第693話 黒狐との戦闘-6!

 ステラとブラクリは、お互いに睨んだままだった。

 何故かは分からないが、二人の世界に入る事が出来なかった。


 とりあえず、ステラにブラクリを殺させない事だが、ステラが受け入れるか……。

 【全知全能】にブラクリが病死等で死んだ場合は、どうなるかを聞く。

 その場合、ブラクリ自体が黒狐人族から頭目候補者に移る事になる。

 黒狐人族が存在する限り、ブラクリは存在し続ける。

 俺は質問内容を変える。

 ブラクリの精神を破壊する方法だ。

 答えは「無い」だった。

 つまり、頭目であるブラクリが存在すると言う事は、黒狐を滅ぼす事が出来無いという事を意味する。

 そもそも、黒狐とは何なのか? 俺はその疑問に辿り着く。

 黒狐とは、ブラクリの負の力を紋章を介して体に受け入れ、通常よりも強い力を手に入れる。

 黒狐人族は、集落で育ったものの他に、希望する狐人族も受け入れているそうだ。

 その多くは犯罪者であるが、黒狐の存在を知る者は殆ど居ないので、スカウトのようなものらしい。

 黒狐の証である紋章を入れられると、黒狐の一員になる。

 もっとも、途中から黒狐人族になった者は基礎能力こそ高くなるが、戦闘訓練を受けていない為、集落で育ったものよりも弱いそうだ。

 一番驚いたのは、黒狐の創始者が『転生者』だった事だ。

 当然、その時の担当神はガルプだ。

 精神のみ引き継ぐ事で、良くも悪くも自分の名が広まると考えていたようだ。

 そういう事であれば、この不可思議な事も納得出来る。

 俺のように【不老不死(条件付)】で無くても、自我を持ちながら永遠に生きる事が出来る。

 もし、国王に自分を殺させる事が出来れば国を乗っ取る事だって出来る。

 恐ろしい能力だ。

 ブラクリの転生して来た時期が分からないが、この能力を持つ者が他にも居るのだろうか?

 野心の有無に関わらず、存在自体が脅威だ。

 【全知全能】に質問するが、質問内容が難しい。

 精神を他人に移す事が出来る、黒狐の頭目ブラクリと同じ能力を持つ者が居るか?

 この質問の答えは「この世界ではブラクリのみ」だった。


 安心した俺は、ブラクリの精神を破壊させる方法では無く、消滅する方法にと質問の内容を変えて【全知全能】に質問をする。

 封印する方法と悩んだが、消滅させる事が出来れば、その方が良い。

 【全知全能】からの答えは、「ある」だった。

 自分にブラクリを乗っ取らせて、精神攻撃に耐えられればブラクリの精神は消滅するそうだ。

 ステラに耐えられるかを【全知全能】に確認するが、無理らしい。

 俺であれば耐えられるかを聞くと、「可能」だった。

 俺のユニークスキル【蘇生】で冥界に行き、ブラクリの精神だけ置いて来る事で、ブラクリの精神を消滅させる事が出来るらしい。

 但し、この方法は俺が乗り移られてから、数分内で完了させなければならない。

 俺の精神がブラクリの精神攻撃に耐えられるまでの間らしい。

 仕方が無い……。


「おい! お前はどうやって、前頭目を殺したんだ」


 俺はブラクリに向かって叫ぶ。

 いきなり叫んだので、ステラは俺を睨む。


「関係無い事を話さないで貰えますか」

「いいや、重要な事だ」


 俺は会話を聞かれないように【念話】に切り替える。


(ステラがブラクリを殺せば、ステラの精神はブラクリに乗っ取られる)


 突然、頭の中で俺の声が聞こえるのでステラは驚く。


「……どういう事ですか?」


 俺を睨みながら冷静に話す。


(詳しくは後で話すが、絶対にブラクリを殺すな。絶対にだ)


 ステラは納得していない。


「何故、そんな事を聞く?」

「いや、お前がステラの幼馴染なら、弱い奴に殺される前頭目は余程、間抜けなんだろうと思ってな」

「成程。お前達に答える気は無い。まぁ、死んでいくお前達には答えても、無駄って事だ」


 ブラクリにしてみれば、自分の秘密を話すメリットは無い。

 俺はもう一度、ステラに「殺すな」ともう一度だけ、念押しをする。

 ステラは答えなかった。

 ブラクリを殺す気で、この場に立っているステラには到底、受け入れられないのだろう。

 万が一、殺すような事が無いようにステラとブラクリとの戦いは、より集中して見る必要がある。


「さて、お喋りも飽きたし、そろそろ始めようか!」

「えぇ、そうね」


 ステラとブラクリは歩き始めて、お互いの距離を縮める。

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