第725話 武闘会決勝!

 決勝戦は、スタリオン対グリズリーだ。

 まさに力と力のぶつかり合いだ。

 スタリオンとグリズリーは一歩も引かない。

 スタリオンも皇子として、引く気がないのでグリズリーの攻撃を受け切っている。

 グリズリーもスタリオンの気持ちが分かるのか、殴り合いに応じていた。

 戦うスタリオンとグリズリーも楽しそうだ。

 拳で語りあるという表現が、ピッタリくる。

 この戦いに、観客達も興奮している。


 体格差ではグリズリーの方が良い。

 上から拳を振り下ろせるグリズリーの方が有利だ。

 しかし、スタリオンは気にせずに殴り続ける。

 会場には血飛沫が飛び散り、地面が赤く染まっていく。

 観客達も歓声を上げる事無く、黙って二人の姿を見ている。

 それはトレディアやルーカス達も同じだった。


 最初に会った時のスタリオンと同じ人物だと、俺には思えなかった。

 それ程、成長しているのがはっきりと分かる。

 

 スタリオンが殴ろうとした拳を止めた。

 そして、グリズリーに背を向けた。

 どちらかが倒れるまで戦う為、武闘会には審判は居ない。

 

 観客の誰もが、グリズリーが気絶しているのが分かっている。

 スタリオンも自分の勝利を確信して、会場を下りた。


「勝者、グリズリー」


 状況を把握出来ていない進行者は、勝利者を高らかに宣言した。

 この言葉に俺や観客達は驚くが、一番驚いたのはスタリオンだろう。

 当然、観客席からブーイングが出る。

 何が起こったか分かっていない進行者。

 スタリオンは怒っている様子もなく、会場の端で座り込んでいた。


 この騒ぎで、グリズリーの意識が戻る。

 目の前に戦っていたスタリオンの姿は無い。

 しかも、観客達が文句を叫んでいた。

 グリズリーは、スタリオンの所に行って、状況を確認していた。

 スタリオンから話を聞いたグリズリーは、驚いていた。

 当たり前だ。意識を失った自分が、気が付くと勝者になっていたからだ。

 勝者であり皇子でもあるスタリオンに謝罪しているのが、遠くから見ている俺でも良く分かる。


「静粛に!」


 フェンが叫んだ。


「今の勝負、グリズリーが意識を失ったのは誰の目にも明らかだ」


 フェンは今の宣言は誤りだとして、スタリオンの勝利だと訂正する。

 観客達は叫んでいた。

 会場では、グリズリーはスタリオンを肩車して会場を一蹴していた。

 このグリズリーの粋な計らいで、観客達は盛り上がっていた。


「タクト様。いけますか?」


 フェンが俺に問い掛ける。


「問題無いが、皇子は回復していないだろう」

「それも含めてです」

「分かった。一旦、控室に戻るのか?」

「はい、休憩をしてから親善試合になります」


 俺はシロとクロに後を任せて、フェンと共に参加者の控室に向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺達が移動している間に、スタリオンも控室に戻っていたようだ。

 控室でスタリオンとグリズリーの二人しか居なかった。

 戦いを終えて友情でも芽生えたのか、親しげに話をしていた。


「御苦労だったな」


 フェンが声を掛けると、二人は立ち上がる。


「座ったままで良い」


 二人に座るように促す。


「良い試合だった」

「有難う御座います」


 二人は座ったまま礼を言う。


「タクト様。御願い出来ますか?」

「二人共でいいんだな?」

「はい、御願いします」


 俺は二人の二人の所まで行き、【神の癒し】を施す。

 スタリオンとグリズリーの傷は治り、体力を回復させる。


「これで万全の状態だろう」


 スタリオンとグリズリーは、自分達の体の変化に驚いた。


「有難う御座います」


 フェンは、俺に礼を言うとスタリオンの方を向く。


「スタリオン、戦えるか?」

「はい、勿論です」


 立ち上がり、回復して問題無い事をフェンにアピールしていた。


「タクト様。御願い出来ますか?」

「あぁ、分かった。それと、皇子と呼んだ方が良いのか?」


 俺はスタリオンに尋ねる。


「いや、同じ闘技者だ。スタリオンと呼んでくれていい」

「分かった」


 先にスタリオンが登場する。

 その後に、俺が登場するという事だった。


「グリズリーも、闘技場の傍で観戦するか?」


 俺の言葉にグリズリーは、フェンの顔を見る。


「タクト様が言うのであれば、良いでしょう」


 フェンも承諾する。


「スタリオン。もう一度言いますがタクト様は、お前が思っている以上に強い。最初から全力で向かっていきなさい」

「フェン様。分かっております」


 フェンに答えるスタリオンの表情は、油断している表情では無かった。

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