第706話 思わぬ効果!

 王都の魔人襲撃から、二週間が経過した。

 他の領地に出現した魔人達も全て討伐した。

 被害は思っていた以上に大きく、国民の魔族への憎悪は増していた。


 そんな中、防衛都市ジークに現れた二人の少女。

 片方は龍人族、もう片方は血液を武器にしていた事から吸血鬼族だと、目撃者達の証言から確定される。

 しかも、その少女二人が魔人を討伐して、街の人を助けたとしてグランド通信社が大々的に新聞記事にした。

 そう、同じ魔人なのに、少女達は都市を救った。

 この記事を読んだ国民に衝撃が走る。

 グランド通信社に抗議をする者達も現れていた。

 魔人に親族を殺された者達には、納得出来る記事ではなかったのだ。

 しかし、続報としてその後、三日連続で記事を載せる。


 龍族と人目で分かる尾の後姿の少女が瓦礫を支えている。

 その瓦礫の下には倒れている家族が居る写真。

 掌から血液を出して倒壊しそうな建物を、空中から支えている少女の写真。

 しかも、助けて貰った人々に対して、「大丈夫か?」「早く、安全な所へ逃げろ」と声まで掛けていた。

 記事を載せた三日目の、グランド通信社の新聞売り上げは通常の三倍から四倍も伸びたそうだ。


 俺もグランド通信社の新聞記事を読んだが、はっきりと特定出来るような写真ではないが、アルとネロを知っている者達にすれば、この二人だとすぐに分かる。

 しかも、撮影者にフランの名が載っていた。

 俺はフランの名前を見つけた時、とても嬉しかった。

 フランは元々、こういう写真を撮りたいと言って、故郷であるゴンド村から防衛都市ジークに来たからだ。

 出来れば直接、礼を言ってあげたいが今の俺には出来ない。


 新聞記事を載せた三日目の夜に事件が起きる。

 反魔族を訴える者達が、グランド通信社の支社を襲ったのだ。

 それは、王都からも遠く、冒険者も少ない領地だった為、魔人の討伐に時間を要した領地だ。

 世間の評価は二つに分かれる。

 魔族とも分かり合えると思う者と、魔族は悪で滅ぼす存在だとする者。

 今迄、言葉にする事の無かった小さな感情が、今回の事件で大きくなり問題視される。

 他の新聞社も、この事件を連日記事にする。

 親魔族派と、反魔族派と言う言葉が世間的に認知されたのも、この瞬間だった。

 と言っても、多くの者達は中立派もしくは、無関心と熱心に活動する者も少ない。

 グランド通信社前での抗議活動や、広場での演説等で反魔族派から逮捕者は続出した。


 グランド通信社と四葉商会は、今回の事件で被害にあった人々の為にと、復興資金を王都に寄付する事を発表して、復興資金を渡すグランド通信社代表のヘレフォードと四葉商会代表のマリー。

 そして、それを受取る第一王子であるアスランの写真。

 この記事で、反魔族派は目立った行動を控えるようになる。

 国民の殆どが、グランド通信社と四葉商会に好意的な印象を持ったからだ。


 多分、俺が居たとしても同じ事をしただろう。

 マリーが俺と同じ思いで、四葉商会を立派にしてくれていると思うと、とても嬉しい気持ちだった。

 そして、俺が四葉商会に居なくても問題無いと確信する。


 思いも寄らない事もあった。

 王都で王国騎士団の一人が、大怪我を負った子供を助ける。

 彼は子供に「お守りだ」と言って、持っていたエリーヌの木像をあげる。

 子供は、エリーヌの木像を握りしめて一命を取り止めた。

 この事が、美談として新聞記事になる。

 王国騎士団の殆どが、お守りとして持っている『慈愛の神:エリーヌ様』の木像。

 この記事で、他の領地に居る騎士達や、心の拠り所を探していた人々達に受け入れられて、エリーヌの木像が生産が追いつかない位に売れているそうだ。

 手に入らないと思うと、付加価値がつき高額で取引する者も現れる。

 それに、偽物も多数販売されているようだ。

 需要と供給のバランスが崩れてしまった為、起きた現象だ。


 そもそも、エリーヌの木像はゴンド村に住むクラツクが一人で製作しているので、数が限られている。

 しかも、俺との「自分が納得した物しか売り物にしない」という約束を頑なに守っている。

 俺と約束をした事も覚えているかは不明だが、約束だけは守っているのだろう。


 俺の本来の目的である布教活動は、皮肉にも良い方向に進んでいる。

 これはこれで良いのだろうかと、考えてしまう。

 適当に名付けた『慈愛の神』という二つ名が、ここまでこの世界に定着する事に違和感を覚えたからだ。

 俺の中では、慈愛どころかポンコツや、腹黒のイメージしかないからだ。

 冷静に考えれば、よくよく考えれば布教活動は終わりのないゴールだ。

 しかも俺は不老不死なので、エリーヌをよりよい女神だと、この世界の人々に伝えていかなくてはならない。

 尊敬出来ない神を、布教するのは詐欺行為ではないかと自問自答する。

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