第802話 戦後処理-6!
その後、オーカスはロッソの時と同じ動作をして、セフィーロを呼んだ。
「死んでも迷惑を掛けたみたいね」
「いえ、そんなことは……」
「まぁ、私もこんな最後を迎えるとは思っていなかったし――」
いつもの、俺が知っているセフィーロとは様子が少しだけ違っていた。
俺の口調に違和感があるようで、ロッソ同様に指摘してきたので、いつもと同じ回答をした。
「貴方も苦労しているようね」
「まぁ、それなりに……」
苦労――俺は本当に苦労していたのだろうか?
簡単に口にして良い言葉なのだろうか?
目の前のセフィーロを見ながら考える。
「死にたかったのですか?」
俺は話を変えるように、セフィーロに質問をしてみる。
「そうね……死ねないと知った時は最初は喜んだわ。しかし、知っている人を見送ることが続くと、流石に辛くなったわね。そんな時、私の秘密を教えてくれる人が居たわ。それがプルガリス、当時はガルプスリーだったわ」
懐かしそうに話すセフィーロだった。
ガルプスリーに血魂晶の存在を聞き、自分が死ななかった理由を知る。
そして、ガルプスリーから血魂晶に関するヒント貰ったセフィーロは、隠している在処を探し当てたそうだ。
隠してあった場所は、人族は勿論、魔族でさえ近付けるような場所では無かったそうだ。
血魂晶を手にしたセフィーロは、血魂晶が自分の物だと直感する。
そして、もしこれがなければ、自分も違った生き方が出来たのではないかと考える。
その後、自分の手元に置いて秘密裏に管理していたそうだ。
この血魂晶の存在は、吸血鬼族でも誰も知る者は居なかった。
長年、奪われることが無かったことから、危機感が無くなっていたと、少し悔しそうに話した。
「死のうと思えば、いつでも死ぬことが出来ると思っていたけど、思った以上に長生きしていたわ」
そう語るセフィーロは、先程までと違い嬉しそうだった。
「ネロのおかげですか?」
「そうね。あの子が私の希望だったわ。あの子だけが、長い間一緒に居てくれた」
ネロの事を語るセフィーロは、母親のように穏やかで嬉しそうだ。
「もう、吸血鬼族はあの子だけなのよね?」
「はい……」
「いずれ、あの子がヴァンパイアロードになるから、私の能力も引き継ぐかと思うわ」
「その能力とは、吸血鬼族を増やすことですか?」
「そうよ。私が吸血鬼族の始祖だから、一族を増やす力があると思っているようだけど、それはヴァンパイアロードの力なのよ。私自身、ヴァンパイアロードになるまで、仲間を増やすことが出来なかったわ」
「それは、貴女の一人で魔素を貯めたということですよね?」
「えぇ、そうよ。だから、あの子も仲間を増やすのは、かなり先になると思うわ」
「それまでは、一人ってことですか?」
「一人じゃないわ……貴方や、アルシオーネがいるでしょう」
「それは、そうですが……」
「あの子の――ネロのことをお願いね」
「はい」
「ありがとう……やっぱり、師匠ね」
「いや、それは……」
俺は回答に困った。
そんな俺を見ながら、セフィーロは吸血鬼族の象徴でもある歯を見せる。
その表情は俺が今迄、見た事の無い笑顔だった。
「ネロが大事なんですね」
「えぇ、そうよ。大事な娘だからね」
「ネロに伝えることはありますか?」
「――そうね」
セフィーロはしばらく考えて、口を開くと一言だけ話した。
その一言に、ネロへの想いが詰まっていると感じた。
「必ず伝えます」
「宜しくね」
「はい」
手を振りながらセフィーロの姿は薄くなり、最後は消えた。
俺は振り返した手を下げることなく、セフィーロに聞きたかった言葉を口にする。
「幸せでしたか?」
両親が死んだ時、親族たちが「幸せな人生だった」と口にしていた。
年に何度も会っていない人たちが、両親が幸せだったかなんて知るはずがない。
安易に、その言葉を口にする親族が不思議に思えた。
死者に聞けるのであれば、聞きたいと思った言葉だったが――。
実際、使者を目の前にすると、聞こうと思っても口にすることが出来なかった。
もし、質問に対して否定する回答だった場合、俺はなんと言葉を返して良いのか分からなかったからだ。
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