第793話 王都襲撃-15!

「待て!」


 ガルプが叫ぶ。


「こいつがどうなってもいいのか?」


 ガルプは影から、手のひらほどの赤い石を取り出した。

 何度か目にしている血晶石より赤い。


「……どうして、それを」

「これが、お前の弱点だと知っていたんで保険として預からさせてもらっただけだ」

「それは、里奥深くに隠したはずだ――お前まさか‼」

「まさか?」


 ガルプは不敵な笑みを浮かべる。


「里の者をどうした‼」

「里の者? あぁ、あいつらならそこら辺にいるぞ」


 ガルプの目線の先には、アンデッドとなった吸血鬼族の集団がいた。


「何故、里を襲った!」

「襲うのに理由は必要ないだろう……いや、これを手に入れる為か!」

「お前は殺す!」

「その前に、俺がお前を殺す」


 言い終わると同時に、持っていた石を壊す。


「ぐっ!」


 急にセフィーロが苦しみだす。


「ネロ! 一族の敵を……そして、貴女が次のヴァンパイアロードです――」

「お母様‼」


 落ちていくセフィーロを、ネロは受け止めた。


「お母様……お母様」


 ネロはセフィーロを呼ぶが、セフィーロから返事は無い。


「不死と言っていた割には、呆気ない。自分の心臓をこの『血魂晶けっこんしょう』に移しただけで不死とは……所詮、紛いの不死だということも分からずに、調子に乗り過ぎだ」

「何が可笑しいんだ‼」


 笑いながら話すガルプに、俺は怒りをぶつける。


「何って、最初は不死だと思って思い更けていたので、気の毒に思った俺が何百年後かに、この仕組みを教えてやったら驚愕していたあの娘が、一丁前に俺に意見を言ってきたのが可笑しかったが、なにが悪い?」


 俺の怒りより、ネロの怒りの方が大きいだろう。

 母親を殺されたことにより、ガルプ討伐への優先権は確実にネロに移ったと思えた。


「お母様の敵を取らさせて頂きます」

「……ローネか?」

「はい」


 ネロのもう一つの人格ローネ。

 怒りが抑えられないときにネロと代わり、表に出て来る人格だ。


「ネロは、大丈夫か?」

「怒りと悲しみの感情で一杯です」

「そうか……」

「私が奴を倒します。文句は言わせません」

「分かっている……ただ、この【光縛鎖】は解けないからな」

「構いません」


 ローネの眼は怒りに満ちていた。


 地上では轟音と共に、アルが怒りをぶつけるように魔物たちを倒していく。

 既に数も三分の一程度だ。

 アンデッドにならないよう、確実に倒している。

 アルもネロとセフィーロが来たことは気付いているだろう。

 そして、セフィーロに起こったことも――。


 ローネは怒りに任せた攻撃では無く、確実に攻撃を当てて言った。

 俺の中で最強と思っていたセフィーロが、いとも簡単に倒されたことに、俺は少なからず動揺していた。

 そして、以前にアデムとモクレンが言っていた、セフィーロがアルやネロと不死の意味合いが異なる理由が分かった。

 セフィーロは心臓をなにかしらの方法で、あの血魂晶に移したのだろう。

 魂を移す……自分もしくは、他人の魂を別の物に移す事が可能ということか?

 いや、物でなく死体等でも可能なのだろうか?

 そして、俺はセフィーロの言葉を思い出していた。

 吸血鬼族をこの場に来させたくなかった……。

 吸血鬼族のスキルと言えば、血を媒介としたスキルだ。

 プルガリスの言葉とはいえ、そこにガルプを倒せるヒントがあると思っている。


 ローネとの戦いを見ていたが、ガルプは俺との戦いより距離を取っていた。

 明らかに何かを警戒しているようだった。


「お前は、絶対に許さないの~!」


 ローネの口調がネロに代わっていた。

 落ち着いて、ネロに人格が戻ったようだ。


「小賢しい!」


 ガルプも攻撃をするが、プルガリスの時のようなスキルを使用する気配は無い。

 純粋に肉弾戦のみだ――もしかして、魔法系のスキルが使えないのか?

 肉体のみの戦いであれば、血液を操作されるのは致命的だろう。

 そうだとすれば――。

 俺がネロに助言を言おうとした時、ガルプの手に吸血鬼族が首を握られるように吊るされていた。


「動けば、この吸血鬼族を殺しますよ」

「ネ、ネロ様……申し訳御座いません」

「お前、卑怯なの~!」


 捕まえられた吸血鬼は【操血】でネロの四肢と首を絡める。


「お前が抵抗すれば、この吸血鬼は死ぬぞ――っ!」


 言い終わる前に、アルが腕を攻撃して吸血鬼族を救出した。


「神の癖に卑怯なことしかせぬの」

「アルシオーネ!」


 俺があれだけ攻撃しても、殆どダメージを与えられなかったのに、アルの攻撃が簡単に当たった。

 俺は違和感を感じる。


「私の作品の分際で‼」


 ガルプが怒りで吠えた。


「下は大丈夫か?」

「あぁ、殆ど倒した。あとは人族でも大丈夫じゃろう。心配なら精霊に後片付けを頼む」

「分かった」


 俺は地精霊ノームのノッチに、地面に亀裂を入れてもらい、亀裂に魔物たちを落とした。

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