第830話 久しぶり……?

 エテルナのことは、クロに任せることにした。

 それと俺のレベルが上がった効果なのか分からないが、シロとクロとで【念話】が出来るそうだ。

 ドラゴンたちでも、仲間の魔族と連絡を取ることが可能だったが、シロとクロは、神の眷属だったためか、お互い連絡を取ることができずに、俺を経由していた。


 ……ピンクーは?

 レベルで言えば到底、シロとクロには及ばない。

 まぁ、ピンクーが緊急で連絡することも、そうそうないだろう。


 それよりも――。


 俺はゴンド村に向かう。

 

 ゴンド村の人々のなかには、俺のことを思い出した人も、ちらほらと現れ始めた。

 当然、俺に詫びようとする人がいると、アルやネロから報告を受ける。


 俺のことを忘れていたのに、罪を感じる必要はない。

 俺に謝罪する人もいれば、怒りを感じている人もいる。

 ……マリーとフランの二人だ。


 ゴンド村の人々が、俺のことを思い出したのだから、マリーとフランの二人が思い出していないわけがない。


 まぁ、いつものことだ! と思いながら、ゴンド村へと移動した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「タクト殿! 本当に申し訳御座いません!」


 前村長のゴードンが、曲がった腰を更に曲げて、俺に謝罪する。

 俺のことを思い出した村の人々もそうだった。


 現村長のゾリアスはまだ、俺のことを思い出してはいない。

 ゾリアスにすれば、異様な光景に見えただろう。


 俺はゴードンや、謝罪する村の人たちをなだめる。


「……で、マリーたちは?」


 俺は村人たちに聞く。

 ゴードンが代表で、俺の家にいると言う。


 俺の家! という言葉に、記憶が戻ったのだな……と実感する。


「おーい!」


 俺の家の方から声がする。

 振り向くと、ネロが俺を呼びながら手を振っていた。

 隣にはアルもいる。


「早く、来るの~!」


 ネロが大声で俺を呼ぶ。


「今、行く」


 俺はネロに返事をして、自分の家へと向かう。

 自分の家に向かうのに、これほど憂鬱な気分になるのに複雑は思いだった……。



 家の入口にはアルとネロがいた。

 俺を出迎えてくれたようだ。


「……どんな感じだった?」


 俺はアルに質問をする。


「まぁ、来れば分かるじゃろう」


 アルから明確な返事は無かった。

 薄ら笑顔のアルを見たためか、大きくため息をついて、階段を上っていく。

 その足取りは重かった。



 アルは俺が心の準備をするまでもなく、すぐに部屋の扉を開けた。

 目の前にはマリーとフランがいた。


 こうやって改めて会うと、少し照れ臭かった。


 マリーとフランのどちらからも、言葉が出て来なかった。

 もちろん、俺もだが……。


「なんじゃ、お主らは?」


 何も喋らない。

 まともに顔を見ない。そんな、俺たちが不思議に思えたようだ。


「マリーよ。お主、タクトを見たら、殴ってやると言っておったではないか?」

「えっ、いや……」


 ……マリーは、そんなことを言っていたのか。まぁ、マリーらしいよな。


「それ、同じことを言っていたの~。カメラの角で叩いてやるって、言っていたの~」

「あっ、それは……」


 フランは気まずそうな顔をしていた。

 商売道具のカメラを殴打の道具にしようとしていた! そのことが俺に知られたくなかったようだ。

 フランらしい。


「変わっていないな」


 俺は二人の様子を見て笑う。


「当り前でしょう!」

「そうよ、そうよ!」


 マリーとフランが、勢いよく俺に反論する。


「それでこそ、俺の知っているマリーとフランだな」


 俺は、さらに笑顔になった。

 それは、マリーとフランも同じだった。


 俺との記憶を失っていた時間が無かったかのようにお互い笑う――。


「……それで、俺は殴られれば許してもらえるのか?」


 マリーに四葉商会の全てを背負わせてしまった。

 この事実は覆らない。


「そうね……その辺も含めて話し合いをしましょうか?」


 マリーの目つきが変わる。

 商売人の目だった!

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