10章

第777話 紅月!

 街にある発光石が赤味を帯びた光を発するようになる。

 誰もが一度は聞いたことのある昔話に似ている。

 今迄に経験した事の無い珍しい現象を、無邪気に喜ぶ子供たち。

 それとは対象的に、大人たちは先人たちの言葉を知っているだけに、不安な表情を浮かべていた。

 王都いや、国中は不吉な前触れだと噂が広がる。

 国王であるルーカスたちは過去の記録を調べて、対策を取ろうと会議を重ねていると、冒険者ギルドに寄った時にグラマスのジラールが教えてくれた。


 その時に、冒険者が行方不明になった迷宮ダンジョンについても、何人かが捜査の為に迷宮ダンジョンに潜ったが、行方不明の冒険者は見つからなかった。

 迷宮ダンジョンで発見されたアイテムがレアアイテムまでいかないにしても、それなりに価値があるアイテムを何人も持ち帰ってきているので、冒険者は積極的に迷宮ダンジョンへと入っていった。

 発見されたばかりなので、貴重なアイテムがまだ眠っていると、期待しているということは推測出来た。

 レアアイテムを所持出来れば、冒険者としてもうワンランク上にいけると考えられているからだ。

 多くの冒険者が出入りする迷宮ダンジョンになった為、冒険者ギルドとしては捜索隊を派遣しなくても、誰かが発見してくれると期待をしているそうだ。

 

 しかし、国として前回の百二十年程前、魔物暴走スタンピードや、魔物行進モンスターパレードの発生と被害などが、正式に記録として残っているのだろうか?

 魔物による王都への襲撃や、魔王による攻撃。

 誰もが経験したことのない状況。

 情報が無いことが、かえって不安を煽っていたが、大きな混乱は起きていない。

 冒険者ギルドと協力して、冒険者への協力などの根回しも行っているようだが、確実でなく不確定要素が多い。

 不確定なことに報酬を払うこと自体、難しいという問題もある。

 当然、報酬を貰うということは依頼内容が明確でないと駄目だ。

 魔物襲撃時は王都の防衛を行うこと。

 これだけでも依頼は可能だ。

 しかし、魔物の種類や数が分からない状態では、仮に冒険者が王都から逃げても罪に問われることは無いだろう。

 準備だけして何も起こらなければ、それが一番いいことだ。

 誰もが、それを望んでいるだろう。

 しかし、何か起これば結果や結論から、憤りの無い怒りをぶつける相手を探す。

 それは準備したとしても同じだ。

 非難されるのは、王族をはじめとする自分たちの税金で暮らしている者たちに向けられる。

 少しでも非難を減らす必要がある。



 ゴンド村を知っている者たちは、ゴンド村を危険視している。

 ゴンド村の魔族たちが暴走することや、魔王であるアルやネロのことなどを気にしているのだろう。

 確かにその通りだ。

 俺自身、その事を失念していた。

 ゴンド村にいる魔族が暴れると、それを止める者が居るのかということになる。

 まぁ、ネロがいれば大丈夫だとは思うが、ネロが不在の場合は厳しい状況になるだろう。

 コボルトたちであれば、村人たちでもどうにか対処できるとは思う。

 問題はドラゴンや、魅惑の森に生息する魔物たちになる。

 一斉に襲われれば、ゴンド村の村人では太刀打ちできないだろう。 


 起こりうる事態を俺なりに考える。

 何かに取り付けれたように暴れる魔物暴走スタンピード

 先導者を携えて隊列を組む魔物行進モンスターパレード

 話を聞く限り、先導者を探す為に魔物暴走スタンピードが発生して、指導者を見つけると魔物行進モンスターパレードへと形を変えるのだろう。


 他の二国、オーフェン帝国やシャレーゼ国は、対処できるのだろうか?

 オーフェン帝国には、ケット・シーのフェンがいる。

 百二十年前のことも知っていると思うので、何か対策を講じてはいると思う。

 問題は、シャレーゼ国だろう。

 国として復興している最中だ。とても魔物の襲撃に備える余裕はないだろう。


 俺の……いや、世界中の人々の不安を知っているかのように、世界が徐々に紅く染まっていく……。

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