第741話 届かぬ思い!

 ローレーンは、何かを吹っ切るかのように、ゾリアスとの稽古を続けていた。

 レグナムは、デニーロとの戦いで調子を崩したようで、寝たままだった。


「調子はどうだ?」


 俺はレグナムの所を訪れて、声を掛けた。


「良くは無いですね。しかし、寝たままなのは楽ですね」

「ふっ、レグナムらしいな」

「そうですかね?」


 レグナムの強がりにしか聞こえなかった。

 【神眼】で見ると、寿命ゲージがかなり減っていた。

 デニーロとの戦いの為だろう。


「ローレーンの為にも治療を受ける気は無いか?」

「お気持ちはありがたいですが……師匠や兄弟子同様に、私も頑固ですから」


 デニーロを兄弟子と呼ぶということは、完全に自分の中で納得する答えが出たのだろうと、俺は思った。


「自分の我を通すのもいいが、残されたローレーンの事も少しは考えたらどうだ?」

「……ローレーンも強くなっています。ここには私以外にも稽古をつけてくれる人たちが居ますし、大丈夫でしょう」

「何を言っているんだ。レグナムも自分の師匠以外の人に稽古をつけてもらっても

、師匠の事を思い出すだろう」

「それは……」

「中途半端に弟子を放り出すなら、最初からローレーンを弟子にしなかった方が、ローレーンの為だったんじゃないのか?」

「……」

「師匠を失う寂しさや、悲しさは誰よりもレグナム、お前が知っているだろう?」


 俺は敢えて、厳しい口調でレグナムに話す。

 レグナムの意志を尊重したい気持ちもあるが、それ以上にローレーンがレグナムの事を心配して涙を流していた顔が頭を過ぎる。

 心情的にはローレーンに傾いていた。


「厳しい事を言ったが、治療を受ける気持ちになったら声を掛けてくれ」

「はい……」


 レグナムは、いつものふざけた感じでなく、重い口調で答えた。



 俺はローレーンとゾリアスの所に行き、稽古の様子を見ていた。


「どうじゃった?」

「駄目そうだな……」

「そうか。やはり、意思は固いのじゃな」


 アルとレグナムの事について簡単に会話をした。


「あやつも、気持ちを紛らわせるように一心不乱に戦っているようじゃな」

「ローレーンの思いが、レグナムに届けばいいんだがな……」

「どうじゃろうなぁ……」


 そう話すアルは、どこか寂しげだった。

 今迄、殺してくれるように頼まれた事が、何度もあったのだろうか?

 俺が知っているのは、先代グランニールとの約束だけだ。

 もしかしたら、デニーロの気持ちも分かっていたから、何も話さないデニーロの気持ちを代弁するかのように、レグナムに話したのかも知れない。


「転移者や転生者が実験体として、この世界に来ることはあるのか?」

「分からぬな。妾も実験体と言われれば、そうかも知れん。恩恵を幾つか与える事も実験になるかも知れんしの」

「確かにそうだが……」

「そもそも、エクシズに他の世界の者を召喚する事自体が、実験的な行為だと思わぬか?」

「それは信仰を広める為に仕方が無いんじゃないのか?」

「そもそも、信仰を広める理由は、神の力を維持する為じゃろう」

「まぁ、そうだな」

「信仰する力が増したところで、神が直接関与出来るわけでもない。結局は神の都合だと、妾は思っておる」


 アルの言いたいことは分かった。

 確かに、俺がエリーヌの名を広めたところで、エクシズの崩壊が止められるとは思えない。

 そもそも、世界の崩壊の一端を担っていたのは、その神自身だからだ。

 アルの言う通り、神の都合で世界が変わっていることも事実だ。

 エリーヌどうこうというよりも、ガルプの所業をここまで放置していたことにも疑問を抱いた。

 モクレンやアダムなどを騙していたとしても、おかしいと感じたからだ。

 転移者や転生者が、実験体。

 このアルの言葉が、俺の心の引っ掛かっていた……。


「まぁ、深く考えても仕方が無い。今まで通り、俺の思うように生きていくだけだ」

「お主らしいの」


 アルは笑う。


「ところで、ババ抜き大会の方はどうだ?」

「ふふふっ、妾は強くなったのじゃ! 絶対に優勝をしてみせるのじゃ」


 自慢気にアルは話すので、俺も笑い返した。

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