第750話 優秀な眷属?

「どう、可愛いでしょう!」


 エリーヌは自慢気に、ジャイアントモモンガのことを話す。


「他の世界から知能も高くて、空も飛べるし戦闘力も高く、おなかに【アイテムボックス】に似た機能を持つ最高の眷属候補を発見したから、交渉して眷属になって貰ったんだ」


 ……知能が高い? 戦闘力が高い?

 そもそも、モモンガって雄雌関係なく、腹に袋があるのか?

 まぁ、それは異世界の生き物だからか?


「それより眷属のすべきことを教えたのか?」

「勿論だよ」

「なんて、言ったんだ?」

「簡単だよ。詳しい事は私の眷属一と、ともに行動している前神の眷属に聞いてって」

「……やっぱりか」


 俺は頭を掻きながら、予感が的中した事を残念がった。


「それで、俺の事はなんて説明したんだ?」

「う~んとね、私の手足となって布教活動してくれるって言ったよ」

「……本当か?」

「本当だよ。私が優秀だからその分、使徒のタクトは少し出来が悪いし、面倒臭い人物なので見つからないようにって……」

「おいっ!」

「ごっ、ごめん。私だって、少しくらい見栄張りたいじゃない」


 ジャイアントモモンガの、あの態度がこれで納得できた。

 同時にエリーヌに呆れて、これ以上の追及をする気力も失せる。


「そもそも、タクトが私の眷属を従者にしたのが原因なんだからね」

「いやいや、本当の原因はエリーヌが俺に【呪詛】を掛けたことだろうが!」

「そうだっけ……」

「ったく、俺に責任転換して」

「いや、そういうつもりじゃなくて」

「じゃぁ、どういうつもりなんだよ」


 完全に売り言葉に買い言葉だ。


「とりあえず、シロとクロが眷属についてをジャイアントモモンガに教えているから」

「そう、ありがとうね」

「きちんと仕事しろよ」

「失礼ね! 私だってきちんと仕事しているわよ」

「あ~、そう。それなら、今の事をモクレン様に報告しても問題無いんだな」

「えっ! そっ、それは勘弁してほしいかな~」


 エリーヌは目線を逸らしながら、小声で話す。


「なんで、他の世界から魔物? いや、獣を連れて来たんだ?」

「だって、エクシズには眷属になれそうな子が居ないんだよ!」

「誰でもいいって訳では無いから、候補が絞られるってことか?」

「そういうこと。一応、私に従順で能力も高く無いと駄目だしね」

「あのジャイアントモモンガ、簡単に捕まえられたぞ」

「嘘っ! タクトでも簡単には見つからない筈なんだけど……」

「……多分、本人は隠れているつもりだったみたいだが、完全に見えていたぞ」

「本当に?」

「俺が嘘を付く必要が無いだろう」

「う~ん、おかしいな。あの種族では歴代最高の子の筈だし、死んだときの能力もかなり高いのに……」


 エリーヌが考えている間に先程、【鑑定眼】で見た内容を思い出す。

 警戒せずに【鑑定眼】を使った事で、ジャイアントモモンガのユニークスキル【滑空】、【収納袋】も、内容を理解出来たので習得した。

 そして、職業欄に『眷属』という記されて、【言語解読】に【隠密】、【変化】があった。

 よく考えてみれば、シロとクロを鑑定した事は無い。

 まさか、『眷属』が職業だとは……。

 それであれば、俺だって『使徒』が職業のはずだ。

 といっても、一般に認知されていないので職業として成り立たない。

 シロとクロも、眷属でなくなったので以前、俺の問いに「無職」と答えたのだろう。

 そもそも、聖獣や魔物を鑑定しても、ここまでの情報を見ることが出来なのかも知れない。

 いや、それよりも気になるのが、レベルが一だったことだ。

 HPやMPもかなり少ない。あのままだと、すぐに死んでしまう気がするのだが……。


「ところで、いつエクシズに転移させたんだ?」

「今朝だよ」

「……今朝」


 俺は頭を抱えた。今朝、転移したから、辛うじて無事だったのだろう。


「それで転移先は、俺たちの近くにしたんだよな」

「うん、そうだよ。だから合流できたんだよね」

「合流……ね」


 俺たちと合流させるつもりであれば、俺に見つかることなくシロとクロに眷属の教えを乞うという事は、明らかに無理がある。

 つまり、エリーヌは深く考えずに、ジャイアントモモンガを転移させたのだろう。


「向こうは必死だったようだがな。それよりもレベル一じゃ、可哀そうすぎないか?」

「えっ! 何のこと?」

「ジャイアントモモンガのレベルが一だったぞ」

「またまた~、私を驚かそうと思って。そんな手には、引っかからないよ」

「……嘘だと思うんだったら今、確認すれば分かるだろう」

「はいはい、タクトの悪ふざけに乗ってあげるわよ」


 面倒臭そうにエリーヌは、ジャイアントモモンガのステータスを確認する。

 動かしていた手がピタッ! と、止まり、暫く沈黙の時間が続く。


「……ど、どうしよう」


 振り返ったエリーヌは、青ざめながら今にも泣きそうな顔で俺を見ていた。

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