第760話 最強戦士?

 アルとネロに、午後の見学ツアーの事を頼む。


「おぅ、任せるのじゃ!」

「問題無いの~」


 二人から頼もしい返事が返って来る。


「見学ツアーが終わったら、俺と戦ってくれるか?」

「おぉ、もちろんじゃ!」

「楽しいの~!」


 アルとネロは大喜びだ。

 俺自身のレベルアップもあるが、本当の目的はピンクーのレベルアップだ。

 ピンクーが眷属として、出来るだけ早く眷属に戻れるようにするには、アルやネロと戦うことが、一番の早道だと思ったからだ。


「妾も用事があるから、すぐには出来ぬぞ」

「アルに用事?」

「そうじゃ、ババ抜き大会の景品の調達じゃ!」

「私もなの~!」

「……」


 俺は以前のアルとネロが用意した、ビンゴ大会の景品が頭に浮かんだ。

 とても高価な物で、ゴンド村の村人では手に負えないような国宝級の物まであった。

 今回、俺は裏方なので参加はしない。


「……あまり高価な物は止めろよ」

「分かっておる。妾たちだって、馬鹿ではない」

「そうなの~」


 俺は二人に疑うような視線を送る。


「だっ、大丈夫じゃ! なっ、ネロ」

「たっ、多分、大丈夫なの~!」


 とても不安だが、一生懸命なアルとネロにそれ以上、言うことは無かった。


「今回は、五位まで商品を用意するつもりじゃ!」

「随分と多いな?」

「三位までだと、決勝戦に進んだ者たち全員に商品が渡せないからじゃ!」

「そういう事か。よく、考えているな」

「どうじゃ、凄いじゃろう」

「わたしも、考えたの~」

「勿論、ネロも偉いぞ!」


 俺に褒められたアルとネロは、無邪気に喜ぶ。

 本当の意味で、ゴンド村の祭りなのだと感じた。


「それでお主は、何処に行くのじゃ?」

「これが弱すぎるので、少し鍛えるつもりだ」


 俺は右手で左胸のポケットに入っているピンクーの頭を軽く叩く。


「そういう事なら、妾が強くしてやるぞ!」


 アルは目を輝かせている。


「……アルだと、手加減する前に殺してしまうだろう」

「そんなことは無いぞ」

「まぁ、気持ちは有り難いが俺の仲間だしな。俺たちで、強くさせる」

「分かったのじゃ……」


 アルは渋々、納得した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ず、ずるいですよ!」


 ピンクーは、つぶらな瞳に涙を浮かべながら、叫んでいた。

 戦っている相手は、アラクネ族副族長のクラリスだ。

 ピンクーも本来の大きさに戻っているとはいえ、自分より大きな相手と戦ったことがないせいか、防戦いや、逃げることで精一杯のようだ。

 ピンクーの戦闘力を確認する為に、クラリスに相手をしてもらったのだが……。


「逃げていないで、戦え!」


 俺はピンクーに檄を飛ばす。


「むっ、無理ですよ~」


 アラクネたちは、クラリスとピンクーの戦いを見ながら笑っていた。

 隣にいるシロとクロは、元とはいえ、自分と同じ眷属であるピンクーの姿に苦笑していた。


「……どう思う?」

「酷いですね」

「あれで最強とは、よく恥ずかしくも無く言えましたね……」


 シロとクロの意見に、俺も頷く。


「クロ。悪いが個別にピンクーを鍛えてくれるか?」

「承知致しました」


 俺が思っていた以上に、酷いピンクーの現状に失望していた。


「そこまでっ!」


 俺が戦い終了の声をあげると、ピンクーは凄い勢いで俺の方に走ってきた。


「おっ、親びん、怖かったですーーー!」

「お、おぅ」


 ピンクーを眷属に選んだエリーヌは、やはりポンコツだ! と一瞬、思ってしまった。


「早く強くならないと、一人前になれないぞ?」

「こっ、こんな思いをするなら、一生親びんの胸のなかで生活します!」


 ……いや、眷属としての務めを果たさないと駄目だろう! 心の中でツッコミをいれる。


「暫くは、クロについて鍛えて貰え」

「……クロ兄に?」

「弱すぎるから、死なない程度のレベルアップが必要だ。ピンクーは、これから毎日、クロに鍛えて貰えよ」

「えっ、まっ、毎日ですか!」

「あぁ、毎日だ」

「そんなに……」


 ピンクーのつぶらな瞳から光が消える。

 ……そんなに嫌なのか?


「ピンクー、大丈夫ですよ。私が、主の従者として恥じないよう、鍛えてあげますから」


 やる気に満ちたクロの言葉は、放心状態のピンクーの耳に届いていなかった……。

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