第742話 叱咤!

 結局、レグナムには「治療を受ける気は無い」と申し訳なさそうに言われた。

 ローレーンにも、病気の事を全てを話したそうだ。

 来年の武闘会には一緒には行けないと、レグナムはローレーンに謝ったそうだ。

 納得しないローレーンと、何度も話し合いを重ねた。

 最後は何を言っても、レグナムの意志が変わらないことをローレーンは理解した。

 ローレーンは、レグナムの病床から離れて、ゾリアスとの稽古を続けていた。

 何故なら、レグナムが自分の横にいるローレンを叱咤したからだ。


「私の横にいても強くなれません。稽古をつけてもらいなさい」

「しかし!」

「貴女はいつも、稽古をつけてくれ! と言っていたではありませんか」

「それは、いつも師匠が怠けていたからでしょう!」

「貴女には、戦う上で大事な事は全て教えています。貴女に足りないのは自信です。そして、奢ることのない努力ですよ」

「……はい」

「アルシオーネ様やネロ様、そしてタクトと、貴女が到底敵わない存在がいることを忘れないで下さい」

「分かりました」

「慢心することなく、常に強くなることを考えて下さい」

「はい……」

「仮に貴女が、いい人を見つけて家庭に入っても、私は叱りませんから安心してくださいね」

「師匠! こんな時までふざけないで下さい!」

「ふざけてなどいませんよ。今後、貴女がどのような人生を歩もうが、決して私に負い目などを感じてはいけません。私は貴女の選択が全て正しいと思っていることを忘れないで下さい」

「師匠……」

「貴女は、私の唯一自慢の弟子なのですからね」

「……ありがとうございます」


 デニーロとの戦闘から五日後そして、この会話をした三日後に兄弟子デニーロの後を追うようにレグナムは息を引き取った。

 

 レグナムの遺体は、師匠プラウディアと兄弟子デニーロに並ぶように埋葬された。

 あの世では、昔のように仲良く過ごしているのだろう。


「いままで、ありがとうございました」


 ローレーンはゴンド村の村人たちや、俺に礼を言う。


「これから、どうするんだ?」

「師匠と同じように旅をしようと思っています。冒険者ランクも上げることが出来るので一石二鳥です」

「ローレーンなら、すぐに冒険者ランクは上がるだろうな」

「だといいんですけどね」


 ローレーンは照れながら答える。


「なにかあれば、この村に戻ってこい。いつでも歓迎するからな」

「ありがとうございます」


 ゾリアスがローレーンに話し掛けた。


「最後に妾が稽古をつけてやる」

「はいっ! お願いします」


 最後にアルがローレーンに稽古をつける。

 何故か、俺も同行させられる。

 アルの稽古は組手でなく、仮想の敵を相手に戦わせていた。

 達人になると、戦っている相手が見えるというが、俺には見えなかった。


「タクトよ。お主にも見えるか?」

「何がだ?」

「魔力の流れじゃ。【魔眼】で見れば、魔力の流れが見える筈じゃ。魔力が綺麗に手や足に流れていれば、それだけ威力が増す。反対に、途中で流れが変わったりすると、威力が落ちる」


 俺はアルに言われた通り【魔眼】が進化した【神眼】でローレーンの動きを見る。

 よく見ると、確かに血管のようなものが見えてきた。

 右手や右足から繰り出される攻撃に関しては綺麗に流れているが、左手や左足だと流れの速さが一定でない。

 これが魔力の流れだと分かった。

 【神眼】に、こんな使い方があったのかと驚く。


 アルはローレーンが、攻撃を繰り出す瞬間の動きを直していた。

 タイミングを少しずらすだの、膝を突き出すようにした方が良いだのとアドバイスをしていた。

 そして、体の動きなどで戦っている相手がレグナムだと言っている事に驚いた。

 それはローレーンも同じだった。

 レグナムの戦いを見たのは、デニーロとの一戦だけのはずだ。

 ローレーンはアルの指導で動きが良くなっていた。

 自分自身では、まだ自覚が無いだろう。

 しかし、アルがレグナムの動きを真似るように攻撃をする。

 アルとレグナムとでは体格が全く違う。しかし、それを感じさせない動きをアルはしていた。

 数分だったが、俺は良いものを見れたと、少し感動していた。

 このエクシズに来て、俺自身が指導などはしていなかったので、とても新鮮感じたからだ。

 もっとも、何も教えていない間に弟子が増えているのだが……。


「ありがとうございました」


 ローレーンは、アルに礼を言う。


「うむ、強くなるのじゃぞ!」


 満足そうに笑うアル。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「色々とお世話になりました」


 ローレーンは、ゴンド村の人たちに頭を下げて、礼を言う。


「近くに来たら、いつでも寄ってくれ」

「ありがとうございます」


 ゾリアスの言葉にローレーンは再度、頭を下げて礼の言葉を口にした。


「じゃあ、俺たちも行くか?」

「はい、御主人様」

「承知致しました」


 シロとクロが返事をする。

 俺たちはローレーンを、レグナムたちが眠る場所に送ることになっていた。

 ローレーンは師匠たちが眠る場所から、再出発をしたい気持ちがあるのだろう。

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