第757話 見学ツアー(ゴンド村)-1!
「ヨウコソ、ゴンドムラヘ。ワタシハ、ソンチョウノ、ゾリアスデス」
ゾリアスは片言で、アラクネたちに挨拶をする。
なんで、片言なんだ?
「アノ、ワタシノコトバ、ワカリマスカ?」
「はい、御丁寧な挨拶ありがとうございます。私はアラクネ族の族長クララと申します。この度は、村を見学させて頂き、アラクネ族を代表して感謝いたします」
クララは丁寧に挨拶をして、頭を下げる。
後ろに居たアラクネたちも、同じように頭をさげた。
しかし、身長二メートルを超しているアラクネたちが頭を下げたことで、覗き込まれるような感じになるので、威圧感が増す。
ゾリアスの後ろにいる村人たちも、魔物に慣れているとはいえ、少し緊張しているようだ。
クララの流暢な話し方に驚いたゾリアスは、俺を見る。
「言葉なら通じるぞ」
一言だけ話すと、ゾリアスは頷いた。
しかし、蓬莱の樹海から出たことの無いアラクネたちが、人族と同じ言語を話すのも奇妙だと感じる。
コボルトも人族の言葉を話す事が出来るが、先程のゾリアスのように片言だ。
この世界の不思議なところだ。
「そうですね、家の中で村の説明をと思っていましたが、この場でも宜しいでしょうか?」
「はい、構いません。お手数ですが御願い致します」
クララは好意的に笑う。
ゾリアスは、村の大きさ等をあらかじめ用意していた地図を見て説明する。
昨夜、急いで作ってくれたのだろう。
そして、この村に住む村人たちの説明をする。
ドラゴン族は住人では無いが、必ず何匹かは村にいること。
ラミア族も同じで何人かが数日、村に滞在したりしているなどを説明した。
そして、この村では朝と夕方の二回は必ず、神祠に手を合わせて感謝をすることを話す。
その行いは強制でなく、自主的なものだとも付け加えた。
話を聞いていた俺は、とても嬉しい気持ちになる。
「詳しくは村を回りながら致します。質問があれば、都度言って下さい」
「ありがとうございます」
ゾリアスを先頭にして、ゴンド村を回る。
案内をしようとすると、アルがクララの背? に乗る。
ネロも同じように、後ろにいたアラクネの背? に乗った。
「何しているんだ?」
俺は考えることなく、言葉を口にする。
「こやつらの背中は柔らかくて気持ちが良いのじゃ。グランニールたちドラゴンのように固くは無いので楽じゃぞ!」
「そうなの~」
俺は言葉を失う。
「クララたちは、大丈夫なのか?」
「えぇ、全然問題ありませんよ」
族長としての言葉を選びながら、俺に返答する。
「すげ~!」
「いいな~」
アルとネロの姿を見ていた子供達から声が漏れる。
「皆さんも乗りますか?」
クララが子供たちに笑顔で語り掛ける。
「……いいの?」
「はい、どうぞ。ただし、乗るのが難しいので、アルシオーネ様にネロ様、手伝っていただけますか?」
「仕方ないの」
「分かったの~」
アルとネロは一旦、アラクネの背? から下りて、子供たちを順番に乗せていく。
乗った子供は、ドラゴンと違った乗り心地に感動している。
なかには座ったままで飛び跳ねようとしている子供もいた。
「あれ、痛くないのか?」
「はい。全然、大丈夫ですよ」
「因みに、あそこは背中か?」
「……いいえ、あそこは、その、お尻になります」
「あっ!」
確かに言われてみれば、足の付け根になるので尻だ。
背中は上半身になるので、人型に近い個所になる。
女性のクララに失礼な質問をした気がした。
「悪かった、無知とないえ、失礼な質問をした……」
「いいえ、構いません」
丁寧に答えるクララ。
「しかし、その喋り方は、どうにかならないのか?」
「なんのことですか? いつも通りですよ」
「……俺の時のように、無理をしているのか?」
「……」
どうやら、図星のようだ。
クララとしても、アラクネ族の族長としての立場があるので仕方が無いとは思うのだが……。
「クララよ、終わったぞ」
アルが子供たち全員を乗せたことを教えてくれる。
「では、行きますか」
「はいう、御願い致します」
ゾリアスの言葉で、ゴンド村を見て回る。
ドワーフ族による建築中の家や、コボルト族による畑。
そして、エルフたちなどだが、クララたちアラクネにとっては、すべてが新鮮に感じているのか、興奮していた。
なによりも、尻に乗せている子供と会話しているのも楽しそうだ。
もしかして、アルとネロはアラクネたちとの距離を縮める為に、敢えて尻に乗ったのだろうか?
いいや、あの二人がそこまで考えていることはないだろうが、結果としては良い方向になっている。
小さな村なので、一時間もかからずに一周出来てしまった。
「どうだった?」
俺はクララに感想を聞く。
「そうですね。本当に私たちは、世界を知らなかったのだと痛感しました。他の種族が進化を遂げているのを見て、アラクネ族としてどうするかは、今後の課題になりますね」
「なるほどね」
「それよりも人族は何故、あのような古い服などを着ているのですか? タクトのような服でなく、あのような服が流行りなのですか?」
「いやいや、服は高級品なので、おいそれと買えるものでは無い。だからこそ、破れても縫ったりして、出来る限り長く着れるようにしている」
「そうなのですか……では、見学のお礼に私たちが服を作って差し上げましょう」
「いいのか?」
「それくらい、造作も無いことですわ」
「ありがとうな。ゾリアスに、その事を伝えてくれ」
「はい」
クララの優しさに心が温まった。
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