第664話 クロの休日!

 私はパーガトリークロウのクロ。

 主は第四柱魔王のタクト様。

 現在の神エリーヌ様でなく、前任者の神ガルプ様の眷属として、このエクシズで活動を行っていた。

 私には他にも二匹の仲間が居た。

 しかし、ガルプ様から受けた任務内容が異なるのか、顔を会わせる事も年々減って行った。

 ガルプツーは、ガルプスリーに利用された挙句に殺された。

 同族が悪事に手を染めるのは我慢ならないが、ガルプスリー曰く、ガルプ様の意思だと言う。

 私には、ガルプ様からそのような事は聞いていない。

 ただ、このエクシズと言う世界を観察して報告する事が最優先の任務だった。

 ガルプツーは主の婚約者であったエルドラード王国第一王女のユキノ様を殺害した。

 主の怒りは伝わって来た。

 同時に同族である私に対して、ガルプツーを殺す事を詫びてもいた。

 口には出さないが主は、とても優しい方だ。


 主から休暇を頂いたが、特にする事は無い。

 私が主の為に出来る事として、ユキノ様を影ながら警護する。

 もう、悲しむ主の姿を見たくない。

 それに私自身、この調査等をする事が性に合っている事に気が付かされた。


 分かってはいたが、ユキノ様は以前のように主を慕っていた記憶は無い。

 しかし、主が贈った髪飾りは必ず着けている。

 使用人が別の髪飾りを用意しても必ず、主の贈った髪飾りを着けていた。

 記憶とは別の何かが、ユキノ様をそのような行動をするようにしているのだろうか?

 もしかしたら、いつか主の記憶が戻るのかも知れないと期待をする。

 しかし、この事を主に報告すれば変に期待をさせてしまうかも知れないので、報告はしないでおく事にする。

 ユキノ様の御父様で国王でもあられるルーカス様が、主に指名クエストを発注する話をしていた。

 国内最強の冒険者である、主にしか頼めないクエストのようだ。

 従者としても聞いていて気持ちが良かった。


 以前に主が私の【影移動】や【影捕獲】等のスキル習得を考えていた事があったが、スキル値消費のリスクを考えると、おすすめは出来ない。

 主を危険に晒す事は従者として、犯してはいけないことだ。


 主も私に依頼する時に、シロと比べて能力が発揮しやすい方を選んでいる。

 だからこそ、依頼された時は主の期待以上の事をしようと考える。

 これは、シロも同じ考えだろう。

 私には仲間という存在が今迄、存在しなかったに等しい。

 ガルプツーや、ガルプスリー等は同族でガルプ様の眷属であったが、協力して何かをしたという事は一度もない。

 主は私やシロの事を仲間や家族だと言ってくれる。

 とても有難く、勿体無い言葉だと思う。


 ユキノ様の警護をしていると、主を兄のように慕っていた狐人族のライラ様の姿を発見する。

 ライラ様もユキノ様同様に、主の事は覚えていない。

 主に憧れるかのように冒険者になり、主の背中を追いかけていた彼女は今、何を目標にして努力を重ねているか、とても興味があった。

 私達には無い、人族の強さの一端に触れられるかも知れないからだ。

 主の為に今以上、強くなる必要がある。

 それはシロも同じ事だろう。

 シロの事なので、私同様に休暇と言われて素直に休暇を取っているとは考え辛い。

 私と同じ位、主の事を大事に思っている筈だからだ。


 シロは【魔法創製】というユニークスキルで新しい魔法を作り出すことが出来る。

 私には無いスキルだ。

 しかし、私も自分のユニークスキルが増えている。

 対象者の行動を一定時間制限出来る【影縫い】や、影の縄で相手を縛る【影縛り】等だ。

 どちらも行動制限のスキルだが、使い勝手が違うので私の判断次第では、使えないスキルになる事もなる。

 影から炎を出す【炎影】は実戦で使用してみたいが、なかなかとその機会が訪れる事が無い。

 戦闘が無いと言う事は良い事に違いない。

 しかし、主は戦闘になると自分で全て片付けようとする。

 主の強さであれば、問題無いが万が一という事もあるので、心配な時もある。

 そう、覚悟はしているとはいえ、主が初めて冥界に足を踏み入れた時は、口では信じていると言ったが、とても心配した。

 何日も目を覚まさない主だったが、私とシロは信じるしかなかった。

 出来れば、あのような事は二度と起きて欲しくないと思う。

 主は優しいので、その時も笑って「心配するな」と言うだろう。

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