第649話 自尊心!
ウォンナイムは、天井近くまで飛び上がる。
高い天井なので、ウォンナイムの姿は半分程の大きさになる。
上から指先程の大きさはある水のようなものが降って来た。
よく見るとウォンナイムが、口から唾液を飛ばしていた。
俺が避けると唾液が当たった場所から、嫌な臭いと煙が出ていた。
どうやら、酸を多く含んだ唾液を飛ばしたようだ。
俺はオークロードの事を思い出す。
オークロードの唾液も酸を多く含んでいた。
ウォンナイムは、その後も爆弾のように唾液を吐き続ける。
異臭が部屋全体に広がる。
ネイラート達が大丈夫かと気になり、見てみるとシロとクロが護衛している。
その様子を見て安心をした。
ウォンナイムは上空からの攻撃で、俺が手出し出来ないと思っている様で、高笑いしている。
避けている俺を笑っているのだろう。
姿を消すスキルがあるのに使用しないのも、俺を見下しているのだと感じる。
仮にも『魔王』の称号を持っている俺が弱い筈が無いと思うが、人族の中でも最弱と言われる人間族なので、最初から馬鹿にしているのだろう。
それと、俺に倒されたプルガリスの事も馬鹿にしているのかも知れない。
「第三王子のタッカールは殺したのか?」
馬鹿にされているついでに、ウォンナイムに質問をする。
「それが彼との契約だ」
「契約?」
「好きな物を与えるから、自分を次期国王にして欲しいと頼んで来た」
「……好きな物ってのは、タッカールの命だったという事か?」
ウォンナイムの吐き出す唾液を避けながら会話をする。
唾液を吐きながらも会話をするウォンナイムは、かなり余裕なのだろう。
「違う。私が欲したのは、このシャレーゼ国だ」
「成程ね。上手い事言って、取り入ったわけか」
「何を言っている。この国は私のおかげで成り立っている国だ。それを身分も弁えずに私達に命令する等、思い上がりもよいところだ」
話しながら思い出したのか、ウォンナイムは苛立っているように見えた。
「魔族に劣る人族。それも最弱な人間族の国が今迄、滅びずに魔族や他国から攻撃されなかったのは私が居たからだ! そこの第一王子も知っている事だ」
俺はネイラートを見ると、罪悪感があるのか下を向いていた。
イエスタや、他の騎士達も知っていたようだ。
「建国より何百年と私が居たお陰で、国も滅びずに済んだ事も忘れる人間族は、本当に愚かな種族だ」
どうやら、タッカールはウォンナイムの逆鱗に触れて、殺されたようだ。
このシャレーゼ国に魔族が少ない理由が、これで良く分かった。
決して国の面積等が原因では無かったようだ。
「丁度良い。魔王であるお前を殺した後に、エルドラード王国へと攻め込んでやる」
「お前に俺が殺せるのか?」
俺は【分身】を使い、四人になる。
「……私と同じスキルを使うのか」
ウォンナイムが驚いている。
俺は四人同時に【飛行】を使い、ウォンナイムに攻撃をする。
「空を飛ぶだと! それに同時に動けるとは!」
「やはり、お前のスキルは同時に動けなかったようだな」
「そんな馬鹿な……私のスキルよりも格上のスキルを使えるとは……人間族の分際で!」
ウォンナイムは、プライドが高いのか格下の俺が自分よりも格上のスキルを使う事が我慢出来ないようだった。
俺はウォンナイムが、自分のスキル名を口にしなかった事が、唯一の救いだった。
スキルの内容は理解しているので、スキル名を知ればスキルを習得してしまう可能性があったからだ。
ウォンナイムの羽根を強引に千切ると、ウォンナイムは飛ぶことが出来ずに床に落ちる。
「くそっ!」
ウォンナイムは姿を消す。
俺は【飛行】を使い、上空から観察する。
「ん?」
ウォンナイムの背中が見える。
どうやら、前方や左右方向からは擬態のようなもので姿を消す事が出来るようだ。
分身のような能力や、この消える能力を見る限り、ウォンナイムのスキルは不完全だと感じた。
このシャレーゼ国に引き籠っていたせいで、人間族の強さを基準にしているので、自分が物凄い存在だと勘違いしてしまっているのだろう。
俺は背中に【火球】を撃ち込む。
「ぐぁっ!」
ウォンナイムが悲鳴を上げる。
まだ、殺すわけにはいかない。
ウォンナイムには、聞きたい事があるからだ。
俺は下りると、倒れているウォンナイムに向かって歩く。
「プルガリス様より、魔王になれるとまで言われた私が、こんな人間族に敗れるなど……」
この実力で本当に、魔王なれると思っていたのだろうか?
プルガリスにいい様に使われていただけだと思う。
とりあえず、俺はウォンナイムに質問を始める。
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