第829話 バランスのとり方!

 ユキノとピンクーは気が合うのか、楽しそうに話している。

 ピンクーの人懐っこさが、ユキノには心地良いのかも知れない。

 他人との距離を、簡単に詰めることが出来るピンクー。

 これこそが、ピンクーの長所なのかも知れないと俺は感じた。


「親びーーーん」


 人の姿になったピンクーは、獣姿の時と同じように、クリクリとした大きな瞳を輝かせながら、俺の名を呼ぶ。


「どうした?」

「これって、人間族には無いんですよね?」


 よく見ると、ピンクーは下腹部を隠していた皮のような衣類の面積が増えている。

 そして、それがピンクーの尻尾だとすぐに気付いた。


「あぁ、そうだな。人間族に尻尾は無いからな」

「そうなんですね。よくバランスが取れますね?」


 どうやら、ピンクーは初めて人型になったため、不慣れな体型と二足歩行で、上手くバランスが保てないようで、何とか自力で尻尾を出したそうだ。

 先程まで、ユキノと話していたのはどうやら、人族の体の構造や動き方などを聞いていたらしい。

 俺に聞かずユキノに相談したのは、ピンクーも女性(メス)だから、恥ずかしかったのだろう。

 この場にシロがいれば、ピンクーはシロに相談していた筈だ。


 ユキノのピンクーへの接し方を見ていると、ピンクーをまだ見ぬ自分の子供と重ねてしまう。

 間違いなくユキノは、優しい母親になるだろう。

 ……俺は良い父親になれるのか? 一人で勝手な妄想を膨らませて、勝手に悩む。


 俺は以前に、待望の第一子が生まれた先輩から聞いた言葉を思い出した。

 子供が生まれたら、父親や母親も赤ん坊と同じように、何事も初めての経験ばかりだ。

 子供と一緒に経験を積んで、成長すればいい。


 気付くと俺は笑っていた。

 久しぶりに心が癒されたのだろう――。




「ただいま戻りました」


 クロの姿が視界に入る。


「エテルナは見つかったのか?」

「はい」

「……無事なんだよな?」

「はい、問題御座いません。体の方は今もシロが捜索中です」

「それは、頭部だけ見つかったということか?」

「その通りです」


 ガルプいや、プルガリスは俺との戦いの中で、エテルナの頭部だけを見せた。

 クロの説明から、体は別の場所にあるようだ。


 クロは影からエテルナを出す許可を得ようする。

 俺は一瞬、ユキノを見る。

 いきなり、生首が登場したら驚くだろうと思ったからだ。


 俺はユキノとピンクーに、少しだけ席を外すので、女同士仲良く話をするように話す。

 ユキノとピンクーは、俺が気を使っていると思い、俺が部屋にいても問題無いと言い始めた。


 俺はクロと大事な話があるから――と、説明をして、ユキノとピンクー二人に納得をしてもらった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ロッソの住処だった所に、場所を変えてエテルナと話をすることにした。


「大丈夫か?」


 俺はエテルナに対して、なんて声を掛けてよいかわからなかった。


「えぇ……」


 とても元気だとは言い難い声で、エテルナは答えた。

 ロッソが自分のせいで死んでしまったと思い、自責の念に狩られているのだろう。


「……ロッソからの伝言がある」


 俺の言葉に、エテルナの表情が変わった。

 エテルナは俺が、冥界へ行けることを知っている。

 真実味のある言葉だったのだろう。


「ロッソ様は、なんて――」

「ロッソはエテルナに感謝していた。長年、我儘な自分によく尽くしてくれたと――そして、デュラハンは疎まれる存在ではないから、自信を持って生き続けて欲しいと、言っていた」

「……ロッソ様」


 エテルナの目から涙が流れ出る。

 涙を拭おうにも、拭う手が無い。


 代わりにクロが優しく、エテルナの涙を拭った。


「エテルナさえ良ければだが、ゴンド村という所で一緒に暮らさないか? アルやネロもいるから、安心してくれ」

「……」


 エテルナは即答をしなかった。

 ロッソとの思い出が詰まった、この場所を離れることに気持ちの整理がつかないのだろう。


「もちろん、無理強いをするつもりはない。考えてくれ」

「……分かったわ」


 エテルナは、複雑な気持ちなのが表情に出ていた。


「クロ! 悪いがエテルナの体が見つかる暫くの間、シロと交代でエテルナの面倒を見てくれるか?」

「はい、承知致しました」


 クロが答えると、エテルナは申し訳ないのか、俺の提案を断る。

 しかし、落ち込んでいる時に一人でいると、もっと沈んだ気持ちになる。

 話し相手でもいたほうが、少しでも気が晴れるだろう。


 俺はエテルナを説得して渋々、了承してももらった。

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