第798話 戦後処理-2!

 ヒイラギは、感情を込めることなく淡々と話し始めた。


 ことの始まりは、ヒイラギの後任にアデムが就任したことだった。

 アデムは自分の理想とする世界を創る為、ヒイラギが築いた世界を崩壊させようとした。

 その過程で、『ロード』という仕組みを取り入れて魔物同士の戦いを強めて、より強い種族のみを残すようにしていく。

 しかし、何百年経とうが、勢力に大きな差は出来なかった。

 個体で強い者はより強くなり、弱い者は数を増やして知恵を持ち始めたからだ。

 まだ、この頃のエクシズには魔物しか存在していなかった。

 

 魔物だけでは世界の発展が思うようにいかなかったアデムは、新たに精霊族を創った。

 しかし、精霊族でも望んだ世界にはならなかったので、新たに鬼人や獣人を作る。

 鬼人や獣人のおかげで、世界は思った以上に混乱した。

 魔物との区別化を図る為、魔族と人族という定義を世界に広めた。

 しかし、数が少なく同族でしか繁殖できない鬼人や獣人は、徐々に数を減らしていき、魔物たちを狩る立場から、狩られる立場へと存在定義が逆転してしまった。

 そこで、鬼人や獣人よりも、少しだけ知能が高く、異種族間でも繁栄が可能な人間族を追加で創った。

 人間のおかげで人族は、新たな文明を築くことが出来た。

 同時に、世界が混乱せずに、平凡な時だけが過ぎて行った。

 しかし、これはアデムの望む世界では無かった。

 次の段階に進もうと、中級神の目を盗みセフィーロという存在を創る。

 セフィーロはアデムによって創られた実験体だったのだ。

 アデムの興味はセフィーロに移り、彼女の生活を覗くことが面白かった。

 そして、不老不死という存在こそ、自分が求めている世界に必要なものだと確信する。

 しかし、セフィーロの不老不死も完全では無かった。

 血魂晶に心臓を閉じ込めることで、不老不死に似た存在なだけだった。

 これはアデムの中で不完全だったようで、失敗作と感じていたようだ。

 次の試みをしようとした時に、アデムは中級神に昇格した為、エクシズの担当から外れることとなる。

 もう少しで、自分の思い通りの世界になると思っていたアデムは、自分の思い通りに動くガルプを後任にする。


 アデムの思惑通り、ガルプはアデムの指示通りに動いた。

 新たに転移者や転生者を送り込んで、無理やり世界を混乱させようとした。

 アデムは同じようなことをガルプにも教えて、条件付きという不老不死を与えていた。

 その情報を他の世界にフィードバックして、自分が理想とする世界を創ろうとしていた。


 アデムはプルガリス経由でセフィーロに、今回の魔物行進モンスターパレードの邪魔をしなかったら、人族と同じように年を取って死ぬ方法を教えてやるといったらしい。

 セフィーロは、プルガリスから提案を受け入れて、ネロの邪魔をすることとなった。

 アデムは長年に渡って、セフィーロを観察していたので、セフィーロの考えが分かっていた。

 セフィーロの望みは、普通に生きて人生を全うすることだ。

 自分よりも若い者たちが死んでいく姿を見て、心を痛めていた。

 未来永劫、このままの状態が続くことにセフィーロの心は疲れ切ってしまっていたのだろう。

 アデムは、そんなセフィーロの気持ちを逆手に取り、提案をしたのだ。



 神の世界でも、以前よりアデムの行いを不審に思っていた最高神の一人『キリスタ』は、モクレンにアデムの調査を何百年も前から極秘に進めさせていた。

 ガルプとの繋がりも知っていたが放置していた。

 しかし、ガルプの行いが最高神に知られたことで、アデムは仕方なくガルプを処理する。

 勿論、アデムの指示でガルプが極秘に動いていた証拠などは全て消失させた後でだ。

 ガルプ時代の資料が殆ど、残っていないのもそのせいだった。

 ヒイラギもキリスタの指令で、モクレンとは別にアデムの動向を探っていた。

 決定的だったのは、ガルプを秘密裏にエクシズへと転生させていたことだ。

 しかも、プルガリスにガルプを転生させる方法も伝えていた。


「これが、エクシズで起きた件の内容になります」

「申し訳ありませんが、それだけでは分かりかねます」

「確かに、そうですね。これだけでは、アデムの目的が分かりませんね……」

「はい。エクシズを、どうしたかったのかなどが分かりませんし、話を聞く限りですがエクシズの存在をないがしろにしているようにも思えます」

「そうですか……」


 ヒイラギは少し考えると、説明を始めた。


 アデムの言い訳は、自分の思い通りに世界を創ってみたかった。

 その為に、幾つもの世界がどうなろうが関係ない。

 自分の管理する世界以外は、全て実験世界なのだからと――。


 俺は、ヒイラギの言葉に憤りを感じる。

 実験世界……。

 この言葉が、一生懸命生きている人たちへの冒涜と感じたからだ。

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