第803話 戦後処理-7!

 セフィーロが去ると、距離を取っていたオーカスが近づいて来た。


「満足か?」

「はい、ありがとうございます」


 俺から頼んだわけでは無いが、オーカスの善意に甘えた形になった。


「質問があるのですが?」

「なんだ?」


 俺は、ロッソが担っていたアンデッドオークについて質問をする。


「それは問題無い。定期的にスケルトンや、ゾンビを自然発生させる」

「自然発生?」

「その通りだ」

「自然発生とは、条件が揃えば魔物として誕生するのですか?」

「条件は異なるが幾つかある。あくまで、召喚でなく自然発生することで、ロードという存在を維持させる」

「それはスケルトンロードや、ゾンビロードが誕生するということなのですか?」

「その通りだ。今迄、何百年と誕生していないロードの誕生に人族は慌ておののくだろう」

「……人族の脅威ということですか?」

「そうなるかも知れん。ただ、単体での発生は無いので、多くても数十体と小規模だ」


 オーカスは、関係のない口ぶりで答えた。

 生者には関心が無いのだろうし、アンデッドが数十体現れるだけで、大騒ぎになるだろう。


「ロッソのように、リッチが誕生することもあるのでしょうか?」

「自然発生したスケルトンが、進化すれば考えられる」


 確かに、オーカスの言うとおりだ。

 しかし、アンデッドの自然発生――。

 指揮する者が居ない為、本能のまま行動するということなのだろう。

 人族は、新たな恐怖に怯えることになるのだと感じた。


「お前は、アンデッドを召喚しようとは思わないのか?」

「そうですね。召喚したところで、良いことは無いと思っていますので、召喚出来ることになったとしても、召喚する事は無いですね」

「……お前は優しいのだな」

「そうですかね?」


 オーカスからの思いもよらぬ言葉に、おれは少し照れる。


「お前は戻れば、困難な道のりが待っているのだろう?」

「そうですね……しかし、待っている人たちが居ますし、なにより逃げることがしたくありません」


 俺の言葉にオーカスは黙ったままだった。

 何か考えているのだろうか? とも思ったが、表情が分からない為、沈黙の時間が続いた。


「お前は、私を恨んでいないのか?」

「恨む? どうしてですか?」


 俺にはオーカスの言葉の意味が分からなかった為、質問に質問で返してしまう。


「お前は、私によって人族から居なかった存在――いや、曖昧な存在にされたのだぞ」

「それは蘇生した代償ですから、仕方ありません。感謝こそすれ、恨むことはありませんよ」


 俺は嘘偽りなく、思った事を口にする。

 ユキノが生き返ってくれたことは、何よりも嬉しかった。

 それに、感謝もしたからだ。


「そんなに簡単に受け入れられるものなのか?」

「うーん、どうでしょう? 私は納得していたので、すんなりと受け入れることが出来たのかも知れませんね」

「それは、人によって違うということか……」

「そうなりますね。魂でも個体差があるのではないのですか?」

「いや、考えたことは無い」


 オーカスにとって、さほど大したことでは無いのだろう。


「お前とは数回しか会っていないが、長年会っていたかのような感覚になるな」

「そうですか……」


 誉め言葉だと受け取ったが、返答に困った。


「人族とはお前のような者が多いのか?」

「いえ、私が特別だと思いますが、人族も多いのですから、私のような者もいるかも知れませんね」

「そうなのか……お前のような者が居るのであれば、話をしているのも面白いかと思ったのだが、残念だな」

「オーカス様は、死者の魂と話などはされるのですか?」

「いいや、魂と話をすることなど、殆ど無い」

「たまには、魂と話をされると、面白い話を聞けるかもしれませんよ」


 冥界の神であるオーカスが、死者の魂と話をすることなど無いことはないだろう。

 平民が国王と話をするようなものだし、地位が高くなれば部下たちに業務を任せるのが当たり前だ。


「お前とも、会えなくなると思うと寂しくなるな」

「そうですね。用も無いのに、こちらに来ることは無いですしね」

「そうだな。本来であれば、生者が来る所では無いからな」

「本当に色々と、ありがとうございました」

「気にすることではない。お前は権利を使用しただけだ」

「まぁ、そうですが……」

「もし……何かあれば、遠慮なく訪れるがいい。その時は、私の名を出すことを許そう」

「有難う御座います」

「私が言うのも可笑しいが――元気でな」

「はい。オーカス様もお元気で」

「ふっ、私に元気という方が可笑しいな」

「確かにそうですね」


 オーカスと、こんな会話が出来るとは思っていなかった。

 別れる前に、もう一度感謝の言葉を口にして、頭を下げた。

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