第768話 感謝!

 俺がシロに講義を受けている間、王宮鑑定士のターセルがゴードンに商品の説明をしていた。

 村で必要となる商品であればアルの持って来た『フレッド牛』とネロが持って来た『フレッド豚』になる。

 村人から要望を聞いて、捕まえてきたのだろう。

 エルドラード国内に生息している野生の牛や豚で、あまりの美味しさに初代国王『フレッド・エルドラード』が驚いたことで、自分の名を付けることにした話は有名だ。

 野生の牛や豚とはいえ、庶民が口にすることは殆ど無い。

 何故なら、生きたまま捕獲しないと味が落ちる為、優秀な冒険者でなくては捕獲出来ない。

 冒険者を雇うことが出来る貴族などは、自分たちが食す以外に喜ばれる品の為、贈呈品や献上品にすることもある。

 一定期間は飼育する事はあっても、エクシズには長期間飼育することや、養殖という概念が無い。

 卵などを調達するにしても、野生の鶏の巣から拝借している。

 村に牛が数頭いるが、それは乳牛として飼育されているだけだ。

 もし死んでしまっても、その肉を食べることは無い。

 病気で死んだと判断されて、もし食べれば同様に病気に掛かると考えられている。


 俺的にはフレッド牛や、フレッド豚を飼育すれば、かなり利益を見込めると思っている。

 実際に四葉商会での飼育も本気で考えていたこともあった。

 当然、フレッド牛や、フレッド豚の価値は下がってしまうだろうが、惜しい食材が安価で手に入れば、人々に喜ばれることは間違いない。

 

 ターセルの選択肢には、アルが持って来た『火龍酒』も入っている。

 なにより、建築工事などを一手に引き受けてくれているドワーフ族たちが酒好きというのが大きい。

 もっとも、普通にゴンド村では普通に呑まれている。

 ゴンド村以外では希少な酒なのは間違いないのだが……。

 それ以外は、ネロが用意した果物『ソンナバナナ』に『マスマスカット』。

 どちらも寒冷地でしか育たない果物の為、ゴンド村で暮らす村人たちには初めて見る果物のようだが、数が少ない。

 村人全員ということを考えれば、選択肢には入らないだろう。

 俺も北の地で最初に見つけて、名前を聞いた時は、聞き返したくらいのふざけた名前だ。

 しかし、美味しい事は間違いない。

 通常の果物に比べて腐りやすい為、あまり流通していない。氷に入れてたとしても、王都で食べることは出来ない。

 どうしても食べたければ、生産地まで足を運ぶ必要がある。


「では、フレッド牛を頂きましょうかの」


 ゴードンは悩んだ末、フレッド牛を商品に選んだ。

 フレッド牛は、会場から連れていかれると、村の男に殺されて食材として解体された。

 ターセルは迷うことなく『マスマスカット』を選んだ。

 氷で包まれているので、腐る心配は無い。

 ネロが収穫して氷で保存してから転移で戻って来たし、表彰式が始まるまでクロが保存していた。

 このまま氷で保存しておけば、明日までは持つだろう。


 三位のネロは、『ソンナバナナ』を選んだ。

 余った商品はゴンド村で食べるので、ネロが何を選んでも村人たちの胃の中に入るから関係ない。


「皆の者、楽しかったぞ」

「楽しかったの~。そして、これで終わりなの~」

「これにて、ババ抜き大会は終了じゃ‼」

「ちょっと、待って下さい」


 ババ抜き大会の終了を宣言したアルとネロだったが、クロがそれを遮った。


「アルシオーネ様にネロ様。そのまま、暫く御待ち下さい」


 不思議そうなアルとネロを無視するように、クロは右手を上げる。

 山で待機していたグランニールたちが、ゴンド村に降りた。


「ん?」


 グランニールが何かを咥えていた。

 しかも、下に紐のようなものが垂れている。


「では、皆さん。大きな声で唱和願います!」


 クロが言い終わると、村人たちが大きな声で叫び始めた。


「アルシオーネ様、ネロ様。いつもありがとうございます!」


 村人たちが言い終わると、ゾリアスがグランニールが加えていた物から垂れていた紐を引っ張る。

 暖簾のように布が落ちて来て、そこには『アルシオーネ様。ネロ様。いつもありがとうございます』と、叫んだ言葉と同じ文字が登場した。

 わざわざ活字に起こすのであれば、別の文字でも良かったのでは? と思いながら、面白そうだと感じていた。


「ドンドン、パフパフ」


 ゾリアスが叫ぶと、続けて村人たちも叫ぶ。


「「「ドンドン、パフパフ」」」

「いつもアルシオーネ様とネロ様に、村を守って貰っている村の人たちからの感謝です。勿論、ババ抜き大会を開催頂いた感謝も含んでおります」


 司会のクロが、何が起こっているのか分かっていないアルとネロに説明をする。


「なっ、なんなんじゃ!」

「なんなの~」


 周りを見渡しながら戸惑うアルとネロ。


「アルシオーネ様にネロ様。これを、どうぞ」


 モモが数人の子供たちを引き連れて、花冠をアルとネロに渡す。


「こんなもので申し訳ありませんが、村の子供たちからです。いつも、遊んでもらっているお礼です」

「アルシオーネ様。僕が被せてあげるね」

「私はネロ様に」


 子供がアルとネロに花冠を被せた。

 村人たちから拍手が送られるが、アルとネロは慣れていないのか顔を赤くして照れていた。


「これからも、ずっと村にいてくださいね」

「もっ、もちろんじゃ! のう、ネロ」

「当たり前なの~」


 恥ずかしさと嬉しさが合わさった表情で、アルとネロは子供たちに答えた。

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