第778話 魔物暴走《スタンピード》!

 ――それは突然だった。

 地面が揺れた。地震などではない……。

 そう、魔物暴走スタンピードが発生した。

 俺はゴンド村付近で待機していたのでネロに連絡を取るが、ゴンド村にいる魔族が暴れるということは無かった。

 それはグランニール率いるドラゴン族も同様だった。

 どうやら、知能が低い本能のまま行動をする魔物たちが理性を失ってみたいだ。


 俺は【飛行】で、空から魔物たちを追跡する。

 当然、空にも同じように進む魔物もいるので、【隠密】も掛けておいた。


「凄い数だな……」


 土煙を巻き上げながら暴走する光景を見ながら、思わず呟いた。


「前回も、こんな感じだったのか?」


 俺はシロとクロに聞く。


「そうですね……似た感じではありますが……」

「明らかに目的地が分かっているかのように、迷わず進んでいますね」


 シロとクロが違和感を感じながらも答えてくれた。


「先導する者が近くにいるということか?」

「そうですね。探しているようには見ませんし、そう考える方が無難かと思いますね」

「主。しかし、この方角は……」

「あぁ、王都の方だな」


 他の魔物がどのような方角に進んでいるかまでは把握していない。

 しかし、魔物暴走スタンピードは次々と魔物たちを吸収するかのように大きくなっていく。


「まずいな……」


 進行方向には村がある。

 とても小さな村だ。

 魔物暴走スタンピードに飲み込まれてしまうだろう。

 俺は先回りする。

 シロに土で壁を作って貰い、魔物暴走スタンピードの進行方向を少しでもずらす。

 俺は村の手前を【結界】で守った。

 ……どうして、俺は見ているだけなんだ?

 ふと、自分の行動に疑問を感じる。

 魔物暴走スタンピードを、ここで食い止めて他の魔物暴走スタンピードを発見しても問題無い。

 明らかに俺の判断ミスだ。


「シロ、クロ‼」


 俺が名前を呼ぶのと同時に、クロは空へと羽ばたき、シロは俺の腕の中から飛び降りた。


「お、親びん……私は……」


 胸ポケットでピンクーは不安そうな眼でら、震える声で訴えかけた。


「行きたいか?」

「そ、そんな、私などが行っても、シロ先輩やクロ先輩の邪魔になるだけです。ここで親びんの戦いを見学させて頂きます」

「だろうな……」

 

 俺は少しだけ笑い、シロとクロに続き魔物暴走スタンピード壊滅させる為、攻撃を仕掛けた。



「思ったよりも多いな……」


 どこに、これだけいたんだ? と思いながら、四つほどの魔物暴走スタンピードを壊滅させる。

 クロの影に入れておくことも考えたが、同じ影を扱うプルガリスのこともあり、利用されることは無いと思うが、不安要素は少しでも取り除いておきたかった。


「主。もう、王都が近いですが、どうしますか?」


 クロのどうしますか? と質問にするのは戦いに参加するのか?

 その場合、人型なのかといったことだろう。

 何故なら、王都に近いと言っても、目の前には王国騎士団が王都から出て、魔物たちから魔物を守るために待機していた。

 魔物たちも、王都の前で待機しているようにも見える。


 シロを抱えると、クロが右肩に乗る。

 歩いて王都に近付くと、王国騎士団の騎士たちが俺たちに気付く。

 ……このような状況のなかで、普通に街の外を歩いている俺を不審に思ったのだろう。

 声が届くところまで来ると俺より先に、騎士団が声を上げる。


「何者だ⁉」

「冒険者のタクトだ」


 俺は冒険者ギルドカードを提示しながら、近付く。


「これは――」


 俺のギルドカードを見た騎士が言葉を詰まらせて、他の騎士が走り去っていく。

 

「タクト殿でしたか。お噂は兼ねがね聞いております」

「あぁ。それよりも王都を守っているのは、王国騎士団だけなのか?」

「いいえ。一番大きい正門のみ我ら騎士団で警護しております。他の三つは冒険者と合同で守護しております」

「冒険者と?」

「はい。彼らも王都に住む者として、協力をしてくれました。各門には、騎士団の部隊長が何人かいっておりますが、ジラール殿が裏門を指揮して貰ってます。左門はネラルト副団長が。右門はクトリー副団長がそれぞれ指揮しております」

「なるほどな――それより、冒険者が報酬も無しで協力したってことか?」

「はい、その通りです。彼らも王都の周囲を囲んでいる魔物たちを見て、逃げても無駄だと思ったのでしょう」

「まぁ、逃げる場所が何処にあるか? って話もあるしな」

「確かにそうですね。だからこそ、タクト殿の姿を発見した時は驚きましたよ」

「まぁ、俺も魔物たちを倒しながら来たからな」

「えっ‼ そうなんですか?」

「あぁ。だから、俺たちが来た方向からは魔物は現れなかっただろう?」

「そっ、そうですね」


 騎士は俺の後ろの景色を見ていた。


「まだ、攻撃はされていないようだな?」

「はい、そうです。あっ、団長がお見えになりましたので、詳しくは団長からお話があるかと思います」


 騎士は一礼をして、一歩下がった。

 王国騎士団団長のソディックに道を譲ったようだ。

 ソディックは俺と目が合うと、兜を外した。


「王国騎士団団長のソディックです。タクト殿とは確か……魔人が現れた時以来ですかね?」

「そう……だな」


 ソディックが言った『魔人』とは、黒狐の残党のことを言っている。

 緊急会議に招集されたときに居た。


「時間も無いようだから、簡潔に教えてくれ」

「分かりました。見てわかるように王都は魔物に包囲されています」

「何故、攻撃してこないんだ? 何か理由でもあるのか?」

「それは私でも分かりません。徐々に魔物の数は増えていますが、攻撃を仕掛ける訳でも無いので、私も不気味に感じています」

「……確かにな」


 全ての魔物が同じ行動を取っているということは、先導者と合流したと考えるべきだろう。


「タクト殿も協力して頂けるのですか?」

「俺に出来ることがあれば――だけどな」

「御謙遜を。最高ランクの冒険者であるタクト殿が、作戦に加わっていただければ、心強いに決まっています」

「ん、作戦⁉」

「はい、王都防衛作戦です」

「……なるほど、俺は冒険者の集団に合流すればいいのか?」

「はい、御願い出来ますか?」

「分かった。厳しい戦いになりそうか?」

「そうですね。あの数ですから……」

「死ぬなよ」

「国を守るためであれば、命を捧げる覚悟です」

「まぁ、確かにそうだが……」


 俺は次の言葉を口にしようとして、少し考えてから口にした。


「団長が死んだら、第二王女が悲しむから生きていてくれよ」

「なっ、何を‼」


 ソディックは顔を真っ赤にしてた。


「顔が赤いぞ」

「そ、そんなこと――紅月のせいでしょう」


 ソディックは恥ずかしいのか、左脇に抱えていた兜を部下に気付かれないように被った。

 ソディックが大声を出したため、他の騎士たちが俺たちの方を見ていた。

 第二王女のヤヨイと、ソディック。

 お互いに好意を寄せている。

 立場という壁がある為、ソディックは自分の気持ちを押し殺している。

 元とはいえ義兄になるはずだった者としては、二人には幸せになって貰いたいと思っている。

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