第759話 見学ツアーの感想!

 ゴンド村の見学ツアーを終えたアラクネ四人。

 それに群がるアラクネたち。

 人数の関係で、クララ同行の今日は午前と午後で四人ずつ。

 明日はクラリス同行で、午前と午後で四人ずつだ。

 午前と午後両方には、クララないしクラリスが同行する。


「凄いわよ! 人族って皆、マリーやフランのように小さいのよ」

「そうそう、それに私たちが服を作ったら、もの凄く喜ばれたわ」

「拍手? ていうのが感動したときにする動作らしくて、気持ちよかったわ」

「それで、それで」


 戻って来た三人は、他のアラクネたちから興味津々で質問攻めにあっている。


「住んでいる物にも布のようなものが掛けられていたわよ」

「それは何に使っているの?」

「カーテン? と言っていたわ。なんでも陽の光が眩しかったり、夜になると外から中が見えないようにするそうよ」

「へぇ~、人族って面白いのね」

「そうなのよ。それに私たちのお尻に子供たちが嬉しそうに乗ってくれたのよ」

「なにそれ!」

「乗り心地がいいとか言われたし、本当に人族の子供たちは可愛かったわよ」

「私も子供たちを乗せて気持ち良かったわね」

「何ていうのかしら、人族の子供たちとの話も楽しかったわね」

「そうなのよね。無邪気というか、世話をしてあげたくなっちゃうのよね」


 本当に楽しそうにゴンド村での出来事を話す。

 聞いているアラクネたちは、「それほど楽しいのか!」と期待に胸を膨らませているのだろう。


「ただし、問題もあったわね」

「そうそう」

「えっ! それは何?」

「村には木が生えていないよね」

「それは、確かに問題ね」

「それ以上に大きな問題もあるわ」

「そうなの、それは何?」

「さっきも話したけど、私たちの体の大きさよ」

「それの何が問題なの?」

「村自体が人族の大きさなの!」

「どういうこと?」

「私たちは、木の上で過ごしているでしょう。暮らす場所が無いって事よ……」

「成程ね。確かにそうね」

「けど、すぐ近くというか村に近接している森が、オリヴィア様の御仲間であるリラ様が管理する森があるの」

「そうなんだ。その森は、どうだった?」

「残念だけど、森までは見学させてもらっていないよね」

「そうか~。それなら仕方が無いよね」


 話が弾んでいる一方でクララは、クラリスに同行者としての話をしていた。


「クララ!」


 俺はクララを呼ぶと、俺の方に体の向きを変える。

 同時に、俺たちが持っていた虫かごに興味を示したのか、クラリスと二人で凄い勢いで迫ってきた。


「その手に持っているのは何?」

「これは、ゾリアスたちゴンド村からの土産だそうだ」

「土産?」

「あぁ、クララたちにゴンド村に来てくれた礼ってことだな」

「何故、ゴンド村の人たちが? 無理を言って私たちが行ったのに?」


 クララは土産の意味が理解出来ないようだった。


「気にせずに貰っておけばよいのじゃ」


 アルが横から口を挟んできた。


「この蝶は、あの付近でしか生息せぬ珍しいものじゃぞ」

「そうなの~、この虫も最初は癖があるけど、食べていくと癖になる美味しさなの~」

「アルは虫も食べるのか?」

「違うの~。蝙蝠にあげたら、そう言っていたの~」

「そういうことか……」


 俺がネロの言葉に、ホッとしているとクララが、手元の虫かごを、じっと見ていることに気付いた。


「多分、全員の分だと思うから、きちんと分けろよ」

「も、勿論よ!」


 アラクネにとって、この昆虫たちはジャンクフードなのだろうか?

 クララが全員集合させると、話を切り上げてアラクネたちが集まってきた。


「この虫たちは、見学させて頂いたゴンド村からの贈り物です。今後、ゴンド村に訪れる者たちは、アラクネ族として恥じないように、これ以上のお返しをするように!」

「「「はい!」」」


 アラクネたちが一斉に返事をする。

 生きが良いうちに食すつもりなのか、クララはすぐに虫を配り始めた。


「なにこれ!」

「もの凄く、美味しい!」


 各々、食べた感想を言っていた。

 生まれてから何年も同じものばかりを食べてきたので、新感覚な感じなのだろう。

 より一層、外の世界への興味を持ってしまったかも知れない。


「やられましたわね」


 知らぬ間に、オリヴィアが後ろにいた。


「どういうことだ?」

「リラが意図的に、虫を村人に多く捕獲させたのです」

「虫も森の住人だろう?」

「確かにそうです。しかし、メリットを考えれば、村人たちを誘導するのは簡単なことですわ」


 オリヴィアは不機嫌そうに話す。


「まぁ、同じ立場なら私も同じことをしていたと思いますので、あまり文句も言えませんが……」

「でも」

「決まっております」


 俺が「でも、アラクネたちが蓬莱の樹海を出ていくとは限らないだろう!」と全ていう前にオリヴィアは言葉を重ねた。

 その表情は、どこか少し寂しそうだった。

 既にアラクネたちの意志を読んだので、これからのことも想像出来ているのだろう。

 だからと言って、俺が何か出来る訳でも無い。

 俺に外の世界に行きたいと言ったアラクネを止めるなと、言ったオリヴィアの複雑な心中に対して、どうすることも出来ない。


「気にしなくても大丈夫です」


 オリヴィアはクララたちから目線を外すことなく、俺に話し掛けた。

 その目は巣立って行く子供を見る親を想像させた。

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