第831話 四葉商会の状況!

 まずは、マリーとフランの二人に詳しい事情を説明する。

 俺の説明を黙って聞くマリーとフラン。

 説明を聞きながら、俺の判断は仕方ないと思ったのか時折、頷いていた。


「あの時は選択肢がなかった……説明する時間もなかったし、悪かったと思っている」


 俺は説明を終えた。


「まぁ、大体は分かっていたけど……納得ができないこともあるけど、仕方ないわ」

「そうよね……」


 マリーとフランも、分かってくれた。


「私、タクトと会っていたよね……」

「あぁ、俺との記憶を失った直後にな」


 フランは四葉商会のマークが刺繍してある服を着ていた俺に、声を掛けていた。

 その時に、俺は四葉商会に迷惑がかかると思い、四葉商会のマークを外すことを決めた。


「その……タクトに失礼なことを言っちゃって、ごめんね」

「フランが謝る必要はないぞ。あの時のフランは、あれが普通だっただろ?」

「そうだけど……」


 俺が一番危惧していたことだ。

 俺との記憶を失っていた時に、俺と関係を持ってしまい、今迄と違う態度をしたことで悩み、自分を責めてしまう。


「フランは俺が気になったから、声を掛けてくれた。それも俺が四葉商会のマークを刺繍した服を着ていたからだ。四葉商会に所属している者であれば、気になるのも仕方がないだろう?」

「でも……」


 フランの表情は、暗いままだ……。


「はい、はい」


 マリーが声にあわせて、手を二回叩く。


「フランが悩んだり、後悔したとしても何も変わらないわよ。タクトも気にするなって、言ってくれているんだしね。これ以上、考えても答えは出ないでしょう?」


 フランに対してマリーは、はっきりと自分の意見を言う。


「マリーの言うとおりだ。又、昔のように俺と話したりしてくれれば、いいだけだ!」


 俺もマリーの意見に同調する。

 フランは、俺とマリーの顔を見て、吹っ切れた表情で頷いた。


「今度は、私の番ね」


 マリーはまず、四葉商会の代表についてだった。

 まぁ、当然の話だ。


「今からでも、代表をタクトに変更することは、できるわよ」

「いいや、既に四葉商会の代表として、マリーの名が広まっているのに又、俺に戻すことはないだろう?」

「でも、それは今回の件があったからでしょう?」

「確かにそうだが、代表が何回も変わるようなところは、信用がないだろう?」

「たしかに、それはそうだけど……」

「気を悪くしないで聞いてくれ!」

「えぇ……いいわよ」

「良くも悪くも、四葉商会をここまで、大きくなったのはマリーたちのおかげだ。俺がいない間も、色々と問題はあったと思うが、従業員だけで乗り切って来たんだろう?」

「……」

「勿論、俺も手伝えることは手伝う。しかし、四葉商会の今後を考えるのであれば、四葉商会は次の段階に進んでいるとは思わないか?」


 マリーは少し考えて答える。


「それは私が代表になったからってこと?」

「あぁ、その通りだ」

「マリーが代表になり、新聞などにも掲載されることで、新しい客層を引き入れることにもなったのだと思う。それに収益よりも困っている人を助けてくれたことも大きいだろう」

「それは、タクトがそういう風にしていたからでしょう!」

「でも、俺のことを忘れていた時も、同じようにしていたんだろう?」

「そっ、それは――」

「忘れていても、マリーは俺と同じことをしようとしてくれた。それは、マリーの意思だったんだろう?」


 マリーは黙って考えていた。

 本当に自分の気持ちだったのか? と葛藤しているのだろう。


「考えたって、仕方がないんでしょう?」


 先程と立場が逆になったフランが、マリーに話し掛ける。


「昔、私たちが商業ギルドの試験を受けようとした時、同じような話をしたよね」

「えぇ――」

「私たちもマリーが代表でいいと思うよ。あっ! 勿論、タクトが嫌って訳じゃないよ」


 フランは慌てて、俺の顔を見る。


「分かっているって」


 俺は笑顔で返す。

 フランが悪気があって言った言葉では無いことくらい、分かっていたからだ。


「フランの言うとおりね」


 マリーは大きく息を吐いた。

 自分がフランに言った言葉が返って来たと、分かったようだ。


 その後、俺はマリーとフランから現在の四葉商会の状況について、説明を聞いた。


 俺が思っていたよりも、順調のようだ。

 新しい事業こそ展開していないが、大手新聞社のグランド通信社とも、パートナー関係を維持できている。

 王族やルンデンブルク領主のダウザーたち一家とも、友好的な関係らしい。

 女性同士は相変わらず、理由を付けて会っているそうだが、相手が相手だけに断ることもできないのだろう。

 マリーの苦労が分かったが、それを表情にださなかった。


 終始、淡々と話すマリーは完全に経営者の雰囲気だった。


 女帝!


 誰かがマリーにつけた称号だが、マリーのためにある称号だと思い、

思わず笑う。


「……何を笑っているの?」


 真剣に話すマリーに笑ってしまったことは、マリーに対して失礼な行為だ。


「悪い。少し、昔のことを思い出して、笑っただけだ」

「そう、話を続けるわね」

「あぁ、頼む」


 最後まで、マリーの説明を聞いた。

 四葉商会の従業員全員が、俺のことを思い出したわけではないようだ。

 俺は全員の記憶が戻ってから改めて、挨拶に行くことにした。

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