第737話 探し人発見!

 レグナムとローレーンの二人はゴンド村に暫く滞在する。

 滞在の理由は、ローレーンの特訓がメインだが、レグナムは俺たちがデニーロの行方を報告するまで待ってもらっている。


 シロとクロに頼んでいるデニーロの事も、進捗は思わしくない。

 俺もゴンド村を離れて、デニーロの足取りを追ってみる。

 こんな時に【全知全能】があればと、何回も頭を過ぎる。


 俺が一つの街を聞き込みしている間に、シロとクロは三つほどの街を調べていた。

 やはり、顔に傷がある虎人族という条件では難しい。


 デニーロの足取りを探し始めてから、四日ほど経ったところでクロから連絡が入る。

 デニーロらしき虎人族を発見したそうだ。

 場所はネイトス領地になる。

 街や村で暮らしている訳でなく、村のはずれにある家で暮らしているそうだ。

 他人共、殆ど接触が無いそうだ。

 家の付近を良く通る、商人からの情報になる。

 クロも確認したが、特徴は間違いないそうだ。


「分かった。俺とシロもそっちに向かう」


 シロと合流してから、クロの待つネイトス領に向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あそこか?」

「はい。家の外に姿を現す事は、殆どありません」

「クロはどれくらい待っていた?」

「私は影に潜って確認しました。しかし、その後に気配を感づかれたようでした」

「なるほど。それほどの手練れということか……」


 レグナムの兄弟子というだけあって、それなりの実力者なのは間違いないようだ。

 デニーロの監視を続けるが一向に、姿を現さない。

 そもそも、俺が【隠密】を使えば近くで確認することが可能なので、【隠密】を使い確認することにする。

 まず、【隠密】を使って【飛行】でデニーロに家の上空を飛んだ後に、地上に降りて、唯一ある窓から中の様子を確認する。

 その後、家の中に【転移】をした。

 俺がジークで出会った、ゾリアスたちからはデニと呼ばれていた虎人族に間違いない。

 この虎人族がレグナムの探すデニーロと同一人物かの確証がないまま、写真を撮った。


 俺たちは、そのまま【転移】をしてゴンド村へと戻る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「間違いありません。デニーロです」


 俺が見せた写真を見て、レグナムの表情が変わる。

 デニーロの写真を持つ手は、怒りのせいか震えていた。


「……今すぐ、デニーロの所まで連れて行って貰えますか?」


 レグナムが俺に頼んできた。


「分かった。しかし、ローレーンはどうするんだ?」

「ローレーンは連れて行きません。これは私の問題です」

「それで、ローレーンが納得するのか?」

「……」


 レグナムは黙り込む。


「いきなり師匠が居なくなれば、弟子であるローレーンは不安になるだろう。居なくなるのであれば、きちんと説明をしておいた方が俺はいいと思うがな」

「分かりました。ローレーンが戻り次第、話してみます」


 レグナムがデニーロと対面すれば、衝突は避けられない。

 下手すれば、どちらかが命を落とす事だって考えられる。

 レグナムの寿命も短いので、自分の事を考えずに戦いに挑むことになると、俺は思っていた。

 何も知らないローレーンが、突然いなくなったレグナムに対して「捨てられた」と思うかも知れない。

 その事を抱えながら、この後の人生を過ごすのはローレーンを過去に縛ってしまう事になる。

 それは師匠の死から前に進めていないと言ったレグナムと同じだ。

 きちんと、レグナムから説明を受けた方が、今後のローレーンにとっても良い事だろう。




 ローレーンが特訓を終えて戻って来た。

 ゾリアスとアルにネロも一緒だった。

 ローレーンは、かなり疲れている様子だった。


「疲れました……」


 部屋に入るなり、椅子に座るローレーン。


「ローレーン、話があります……」

「何ですか、師匠?」


 いつもの調子で振り向いたローレーンだったが、レグナムの表情から、ただ事では無いと察知したようだ。


「私は今から、私の師匠を殺した相手の所に行きます。ローレーン。貴女とは、ここでお別れです」

「なっ、なにを言っているのですか! あぁ、分かりました! また、いつもの冗談ですね」

「冗談ではありません。真剣な話です」

「嫌です! 私は師匠に着いて行きます」

「……駄目です」

「嫌です!」


 ローレーンは頑なに拒否をする。

 レグナムもローレーンもお互いに、自分の意見を曲げるつもりは無いようだ。

 レグナムは、自分が負けた時の事を考えているのだと俺は思った。

 そして、自分同様に復讐に捕らわれる事を心配しているのだろう。


「分かりました。しかし、約束をしてください」

「何をですか?」

「もし、私が倒されても仇を取ろうと考えないことです」

「それは……」


 レグナムはローレーンに対して、強い口調で話す。

 それだけレグナムの思いが籠った言葉なのだろう。

 それを知っているローレーンも、曖昧な言葉を返す事が出来ないのだろう。


「……分かりました。そのかわり、師匠も死なないと約束してください!」


 ローレーンは考えた末、レグナムにも約束を突き付けた。

 死んでもいいと思っていたレグナムは、答えられないでいた。


「お前の負けだな」


 俺はレグナムに声を掛ける。


「このままだと埒が明かない。レグナムも約束を守るしかないだろう」

「……分かりました」


 レグナムは答える。

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