても大丈夫なようにしておいた。

 遺体は見学しているコンテツたちから見えない場所に、運んできた場所別に綺麗に並べた。

 あとで弔ってあげたい気持ちがあったからだ。


 俺は見学していたコンテツたちに、作業を終えたことを伝える。

 あまりに早く作業が終わったことに、驚くコンテツたち――。


「あぁ、ありがとうな……」

「ランクSSSって、凄いのね」


 コンテツとモエギは、言葉少な気だった。


「それと――」


 俺は作業員たちを集めて、一緒に移動をする。

 何もない場所に案内されたので、戸惑うコンテツたち――。

 俺は【隠蔽】を解くと、地面に並んだ遺体が目の前に現れる。

 驚きと同時に、遺体に駆け寄ろうとする作業員たちだった。


「待て‼」


 駆け寄ろうとする作業員たちをコンテツとモエギが止める。


「疫病の恐れもあるから、これ以上は近付くことを禁ずる!」


 コンテツが言った「疫病」という言葉に、駆け寄ろうとした作業員たちの足が止まる。

 そして、近くにいけない悔しさが滲み出ていた。


「俺が【浄化】のスキルを施したから、大丈夫だ。あとで、この場にいる全員に【浄化】を施すから安心してくれ」


 遺体に触れられることが分かると、何人かの作業員は遺体の元へと走り出す。

 残っているのは、コンテツとモエギにセイラン。

 そして、数人の作業員たちだ。


「作業員たちは、この村の出身者が多いんだろう?」

「……よく分かったな」


 村に来た時、グループでの作業でなく、それぞれで撤去作業をしていた。

 本来であれば、グループにした方が効率がいい。

 それをしなかったのは、自分の家を優先にしたかったからだろう。

 そして、残っている作業員たちは既に自分の家族や、友人に関係者などの遺体を発見したため、あそこに並んでいる遺体に駆け寄る必要がないのだと感じていた。


 たいした報酬も出ないのに、集まってきたのには、少なからずともトゥラァジャ村と関わりがある者だと、なんとなく思っていた。

 もちろん、トゥラァジャ村とは関係ない冒険者もいる。


「それでコンテツとモエギは、どうしてこのクエストを受けたんだ?」

「旅の途中でトゥラァジャ村の人たちは、俺たちによくしてくれたからな」

「えぇ、そうね。セイランも小さいときに一度だけ来たことはあるのよ」

「嘘! 全然、覚えていないんだけど……」

「当り前よ。まだ歩き始めたくらいだったしね。それにその時は、数日だけしかいなかったから」

「そうなんだ……」

「この村名産の酒が好きで、何度も来たんだが……もう、あの酒も飲めないんだな」


 コンテツとモエギの遠くを見ていた。

 視線に先は、自分たちが知っている、かつてのトゥラァジャ村を見ているのだろう。

 懐かしそうな目なので、なんとなくそう思った。


「しかし、あと十数日は終わらないと思っていたのに、かんなに早く終わるとは……」

「そうね。でも、早く終わった……というよりも、あの子たちが家族と会えて良かったと思っているわ」

「……たしかにそうだな」


 俺は先程、飲みものを運んでくれた兎人族のキャエットが、うずくまって泣いている姿が目に入った。

 その前の遺体の数は五つ。うち子供の遺体の数は三つ。

 キャエットの両親と兄弟のものだろう。


 キャエットと同じように魔物行進モンスターパレードの被害で悲しむ人々が、多くいるのだろう。


 俺たちは、皆が落ち着くのを、じっと待っていた。



 心の整理ができた者は、戻って来て俺に礼を言う。

 礼を言われるようなことはしていないつもりだったが、彼らがそれで納得するのであればよいと思い、礼を素直に受け取った。


 最後まで遺体の側にいたのは、キャエットだった。

 それだけ深い悲しみがあったのだろう。

 誰もキャエットを急かすようなことはせずに、時間が過ぎるのを待っていた。


 冷静になったキャエットは、自分以外は遺体の側に誰もいないことに気付く。

 そして、立ち上がり戻ってきた。


「お待たせて、すいません」

「いや、構わない。もういいのか?」

「はい……」


 キャエットは申し訳なさそうに謝罪をして、コンテツと言葉を交わす。


「タクトさん。ありがとうございました」


 俺に体を向けると、他の者同様に、同じ言葉を口にした。

 何も言わずに、俺は黙って頷いた。

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