第786話 王都襲撃-8!
「別れの挨拶は済みましたか?」
「そんな挨拶は必要ない。お前には、別れの挨拶する相手がいないから僻みか?」
「何を――」
俺は言い終わる前に、【転移】でプルガリスの前に移動して、プルガリスの顔面に拳を叩きつけた。
「くっ! 思ったよりも短気なのですね」
「あぁ、お前に対しては温厚でいられるほど、俺もお人好しじゃないんでな」
「成程、私怨って訳ですか……まぁ、いいでしょう」
プルガリスは体勢を整える。
「何故、滅んでも問題の無い人族を助けるのですか?」
「それは、お前の勝手な考えだ」
「……本当に何も知らないようですね。新しい神は余程、信頼されていないようですね」
「何を言っている」
「貴方とは、これ以上話しても無駄のようですね。私も逃げることなく、決着を付けましょうか」
「望むところだ」
「新旧神の代理戦争といったところですね」
言い終わらないうちに、黒い球が幾つも俺に向かって飛んで来た。
だが、魔法攻撃であれば、俺には【魔法反射(二倍)】があるので利かない。
俺に当たる寸前に黒い球は軌道を変えた。
(しまった!)
プルガリスの狙いは俺でなく、ソディックたち騎士団だった。
俺は【転移】を使い、ソディックの所まで移動して黒い球をはじき返す。
しかし、正門前で待機していた騎士団たちの攻撃を防ぐことが出来ない。
(主。我にお任せを)
クロが騎士団たちの攻撃を防いでくれた。
俺が安心すると、胸部から剣が飛び出していた。
振り返ると、騎士団の一人が俺に剣を刺していた。
「何を!」
ソディックと騎士たちが、俺に剣を刺した騎士を拘束する。
しかし、意思が無い――いや、心が無いかのように無抵抗だ。
「……お前の仕業か‼」
「だから、何度も言っているでしょう。戦いは戦う前から始まっていると――ね」
「ぐっ!」
俺の肉体に騎士団の所持している剣では貫通することなど出来ない。
なにかしらの魔法が付与された剣なのだろう。
「――あれ、変ですね? 胸を刺されれば、不死の貴方も死ぬと聞いていたのですが?」
「生憎だが、嘘の情報でも掴まされたのか?」
俺はプルガリスに対して、余裕の言葉を返す。
しかし、実際は騎士に心臓を貫かれていれば、間違いなく俺は死んでいた。
……プルガリスは何故、その情報を知っていたのだ?
この事は、この世界の者は誰一人知らない筈だ。
いや、俺と情報を共有できるシロとクロは――。
何を考えている。仲間を疑うなど……。
これもプルガリスの陽動作戦なのか?
俺は考えが纏まらない状態で、胸の剣を抜こうとするが、抜くことが出来ない。
「無理ですよ。貴方専用に作った武器ですからね」
不敵に笑みを浮かべるプルガリス。
俺はプルガリスを睨みつけながら再び、剣を抜こうとする。
「無駄なあがきをしてますね」
攻撃を仕掛ける訳でなく、上空から俺を見下していた。
「タクト殿。私が!」
ソディックが抜こうとするが、抜くことが出来ない。
しかし――。
「ソディック。そのまま、剣を振り下ろせ」
「しかし、そんなことをすれば――」
「頼む。俺の言うとおりにしてくれ」
「――分かりました。文句は後で聞きます‼」
ソディックは胸に刺さった剣を足に向けて切り下ろした。
俺の体は胸から下が左右二つに分かれる。
さっき、ソディックが剣を拭こうとした時に、引くことは出来ないが下に下ろすことが出来るのを確認したので、イチかバチかだった。
「人族よ、よく御覧なさい。胸から切られても再生する人間族ですよ。これでも、貴方たちと同じ人族ですか?」
プルガリスは、全世界に俺の危険性を訴えかけているように話す。
「タクト殿、逃げて下さい!」
ソディックが、剣を持って俺に襲い掛かって来た。
「自分の意思で体を動かすことが出来ません」
悲痛な表情で俺に話し掛ける。
「……魔剣か⁉」
「正解です。しかし、流石は王国騎士団団長だけあって、簡単に精神まで乗っ取らせてくれませんね」
プルガリスの想像以上に、ソディックの精神が強かったようだ。
しかし、魔剣に魔法付与……確かに、厄介な剣だ。
「ソディック。少しだけ痛いが我慢してくれよ」
俺はソディックの返事を聞く前に、剣を持っている右手首を切り落とす。
魔剣が手から離れたことで、ソディックに激痛が襲う。
俺は魔剣を拾い握る。
そして【神の施し】で、ソディックの右手を元通りに戻した。
時間にして三秒ほどだが、魔剣が俺に精神攻撃を仕掛けて来た。
俺はそれに抵抗して、魔剣を支配下におこうと試みる。
「無理ですよ」
プルガリスが嬉しそうに話す。
魔剣は、プルガリスの言葉に答えるかのように刃の部分が折れる。
剣いや、魔剣としての使命を終えたかのようだった。
「ソディック。クロの居る正門の方へ避難してくれ」
「……分かりました」
ソディックも、自分たちが此処にいれば、俺の足手まといになると思ったのだろう。
俺の言葉に従ってくれた。
もっとも、騎士の中には勝手に体が再生した俺に怯える者も何人かいたのを、ソディックも気付いていた。
騎士たちのことも考えてだろう。
上空のプルガリスは、自分の思惑通りに物事が進んでいるのを楽しんでいるかのように、余裕の表情を浮かべていた。
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