第638話  対戦後の処理!

 戦闘が終わり、俺のせいで闘技場で小火騒ぎが起きていた。

 カルアや、他の魔法士等が消火活動していたので、俺も責任を感じて火を消す。


「なんで、私の多重結界が簡単に壊されるのよ」


 カルアは消火活動中、俺に文句を言う為に近寄って来た。

 俺は「悪かった」と謝るが、自分の魔法に自信を持っていただけに俺への当たりが強い。

 魔法を使えない者達は誘導したりしていた。

 この場合、俺が悪者になるのだろうか?

 賠償金等も俺が支払う事になるのだろうか?

 支払えなければ、どうなるのだろうか?

 今更ながら、俺が【結界】を張っておけばよかったと後悔する。


 コスカは騎士団が連れて行ったし、ライラも付き添いで付いて行った。

 ライラとは、少し話がしたかったが仕方が無い。


 消火活動中も騎士団の者達は、俺に近付こうとしなかった。

 冒険者と騎士団は、仲が悪くは無い。

 一部の者は、騎士団の役割を冒険者に取られていると思っている者も居ると、以前に騎士団長のソディックに聞いた事がある。

 今回は、俺が冒険者の最高ランクだと知っているので、うかつに近寄らずに様子を見ている者が多いのだろう。


 消火活動も終わり、一息ついているとカルアが又、やって来た。


「なんだ、文句でも言いに来たのか?」

「違うわ。ロッソ様の親友って言うのは本当なの?」

「さっきも言ったが、茶飲み友達だな。デュラハンのエテルナも知っているぞ」

「……エテルナ様も知って居ると言う事は、本当なのね」

「あぁ、覚えてないだろうが、カルアから預かった指輪をこの間、届けたしな。それと、その深紅の耳飾りもロッソから受取って、カルアに渡したんだぞ」

「そう……」


 カルアの記憶が曖昧になっているようで、思い出すように考えていた。

 どのように辻褄を合わせているのかが、非常に気になるが俺が何をしようと変わるわけではない。

 もどかしいような不思議な気分だった。



 今回の件は、国王でルーカスの耳にも当然入る。

 護衛衆達が俺に倒されたのだから、心中穏やかでは無いかも知れない。


 観戦していたジラールとへレンは、俺を探していたのか、俺を見つけると駆け寄って来た。


「どうした?」

「いや、そのだな……ランクSSSの実力は凄いな」


 お世辞なのか分からないが、ジラールは戦いの感想を言う。


「もう帰るのか?」

「そうだな。タクトと一緒に戻ろうと思っていたから、探していた」

「俺に話でもあるのか?」

「あぁ、少しでいいから時間取れるか?」

「飲み物は、そっち持ちだぞ」

「あぁ、いいぞ」


 俺はこの状況で勝手に居なくなっても良いのかと、質問をする。


「私から報告しておくわ」

「そうか。護衛衆でも無いのに、余計な仕事を頼んで悪いな」

「別にいいわよ」


 俺はカルアに甘えることにして、挨拶をして帰る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「それで、話と言うのは?」

「あぁ、最初に再度確認するが、グラマスをするつもりは無いか?」

「全く無い」


 俺は即答する。

 理由を聞かれる前に「面倒だ」「人望が無い」等と話す。


「タクトがグラマスをする気が無い事は、よく分かった」

「それで、本題は何だ?」


 それ程、親密でない間柄で個人的な話などと言う抽象的な誘いは、絶対に面倒な話だとは分かっていた。


「どうしたら、そこまで強くなれる?」

「はぁ?」

「だから、タクトのように強くなるには、どうしたら良いのかと聞いている」


 ……予想外に、純粋な質問だった。


「そうだな。無理をせずに毎日、鍛錬を怠らない事だな」


 俺は回答に困り、適当な事を言う。

 最初から強かった俺には、まともな回答が頭に浮かばなかったからだ。


「そうか。当たり前の事を当たり前にする事は、確かに難しい事かもな」


 ジラールは俺の答えに納得していた。


「冒険者の底上げでも必要なのか?」

「まぁ、そういう事だ」

「ゴブリンロードや、オークロードの出現はまだ数年先だろう。それに出現位置もある程度は分かる筈だ。急に冒険者の底上げが必要な理由って……」


 俺は話の途中で気が付く。


「シャレーゼ国との戦争を考えているか?」

「その可能性があるかも知れないからだ。ギルドとして国からクエストが発注されれば、従うしかない」


 確かに、ジラールの言う通りだ。

 ギルドに拒否権は無い。

 冒険者も傭兵としてクエストを受注する事もある。

 護衛クエストの延長だ。

 ここ何十年も国同士の戦争は起こっていない為、傭兵のクエストも発注される事は無かった。


「出来るだけ、死者を出したくないんだな」

「その通りだ」


 近々、大きな戦争があるので、冒険者に強くなれとは表立って言えない。

 向上心の無い冒険者の中には、今の生活で満足している者も居る。

 率先して、人殺しが起きている戦場に行く者も少ないだろう。


 俺としても、関係の無い者達が多く犠牲になる戦争は回避したい。


「シャレーゼ国には、ギルドは無いんだよな?」

「あぁ、冒険者という者自体、存在しない」

「シャレーゼ国に入国しても、問題は無いんだよな?」

「あぁ、入国自体は問題ない。しかし、シャレーゼ国で問題事を起こせば、シャレーゼ国の法律で罰せられる」

「それは、当たり前だな。逆を言えば、シャレーゼ国で問題を起こして、エルドラード王国に戻って来たら、罪になら無いという事か?」

「いや。シャレーゼ国側から、身元引渡しの要請があるだろう」


 国外逃亡は出来ず、国際指名手配のようなものなのだろう。


「……何を考えている」

「さあな」


 俺は惚けるが、ジラールとヘレンは俺がシャレーゼ国へ行くと、確信しているだろう。

 しかし、俺が問題ばかり起こしていた昔の記憶は無いので、それ程警戒はしていない。

 こういう場面では、記憶を消された事がメリットになっていると感じた。

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