第751話 責任転嫁!

「なっ、なんとか、ならないかな!」


 エリーヌが必死の形相で俺に問いかける。

 とりあえず、状況を確認する為に、落ち着かせる。


「なんでレベル一なんだ?」

「転生の時に、初期値を変更するのを忘れてた……」

「はぁ?」


 俺は驚きの声を上げる。

 忘れたでは済まされない。もし、これが自分の身だと思ったら、寒気がする。

 そして、ジャイアントモモンガに同情する。


「本当は他の魔物と遭遇しても、戦闘を回避出来るレベル五十くらいにするつもりだったんだよ」

「レベル一だと、明日には死んでいるかも知れないな……」

「……」

「まぁ、眷属その三を用意した方がいいだろう……」

「駄目だよ!」


 エリーヌは俺の言葉を大声で遮った。


「こんな短期間に眷属を何匹も送り込んだら、私の責任問題になっちゃうじゃない」

「いやいや、エリーヌの落ち度でこうなったから、そのままだろう」

「私の昇進がーーーーー!」


 悲鳴とも叫びとも取れない声だ。


「まぁ、モクレン様に正直に話すしかないだろう。俺だってジャイアントモモンガが死ぬのは、可哀そうだしな」

「それなら、タクトがあの子を強くなるまで鍛えてよ」

「はぁ? なんで俺がそこまで面倒見なくちゃいけないんだよ!」

「だって、タクトは私の使徒でしょ! 神である私の代わりなんだから、私のミスはタクトのミスと同じじゃない!」


 エリーヌの支離滅裂な発言に、怒りを通り越して呆れる。


「あのな~、もしモクレン様がミスをして、そのミスは部下であるエリーヌのせいだと、言われたらどうする?」

「そんなのパワハラじゃない。部下に自分のミスを押し付けるなんて最低の行為だよ。有り得ないでしょう!」

「……その最低な事を今、お前は俺にしているんだぞ」

「あっ! ……で、でも、それは、それじゃないかな~」


 言葉をはぐらかして、煙にまこうとしている。


「どちらにしろ、あのままだと確実に死ぬから、本気でどうするか考えろよ」

「だから、タクトが……」


 俺が睨むと、エリーヌはそれ以上、言葉を発しなかった。


「モクレン様に相談するしかないだろう。眷属が死んでから報告すると、もっと立場が悪くなるんじゃないのか?」

「それはそうだけど……」

「とりあえず俺は一度戻って、話を聞くから、エリーヌもモクレン様に報告する用意をしておいたらどうだ? 一人で話し辛ければ、俺も同席するぞ」

「うん、分かった」


 意気消沈しているエリーヌを見ながら【神の導き(改)】を切る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 戻るとクロの説明を、必死で聞くジャイアントモモンガがいた。


「どうでしたか?」

「あぁ、少し問題あったが、そこのジャイアントモモンガが、エリーヌの眷属という事は間違いなかった」

「そうですか。彼も詳しい事は何も聞かされていないようですね」

「みたいだな。エリーヌが怠けた結果だ。ジャイアントモモンガも被害者だな。で、クロが教えているのか?」

「はい。眷属としてはクロさんの方が長いですから」

「確かにそうだな」

「それと、御主人様への誤解も解いておきました。今後、無礼な態度は取らないと思います」


 シロは微笑むが、俺の居ない間にクロと二人で、どのようにジャイアントモモンガに話をしたのか気になる。


「主、宜しいでしょうか?」

「ん、どうした?」

「この者が、主に謝罪をしたいと申しております」


 ジャイアントモモンガは、緊張しているのか恐怖からなのか分からないが、全身を小刻みに振るわせていた。


「タクト様。先程は知らぬとはいえ、無礼な態度を取ってしまい、誠に申し訳御座いませんでした。どうか、どうかお許し頂きますよう御願い致します」


 ジャイアントモモンガは、口調も変わっていた。

 隣にいるシロやクロは満足そうな表情だ。

 もしかして、眷属の話でなく俺の話や、謝罪の事ばかりしていたのか?

 何も言葉を返さない俺をジャイアントモモンガは、不安そうに見つめている。


「あぁ、気にするな。全てはエリーヌのせいだ。お前も今朝、この世界に来たばかりで、不安や戸惑いもあったんだろうしな」

「なんと、心が広い! まさに、シロ様やクロ様の言われていた通りの御方です!」


 シロもクロも頷いている。

 しかし、ジャイアントモモンガや、眷属その二だと呼び辛い。

 かといって、呼び名を付けても良いものか……。

 お互いに信頼関係は築けていないだろうから、ネーム付きになる事は無いと思うが……。


「呼びにくいから、なんて呼んだらいいんだ?」

「好きなように呼んでもらえれば結構です」


 俺はシロとクロに相談して、呼び名を付けても問題無いかを確認する。

 二人とも、問題無いと答える。

 最初に頭に浮かんだのは『モモ』だ。しかし、ゴンド村に同じ名がいるので面倒臭い。


「因みに、お前はオスとメスのどっちだ?」

「私はメスです。この袋がメスである証拠です」

「……分かった」


 モモンガは袋があればメスなのか? 前世の俺の記憶では知らない情報だし、異世界だから同じだとも限らない。

 危うく、『モモタロウ』と安易な名前をつけるところだった……。


「モモンガ……モモ……桃色……! よし、お前は『ピンクー』な!」


 語尾を上げるように、ジャイアントモモンガを呼ぶ。

 ピンクーと名付けた瞬間にジャイアントモモンガの体が一瞬、光る。

 以前にも見た光景だ。

 シロとクロも驚いている。当然、俺もだが、名前を付けられたピンクーも驚いている。

 この現象が、主従関係の契約だからだと知っているからだ。


「え、あの……」


 戸惑うピンクー。

 当たり前だ。自分の体が小さくなってしまうし、尾の根元にリングまで付いている。


 俺はシロとクロを見る。


「仲間として受け入れるのには問題ありません」

「我らに比べれば劣りますが、主の為に尽くすのであれば問題無いでしょう」


 シロとクロの二人は、俺の判断だと思ったのか、気持ちを入れ替えてピンクーを受け入れる気のようだ。

 もしかして、問題無いと言ったのはそういう事だったか……?

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